HOME > PDNレクチャー > Ch.2 経腸栄養 > 3.病態別経腸栄養剤 1.病態別経腸栄養剤とは?
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記事公開日 2011年9月20日
2015年10月23日改訂

1.はじめに

患者の栄養状態や病態に合わせた適切な経腸栄養剤の選択は、経腸栄養法成功のために重要である。経管栄養を受けている患者の9割以上は、標準的な半消化態栄養剤に十分な忍容性があり、栄養治療効果も優れているが、病態によっては各疾患で引き起こされる代謝障害や栄養素の不均衡に応じて調整された、いわゆる「病態別経腸栄養剤」の利用が効果的な場合もある。正確にはこれらのほとんどが食品に分類されるため、効能効果を明記できるものではないが、ここでは慣例の呼称に基づいて概説する。

現在本邦で発売されている「病態別経腸栄養剤」には、①肝不全用 ②腎不全用 ③糖尿病用 ④呼吸不全用 ⑤癌患者用 ⑥免疫調整栄養剤 の6種類があり、以下概要を述べる。

なお、表中の“pro.:fat:carb.”は、たんぱく質、脂質、糖質それぞれのカロリー比を表わす。

2.各種病態用栄養剤

①肝機能障害用栄養剤

肝臓は栄養代謝の中心的な役割を担うため、特に予備能が低下した肝硬変では様々な栄養障害が高頻度に出現する。代表的な代謝異常は、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の低下、芳香族アミノ酸(AAA)上昇に代表されるアミノ酸のインバランスであり、肝性脳症の一因ともなる。また、タンパク合成能低下による低アルブミン血症の進行によって浮腫や腹水貯留、亜鉛欠乏を引き起こしやすくなる。市販されている肝不全用栄養剤は、いずれもBCAA/AAA比が高く、製品によっては亜鉛強化、オリゴ糖配合(腸内細菌叢改善によるアンモニア上昇抑制作用)、必須脂肪酸強化(肝臓での産生低下を補う)などの工夫がなされている。特に肝性脳症発症患者に経腸栄養を施行する場合は本経腸栄養剤の使用が推奨される3)。さらに、肝硬変患者の早朝空腹時の飢餓代謝防止のための就寝前軽食 ; LES(late evening snack) としての有用性も期待される。

主な肝機能障害用栄養剤

栄養剤名

  kcal/ml pro:fat:carb.

販売会社

へパンED

1.0 14: 8:78

EAファーマ

アミノレバンEN

1.0 25:15:60

大塚製薬

へパス

1.2 13:22:65

クリニコ

②腎機能障害用栄養剤

腎機能障害患者の代謝の特徴は、基礎代謝の亢進、分岐鎖アミノ酸の低下を伴うアミノ酸代謝異常など病期に共通した異常と、保存期と透析導入後で異なる異常があり、病態に応じた栄養管理方法が必要である。カリウム、リン、ナトリウムなど腎負担となる電解質は全病期で制限し、保存期には腎不全の進行抑制ために十分なカロリーを確保しつつ蛋白質は不可避窒素喪失量を補う程度にまで制限する。一方維持透析期は、透析により蛋白質など栄養素の一部が失われるため、十分なカロリーと蛋白質の補給が必要になる。同栄養剤はいずれも水分制限に適した高カロリー組成で、ナトリウム、カリウム、リンを減量し、エネルギー効率の優れた中鎖脂肪酸の比率を多く、また脂質代謝に関与するカルニチンが配合されている。一方、蛋白質含有量には幅があり、必要量に応じた選択がある程度可能である。

主な腎機能障害用栄養剤

栄養剤名

  kcal/ml pro:fat:carb.

販売会社

リーナレンLP

1.6 4:25:71

明治

リーナレンMP

1.6 14:25 : 61

明治

レナウェルA

1.6 2:41:57

テルモ

レナウェル3

1.6 6:40:54

テルモ

レナジーbit

1.2 2.4:25:72.6

クリニコ

レナジーU

1.5 13:25:62

クリニコ

③糖尿病用栄養剤

糖尿病患者の栄養治療の目的は、血糖値の大幅な変動を抑制して可能な限り正常に近い範囲内に維持し、高血糖に伴う各種合併症を防止することである。現在その目的のために2通りの工夫をした栄養剤が発売されている。一つは糖質を減量して脂肪の含有量を増量し、かつ一価不飽和脂肪酸( MUFA ; monounsaturated fatty acid )の割合を多くする方法である。MUFAは血糖値および血清脂質改善効果が期待されている1)。他の一つは、糖質と脂質の比率は標準組成とほぼ同様のまま、糖質の一部を難消化性の糖質(分枝デキストリン、タピオンなど)や血糖上昇に関与しないキシリトールなどに置き換える方法である。また、いずれも十分な食物繊維を含有 (1.4~2.4g/100kcal)しており、胃排出速度と消化管からの炭水化物吸収速度の抑制による血糖上昇抑制効果が期待され、多くの文献のメタアナリシスでも食後血糖上昇を有意に抑制することが報告されている2)

主な糖尿病用栄養剤

栄養剤名

  kcal/ml pro:fat:carb.

販売会社

グルセルナ

1.0 17:51:32

アボット

タピオンα

1.0 16:40:44

テルモ

インスロー

1.0 20:30:50

明治

ディムス

1.0 16:25:59

クリニコ

グルコパル

1.0 20:30:50

ネスレ日本

④呼吸不全用栄養剤

慢性閉塞性肺疾患(COPD)に代表される換気障害を伴う慢性呼吸不全患者では、呼吸活動に伴うエネルギー消費量の慢性的かつ著明な増加により安静時エネルギー消費量(REE)が健常人の1.5~1.7倍に増加し4)、全患者の70%以上に低体重を認める。つまり長期的なPEM ( protein energy malnutrition )にもかかわらず、エネルギー代謝・蛋白異化は慢性的に亢進しており、同化促進のためには十分なエネルギー投与が要求される。しかし肺の過膨張に伴う横隔膜の低下のため、少量で満腹になりやすく、逆に腹部膨満による横隔膜挙上により肺の容量低下を引き起こすため、効率のよい栄養剤が望ましい。さらに代謝で産生する二酸化炭素量を抑制して換気負荷を軽減するために、できるだけ呼吸商 (RQ=消費酸素量/産生二酸化炭素量) の低い栄養組成が適している。表の呼吸不全用栄養剤は、RQの高い糖質量を減量して低い脂肪を増量し、エネルギー効率に優れたMCTを配合している。同栄養剤使用により、高炭水化物経腸栄養剤投与時に比べて二酸化炭素産生が減少することが報告されている5)

主な呼吸不全用栄養剤

栄養剤名

  kcal/ml pro:fat:carb.

販売会社

プルモケア

1.5 17:55:28

アボット

⑤癌患者用栄養剤

癌患者では腫瘍自体の影響や治療の副作用などに伴う食欲低下により、あらゆる病期で栄養状態の低下や体重減少を頻回に認める。低栄養状態では手術や化学療法、放射線療法の適応が制限され、治療効果が軽減するばかりではなく、一部では重症化してがん死以前に栄養失調による死亡をも引き起こす。さらに低栄養はがん性悪液質を発症・悪化させ、患者のQOLに大きく影響する。最近の研究で、がん悪液質を引き起こすがん誘発性体重減少(CIWL)の一因が、がん細胞から分泌される炎症性サイトカインやホルモンによる代謝異常にあることが明らかになった6)。これらはがんのあらゆる病期に関連し疼痛コントロールや抗がん剤への反応など治療効果にも影響を及ぼすが、これに対してω-3系脂肪酸のエイコタペンタエン酸(EPA)によるCIWLの抑制効果が報告された7)。上記目的のためEPAを十分量含有し(約1g/本)、抗酸化物質の亜鉛、ビタミンC、ビタミンEを強化した本栄養剤は、進行膵臓癌患者における標準組成栄養剤との比較で、体重減少抑制効果が報告されている8)

主な癌患者用栄養剤

栄養剤名

  kcal/ml pro:fat:carb.

販売会社

プロシュア

1.25 21:18:61

アボット

⑥免疫調整栄養剤

近年、免疫能・生体防御能に及ぼす栄養状態の影響が明らかになり、栄養状態改善による感染症予防効果を目的とした免疫増強栄養法が注目されてきた。免疫増強作用が期待されるアルギニン、グルタミン、ω-3系脂肪酸、核酸、抗酸化ビタミンなどを強化した栄養剤の生体防御効果が示され、特に待機手術を予定した低栄養患者への術前投与により、術後感染症を含めた合併症の減少、在院日数の短縮が報告されている9)。同効果が期待される栄養剤には以下がある。

栄養剤名

  kcal/ml pro:fat:carb.

販売会社

インパクト

1.0 22:25:53

ネスレ日本

アノム

1.0 20:25:55

大塚製薬

イムンα

1.25 20:27:53

テルモ

メイン

1.0 20:25:55

明治

ところが一方で、重症敗血症患者に上記栄養剤を投与すると逆に死亡率が増加したとの報告が散見され10)アルギニンによる炎症増悪作用が推測された。これに対して、アルギニンを添加せず抗炎症作用のあるEPAやガンマ・リノレン酸(GLA)と抗酸化物質を強化した栄養剤が開発され、肺損傷に関与する炎症性サイトカインや組織伝達物質の抑制作用や、呼吸器機能の改善が期待されている11)。同栄養剤に以下がある。

栄養剤名

  kcal/ml pro:fat:carb.

販売会社

オキシーパ

1.5 17:28:55

アボット

最近では、免疫機能調整作用のある上記両栄養剤をあわせて免疫調整栄養剤と呼ぶ。

3.まとめ

現在本邦で販売されている、いわゆる「病態別栄養剤」を概説した。各栄養剤は各病態で引き起こされうる代謝異常を予防しまた改善するために、栄養組成の変更や特殊栄養素の強化など様々な工夫がなされ、その有用性も報告されている。但し、疾患名があれば必ず同栄養剤を使う必要はなく、安定状態では標準組成の栄養剤の使用に全く問題はないことが多い。栄養状態や病態に応じた選択肢の一つとして理解すべきであろう。

文献

  1. Elia M et al : Diabetes Care 28 : 2267-2279, 2005
  2. del Carmen Crespillo M, et al : Clin Nurt 22 : 483-487, 2003
  3. Plauth M et al : Clin Nutr 25[2]:285-294,2006
  4. Rogers RM et al : Am Rev respire Dis 146 : 1511-1517, 1992
  5. Akrabawi SS et al  Nutrition 12 : 260-265, 1996
  6. Cabal-Manzano, et al:Br J Cancer 84; 1599-1601, 2001
  7. Jho, et al: Am Surg 69; 32-39, 2003
  8. Wigmore SJ et al: Nutr Cancer 36(2); 177-184, 2000
  9. Braga et al: Arch Sueg, 134; 428-433, 1999
  10. Luiking YC: JPEN Jan-Feb; 29(1 Suppl); S70-74, 2005
  11. Gadeck J, et al: Crit Care Med; 27(12 supp): A125 , 1999

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