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Chapter2 経腸栄養
3.病態別経腸栄養剤 
6.オンコロジー用栄養剤


千葉県がんセンター 消化器外科 鍋谷圭宏

鍋谷圭宏
記事公開日 2011年9月20日

<Point>

  1. がん患者に対しても標準的経腸栄養剤を用いるのが原則であるが、その投与法(ルート)・投与量などは個々の症例の状態や治療法に応じて検討する必要がある。
  2. 悪液質を伴うがん患者に対しては、亢進している炎症反応を制御する免疫栄養療法が有益な可能性があり、そのための特殊栄養成分としてのエイコサペンタエン酸(EPA)を含む経腸栄養剤がわが国でも上市されている。EPA含有栄養剤は、悪液質改善によるQOL向上に加えて分子標的治療を含む抗腫瘍療法の効果を相乗的に高め得るので、今後のエビデンスの集積が期待される。
  3. がん患者の適切な栄養管理は、経腸栄養だけで行える場合はむしろ少ない。消化管を使う栄養管理を優先すべきではあるが、必要に応じて静脈栄養の併施あるいは静脈栄養への移行を臨機応変に行うべきであり、常に個別化した管理が求められる。

1.はじめに

「オンコロジー用栄養剤」という経腸栄養剤のカテゴリーは現在まだ厳密には認知されていないと思われる。しかし近年、がん患者の病態とくに悪液質の解明が進み1~7) 、がん診療(治療)における栄養管理の意義が以前より認識されるようになった。すなわち、個々の患者のがん進行度(腫瘍因子)とその患者に対する治療(侵襲の種類と程度)に応じた、適切な栄養管理法が検討されるようになった。従って、同じがん患者であっても、手術を中心とした外科的な治療が行われるのか、化学放射線治療など内科的治療が行われるのかによって栄養管理法は異なってくる。とくに手術治療においては、患者が受ける侵襲を小さくして早期回復を図ることが最も重要であり、そのための早期経腸栄養や免疫賦活栄養剤の使用の有用性も報告されている。これらについては次項で述べられるので本稿では割愛し、主に内科的治療における経腸栄養管理とその際に用いる経腸栄養剤について述べたい。

この分野で現時点で最も参考になる文献は、2006年に発表された欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)のガイドライン(GL)である“ESPEN guidelines on enteral nutrition: non-surgical oncology” 1)であると思われる。本稿でもその内容を概説するが、原文も是非参考にされたい。一方で最近では、がん患者の悪液質の病態を改善するような、(外科手術周術期で用いる)免疫賦活栄養剤同様にがん宿主側の因子を意識した「免疫栄養療法」についての新知見が報告されている。まだエビデンスという点では十分ではないが、「病態別経腸栄養剤」の一つとして、本稿のテーマである「オンコロジー用栄養剤」というべき製品(免疫修飾栄養剤)も使用可能である2)ので、概説する。

2.がん患者の病態とくに悪液質とは?

がん治療を計画する上で医師を中心とした医療者はまず腫瘍の進行度(腫瘍因子)を評価する。それにより、治療の指針が概ね決まるからである。しかし、そこで決められるいわゆる標準治療が全ての症例に行えるかというと、必ずしもそうではないことは臨床現場で明らかである。患者の年齢や併存疾患などから侵襲程度のより低い治療法を選択せざるを得ない場合も多い。腫瘍因子だけでなくこうした宿主因子を評価することの重要性は感じていても、実際に注目すべきポイントや栄養管理の意義はまだ十分に認識されていないと思われる。

大多数のがん患者では体重が減少するが、その原因はがんの進行による経口摂取の減少だけではない。分子生物学的にインターロイキン6 (IL-6) を代表とする炎症性サイトカインの増加や、体重減少がみられるがん患者の尿中に出現するたんぱく質分解誘導因子(proteolysis inducing factor : PIF)の増加による代謝動態の変化などが起こり、病態生理学的には局所に始まる炎症反応が全身的に亢進していく1,2)。その結果、インスリン抵抗性の亢進、体脂肪減少、骨格筋蛋白の崩壊を伴う蛋白代謝の亢進(脂肪と骨格筋の両方が消耗することを特徴とする)、さらには急性相蛋白の産生増加などが引き起こされる1,3,4,8)。がんの進行に加えてこれらの代謝の変化も食欲や体重の減少の原因となり、体液貯留(浮腫)を伴う低栄養状態、貧血、全身衰弱などを併せ持つ、がん患者特有の「悪液質(cachexia)」と呼ばれる病態になる1~7)

悪液質はとくにがん終末期に明らかになる5)が、その定義はまだ少し曖昧である。米国のEvansら3)やBlum, Fearronら欧州の緩和ケア研究グループ4)は、体重減少、経口摂取量の低下(10%以上など)、栄養指標やCRP(炎症指標)の異常などを指標として悪液質を定義しているが、日本の緩和医療学会は、「悪性腫瘍の進行に伴って、栄養摂取の低下では十分に説明されない、るいそう、体脂肪や筋肉量の減少8)が起こる状態」としている。こうした悪液質は従来、低栄養とくに異常な体重減少としてのみ捉えられていたが、体重増加を目的に強制的な経管的・経静脈的高カロリー栄養投与が過去に行われたものの、多くは失敗に終わっている5)。その理由は、上記の通り悪液質が経口摂取の減少だけでなく全身性炎症反応の亢進に起因するものであり、単なる高カロリー栄養投与では原因の改善には至らない1~4,6,8)からである。かつて悪液質はがん終末期になると認められる病態と考えられていたが、実際には比較的早期から発生していることが分り1)、腫瘍学的には臨床病期に依存しない予後不良因子である4)。従って、薬理学的あるいは栄養学的介入により悪液質(すなわち担癌による炎症反応亢進や代謝動態の変化)を制御(がん宿主反応を修飾)出来れば、がん患者の予後を向上させることにも繋がり、(カロリー投与以外の)病態別栄養管理の目標の一つとなり得る1~4,6,7)。適切ながん治療とそのための栄養管理を行うためには、これから治療を受けようとするがん患者の宿主反応と代謝の変化を良く理解することが極めて重要である。

3.がん患者に対する経腸栄養の指針(表1

どのようながん患者にどのような栄養療法を行うべきか、というエビデンスの確立が困難であることもあり、個々の患者ごとの適切な対応が必要になる。当然ながら、経口摂食可能であれば通常の食事を中心として管理することが最良である。しかし、ESPENのGL1)では、食事摂取困難7日以上、推測必要カロリーの60%未満の食事摂取が10日以上のがん患者に対しては、出来るだけ早期から栄養補助を開始すること、消化管が使用可能であれば経腸的な栄養管理を優先すること、と記されている。とくに、頭頚部あるいは食道のがんに対する化学放射線治療で粘膜障害が強い症例に対しては、PEGを造設して栄養管理することも(推奨度は高くないが)推奨されている。ただし、造血幹細胞移植の際の栄養管理としては、経腸栄養管理をルーチンには推奨していない1)。これは治療に伴う副作用などの問題を考慮した判断で、経管での栄養剤投与ルートあるいは腸管使用そのものを避けた方が良い症例も存在するので注意が必要である。がん患者では既にPEGが造設してあったとしても、静脈栄養を併用あるいは静脈栄養単独で管理すべき状況があり得ることを忘れてはならない。

表1 手術以外のがん治療領域における欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)の経腸栄養実施ガイドライン1)

十分なエビデンスはないとしながらも、がん患者に対しても標準の経腸栄養剤を用いることが推奨されている。

このガイドラインにおける推奨度は、過去の研究結果報告の内容から以下のようにランク付けされている。

 (A) 少なくとも1つの無作為化試験による研究に基づく

 (B) 無作為化試験によらない比較的十分な研究に基づく

 (C) 専門家の意見あるいは権威者の臨床経験に基づく

  1. 標準経腸栄養剤を用いる。(C)
  2. がん患者に対するw-3脂肪酸投与の有効性については、無作為化臨床試験の結果が相反し議論の余地がある。従って現時点では、w-3脂肪酸の投与が(外科手術前以外の)がん患者の栄養状態や身体機能を高めるという確固たる結論は得られておらず、進行がん患者の生存期間を延長させることは考えにくい。(C)
  3. 造血幹細胞移植患者に対するグルタミンやエイコサペンタエン酸の経腸的投与は、有効であるとの結論がまだ得られていないので、推奨されない。(C)
  4. 経腸栄養剤に加えての薬物治療について:
  • 全身の炎症が存在する患者では、栄養管理に加えて炎症を制御する薬理学的介入が推奨される。(C)
  • 悪液質を伴う患者では、食欲亢進、代謝異常の改善、生活の質の低下予防のために、ステロイドやプロゲスチンの投与が推奨される。(A)
  • ステロイドは、少ない副作用で高い効果を得るために、短期投与とすべきである。(A)
  • プロゲスチン投与中は、血栓のリスクを念頭におく。(C)

一方でESPENのGL1)では、術前の免疫増強栄養剤内服以外は、がん患者にも「標準的経腸栄養剤」を用いることが推奨されている(GLの抜粋を表1に示す)。すなわち、がん悪液質を念頭においた特殊な病態別経腸栄養剤でRCTにより有用性が証明されたものはまだ存在しない1)。経腸栄養管理を行うとすれば、通常の栄養剤(半消化態で良いと思われる)を用いて、個々の患者の病態・治療や全身状態に応じた投与ルート・速度で管理すれば良い。ただし、上記の造血幹細胞移植などの際には注意が必要である。

また、直接に栄養剤の選択とは関係しないが、終末期や悪液質を伴うがん患者では炎症が亢進しているとの前述の知見1~7) を踏まえて、炎症の制御のための薬理学的介入が推奨されている(表1)。具体的には、RCTによるエビデンスのある推奨度Aとして、悪液質のあるがん患者に対するステロイドやプロゲスチン(人工的に合成されたプロゲステロン類似化合物)の投与が食欲増進や生活の質の改善に有効であるとしている1,4)表1に示すように、この項目が唯一高い推奨度Aを得ているが、他は「専門家の意見あるいは権威者の臨床経験に基づく」レベルの推奨度Cである。従って、ステロイドによる炎症制御の有用性を唱えていながら、同様の効果も期待されるエイコサペンタエン酸(EPA)8) を含む免疫修飾栄養剤の使用は逆に推奨していない(標準的経腸栄養剤の使用を推奨)1)。EPAは魚類、とくにイワシやサバなどの青背の魚の魚油(fish oil)に多く含まれるω−3脂肪酸の一つであり、主にその代謝産物であるリゾルビンを介して、炎症性サイトカインの産生を強力に抑制する8)。さらにEPAは、PIFのレベル・活性を低下させることなどにより炎症を抑制するとされる2,7)。しかし、進行がん患者ではRCTによるエビデンスは確立しにくく、ステロイド使用以外は全てまだ手探りの状態である。そのため、ESPENのGL1)とはいえ推奨度の低い項目が多いのが特徴で、わが国のみならず欧米でも症例ごとに個別化対応が必要なのが現状であろう。しかし、近年新しい知見も報告されつつあり、がん患者に対する栄養管理の第一目標は必ずしも体重増加や栄養指標の改善ではなく(これらは達成が容易ではない)、症状や抗腫瘍療法の副作用の緩和(治療継続性の維持)、感染症リスクの軽減などQOL向上を目指すべき時代になってきている1)。

4.がん患者に対する免疫栄養療法の可能性(表2

今世紀に入り、免疫栄養(immunonutrition)という概念が提唱されるようになり8)、様々な免疫賦活作用を有する特殊栄養成分が臨床応用されている。がん治療においても、前述のように明らかなエビデンスはないものの、がん悪液質に対する特殊栄養成分としてのEPAの効果2,7,8)が注目されている。Fearonら7)は、終末期膵癌患者にEPAを含有する栄養剤を4~8週間投与して、栄養状態の改善や生存期間の延長を検討した前向き臨床試験の結果を2006年に報告している。その結果、EPA製剤は体重減少を抑制しQOLの向上に役立つことが示され、投与量としてはEPA 2g/日が最適であった7)。一方で、生存期間の延長は得られなかった7)が、この研究ではEPA製剤投与中に抗腫瘍療法は行われておらず、EPAが効果を示す患者群も特定されていないようである。その後、Fearon自身も含めて、欧州のグループが前述の悪液質の定義を確立していった4)ことで、EPA製剤がより有益となる患者群が選択できる可能性が出た。

表2 がん診療における免疫栄養療法:
   オンコロジー用栄養剤としてのEPA含有経腸栄養剤への期待
  1. 栄養状態を改善し体重減少を防ぐだけでなく、宿主の慢性炎症状態や癌細胞のIL-1→IL-6カスケードの制御などにより Performans Status (PS)を良好に維持する悪液質改善効果が期待される。
  2. 悪液質改善効果は、在宅・緩和医療における栄養管理のみならず、抗腫瘍療法を安全かつ継続的に行うためにも有用である。
  3. EPA投与により腫瘍増殖因子が抑制される可能性があり、EPAそのものが分子標的治療薬の一つとも考えられる。
  4. 分子標的治療を含む抗腫瘍療法の効果を相乗的に高めると考えられ、悪液質改善効果とあわせ生存期間の延長が期待される。

すなわち、McMillanらが提唱したGlasgo Prognostic Score (GPS) 6)や三木らの報告9)に示されているように、CRP高値を指標として選択された悪液質症例では、宿主の慢性炎症やがん細胞のIL-1あるいはIL-1→IL-6 カスケードの制御8-10)など、EPA投与による炎症反応抑制効果が期待出来る。また、大腸癌細胞において、IL-1の抑制により血管内皮増殖因子(VEGF)産生が87%も低下したことが実験的に示されている10)。これらの事実から、悪液質がん患者でもこうした腫瘍増殖因子の産生がEPA投与により抑制される可能性がある。もしそうだとすれば、EPAは今日用いられている分子標的治療薬に似た作用を有し、分子標的治療薬と併用するとその効果を相乗的に高め得ることも考えられる。従ってEPA含有の栄養剤投与は、悪液質改善効果に加えて、がん患者の生存期間を延長(予後を向上)させる可能性も期待される(表2)。

これらのEPAの効果を期待して、食品扱いではあるがわが国でもプロシュアTM(アボットジャパン)が最近上市された2)。本製品は、1パック240mLで300kcal、EPAが1g、たんぱく質が16g含まれ、Fearonらの報告7) に従って1日に2パック(EPA 2g/日)の内服が推奨される栄養機能食品である。しかし、引用文献7を始めとするFearonらの研究は終末期膵癌患者を対象としており、今後は他部位のあるいは終末期でないがん患者におけるQOL向上効果についても検討が必要である。さらに、効果発現までに要する内服必要量(期間)がまだ不明であること、わが国では保険適応のない食品扱いであることなどの問題はあるが、EPA含有栄養剤はがん患者に個別化医療を提供するためのツールとして期待される。とくに、在宅栄養管理における有用性2) に加えて、これまで別次元と考えられてきた在宅・緩和医療と化学療法とをシームレスにつなぐ役割を担う「オンコロジ―用」栄養剤の一つとして(表2)、今後、適応症例の選択や適切な使用法の確立を含むエビデンスの集積が待たれる。一方で、こうした特殊栄養剤に過剰に頼ることなく、患者の状態に適した栄養管理を考え実践することが肝要である。

5.おわりに

がん治療における栄養管理の意義は、まだ十分に認識されているとは言い難い。がん治療の中核を担う外科医や腫瘍内科医から見れば、栄養管理が生存率向上などのエビデンスに直結してこなかったことが問題と思われる。EPA含有経腸栄養剤による免疫栄養療法は「オンコロジー用」として有用性が期待され、今後のエビデンスの集積が待たれる。しかし、がん患者の栄養管理を経腸栄養だけで行える場合はむしろ少ない。経口や経管(胃瘻を含む)で消化管を使う栄養管理を優先すべきではあるが、患者ごとにコンプライアンスも異なり1)、不十分な栄養管理にならないように静脈栄養の併施あるいは静脈栄養への移行も臨機応変に行うべきである。がん治療は、標準治療から個別化治療へ移行しつつある。栄養管理も、栄養剤のみに過剰に期待するのではなく、症例ごとに最適な方法を常に考え実践することが、がん患者のQOLや予後の向上につながるであろう。

文献

  1. Arends J et al: Clin Nutr 25: 245-259, 2006
  2. 石橋生哉ほか:静脈・経腸栄養(第3版)、日本臨牀社、東京、p683-686, 2010
  3. Evans WJ et al: Clin Nutr 27: 793-799, 2008
  4. Blum D et al: Support Care Cancer 18: 273-279,2010
  5. Bozzetti F, et al: Gut 35(1 Suppl): S65-S68,1994
  6. Forrest LM et al: Br J Cancer 89: 1028-1030, 2003
  7. Fearon KC et al: J Clin Oncol 24: 3401-3407, 2006
  8. 三木誓雄ほか:外科と代謝・栄養 45: 85-88, 2011
  9. Miki C et al: Dig Dis Sci 49: 970-976, 2004
  10. Konishi N et al: Oncology 68: 138-145, 2005

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