第1回口臭ってなんだろう?

●はじめに

  映画、Once upon a time in Americaでの一場面ですが、愛しい恋人の吐息のことを「君の息はまるでリンゴのよう!」という表現があります。このように生きている人間の息にまったく匂いがないということはありません。しかしその臭いが相手にとって不快かどうかが口臭では問題になるのです。

 口臭については最近とくに、日本人の清潔意識と豊かになったライフスタイルにより若者を中心に敏感に感じられるようになってきましたが、絵画にも見られるように日本でも、昔から身近な問題であったようです。しかし今までは口臭が十分な科学に基いた医学によって解明されてこなかったため、誤った解釈で対応されることも少なくありませんでした。
2001年7月に第5回の国際口臭学会が東京で開催されたことを機会に日本でも口臭について正しい知識がさらに広められ、口腔の健康状態の改善、ひいては口腔の細菌によって引き起こされる様々な全身的な疾患の予防につなげられると思います。21世紀、人生80年時代、クオリティオブライフの向上のため患者を中心としたより侵襲の少ない、より快適でまた経済的にも社会環境にマッチしたPEGのような医療が求められています。 

 歯科でも患者中心の医療、より幸福にかかわる快適さをもとめた予防や審美治療へ向かっています。しかしちょっと視点を変えてみるとこのままでは不充分であり早急に改善すべきと思われる分野もあります。口臭はお口の細菌によって引き起こされますが、お口にはカビ(真菌)を含む300種類をこす常在菌がいるといわれます。 最近、寝たきりの高齢者と誤嚥性肺炎との関係がクローズアップされ高齢者の口腔衛生環境の改善が叫ばれています。私は全身麻酔下での手術を受ける方にも同様な注意が不可欠であると考えます。どんなに優秀な外科医が手術しても、また麻酔医が的確な処置をしても、口腔衛生状態が悪ければ術後性の肺炎に罹患する危険性が残ります。全身麻酔の時、医師は気管に管を挿入しますが、この管は口から舌の上を通過するのです。お口の細菌は普段健康な人にとつては「口臭」ということぐらいの問題なのかも知れませんが、体の条件が悪くなると大変厄介な存在になるのです。

口臭を気にする女性
古くから身近な問題だった≪口臭≫
京都博物館名画より
 その最も顕著な例としてはエイズによる免疫防御機能の低下から日和見感染した口腔カンジダ症があげられます。1999年の朝日新聞に、歯周病はカビの仲間のカンジダが原因であるという説が発表され話題になりました。それによると、神奈川県の開業医がアムホテリシンBという坑カビ剤を歯磨き剤として外用することで(一部内服)これまで治りにくかった歯周病が大変な高確率で改善するとのこと。また同じ年1999年のアメリカ歯周病学会による歯周疾患の最新分類において真菌に起因する歯肉疾患としてカンジダやアスペルギウスなどについても考慮されました。お口の中にはこのようなカビもごく一般的に生存しているのです。とくにアスペルギウスによって引き起こされた肺炎は大変予後が悪いため内科医にとっても恐れられています。

  さて、前置きが大変長くなりました。この機会に口腔衛生の指標ともなるごく身近な口臭について数回にわたり述べさせていただきます。それにより命にも関わる全身の病気との関連について様々な角度からご検討いただければと思います。皆さんの健康に少しでもお役に立てますように!

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