●口腔ケアの実際

  口腔ケアとは、一般的にはお口の衛生状態の改善のために行う、ブラッシングなどの口腔清掃のことを言いますが、最近では、摂食・咀嚼・嚥下などの、食物をお口から食べるための訓練まで含めたものをさすようになりました。すなわち、口腔の疾病予防、健康の保持や増進、リハビリテーションによるQOLの向上を目的とした介護や医療分野での、科学に基づいた技術であると言えます。

  基本は歯ブラシなどで口腔内を清掃し、口腔細菌をできるだけ減少させることです。しかし対象となる方の状況は千差万別であり、それぞれのケースで専門的な工夫が必要になってきます。

<基本的な注意>
 ブラッシング時の誤嚥を防ぐための配慮が最も重要です。そのため、可能ならベッド上ではなく、なるべく洗面所で行います。ベッド上で行う場合は、吸引装置や適切な消毒薬、市販の液体はみがきやリンスなど<注1>ご本人が好むもので消毒効果が期待できるもの(私は好んで強酸性水<注2>を使用します)が必要になります。
 またベッド上では体位も重要です。可能なら座位、またはファーラ位<注3>で行います。上半身が起こせないようであれば側臥位または横臥位で顔を横にして行います。もし麻痺がある場合は健側を下にして行うことはとても重要です。

<注1:市販の消毒薬>
  セルフケアが困難な場合は発泡しないリンスが好ましいが、市販のものは消毒剤が低濃度のため、それほどの殺菌効果は期待できない。病院で処方可能なイソジンガーグル(ポピドンヨード)やネオステリングリーン(塩化ベンゼトニウム)などは、抗菌作用は良好だが、粘膜に対して刺激が強すぎる等の副作用もある。医薬部外品のコンクールなどグルコン酸クロルヘキシジンを主成分とするものは世界中で広く使用されている。

<注2:強酸性水>
  水を電気分解することで作られる機能水で(pH 2.0~3.0、酸化還元電位1,100mV、遊離有効塩素濃度10~50ppm)、細菌、ウイルス、真菌に対して強い殺菌作用を有する。しかし化学物質、抗生剤などの殺菌、消毒剤と比較し、生体に対する影響や、耐性菌の出現の可能性が非常に小さいのが特徴である。当医院での口臭治療の際に強酸性水10秒間5回のうがいを行うことと舌のクリーニングで、大部分のケースでハリーメーターの値を大幅に減少することができた。しかし生成器によりそれぞれの強酸性水は若干性質が異なる。当院で使用している強酸性水はほとんど刺激臭がなく長期保存(室内保存で30日)でもpH、酸化還元電位がほとんど変化しない(都立衛生研究所調べ)。他の製品で作製された強酸性水の中では塩素による刺激臭が強く口腔内に使用できないものも多い。

<注3:座位・ファーラ位>
  座位・ファーラ位は最も気道に誤嚥しない体位といわれている。
座位(起座位):上体をほぼ垂直に起こした体位。背中ややひざの下にクッションを置いてもよい。
ファーラ位:頭部を45~60度挙上した体位。半座位のこと
セミファーラ位:ベッドの頭部を約25~30センチ挙上した体位)

 


強酸性水の精製機



姿勢と体位