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過剰肉芽の物理的切除(方法と注意点など)



上富良野町立病院外科医長・副院長
兼古 稔


 昨年筆者はPDN通信15号に胃瘻造設部の過剰肉芽とその対処法と題して寄稿しました。

 その中で述べましたように当院では過剰肉芽に対する治療の第一選択はステロイド軟膏塗布ですが、これで治癒しなかった場合の方法、対策、注意点などについて説明します。

 なお、本稿をPDNに投稿することはあらかじめご家族に同意を得ておりますことを明記いたします。



過剰肉芽の物理的切除1

患者さんは71歳男性。くも膜下出血術後の脳梗塞あり、他院で胃瘻造設及び脳室シャント手術を受けた後、当院内科に転科、その後在宅フォローになっています。平成18年12月頃より胃瘻造設部の過剰肉芽発生し、平成19年1月に当科を受診しました。
写真の通り、8×7mm大の過剰肉芽の瘻孔の右側に認めます。瘻管は右側に傾いており、ボタンにより右側だけに刺激が加わり続けたために過剰肉芽を形成したと思われます。
2週間のエクラー軟膏塗布でやや肉芽が縮小しましたが治癒に至らず、軟膏使用を停止したところ、元の大きさに戻ってしまったため、肉芽切除術を行うことにしました。


過剰肉芽の物理的切除2 まず、局所麻酔薬を創近辺に注射します。過剰肉芽は非常に出血しやすいため、肉芽そのものには注射せず、周囲の皮膚に浸潤させるのがコツです。又注射器は出来るだけ小さいものを使い、注射針も出来るだけ細いものを使うのもコツの一つです。
 術後の出血を抑えるにはエピネフリン入りの局所麻酔薬を使うのもコツの一つですが、今回は院内在庫がなかったため使用しませんでした。


剰肉芽の物理的切除3 バネ力の弱いピンセットで肉芽を牽引し、11番のメスで肉芽を根部から切除していきます。今回はアドソンの無鈎摂子を使いましたが、バネ力が弱ければもう少し幅の広いピンセットの方が作業しやすいと思います。出来るだけ一度にすぱっと切り取る方が出血量も少なくできます。
 ただ、今回は一度ステロイド治療を行ったためか、予想よりは出血量が少なかったです。


剰肉芽の物理的切除4 切除後です。ガーゼで拭き取った直後ですので出血が目立ちませんが、じわじわと出血してきます。肉芽がもっとも増殖の強いときには、かなり激しい出血となりますので、十分止血の準備をして行う必要があります。


剰肉芽の物理的切除5 そこでアルギン酸塩ドレッシング材を当て、5分間圧迫止血します。5分後、指を離してもドレッシングから血液があふれてこないようであれば、ドレッシングを剥がさずに上からガーゼを当てておきます。


剰肉芽の物理的切除6 術翌日の状態です。アルギン酸塩ドレッシング材は水分を含むとゲル化しますので、水道水でひたひたに濡らしたあと、静かに剥がせば再出血することはありません。


剰肉芽の物理的切除7 ここからは普通の創傷治療と同じになります。今回の過剰肉芽の原因は、瘻管の傾きにより瘻管の右側が刺激を受け続けたことと考えられます。そこでハイドロサイトを図のように当て、PEGボタンが右側に傾かないよう矯正します。また、この日から再びエクラー軟膏を創部に塗布します。


剰肉芽の物理的切除8 術後1週間目の状態です。大きさ1mm弱の小さい肉芽は残っていますが、あとはほぼきれいに治癒しました。このあとは、瘻管の傾きを補正するように、ご家庭でウレタンスポンジなどを使って矯正して頂くだけとなります。



 今回は術前にステロイドで一度治療を試みたため、肉芽の血流が少なかったのですが、大きい肉芽の場合は最初から切除し、術後にステロイドという流れになります。この場合は出血量はより多くなりますので、術前には少なくともアルギン酸塩ドレッシング材やトロンビン末を用意する必要があります。出来れば電気メスがあった方が良いでしょう。また、局所麻酔剤はエピネフリン入りのものを使う方がよいでしょう。

 また、肉芽が何故起きたかについて考察することは非常に重要です。今回のようにはっきり瘻管の傾きが原因と同定できる場合には、傾きの補正で再発を防げることがあります。ただし、この場合、今度は瘻管の反対側に過剰肉芽が出来ることがありますので、注意深く観察し、肉芽が出来てきたら早めにステロイド軟膏で処置しましょう。