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介護保険下でPEGメイトが快適な在宅療養生活を送るために

済生会三田訪問看護ステーション 所長
ケアマネージャー
WOC認定看護婦

藤原 泰子
藤原 泰子

●はじめに
介護保険がスタートして早1年が経過した。この1年の介護保険使用による在宅介護サービス(通所や短期入所介護も含む)の利用が伸び悩んでいる。新聞報道によれば、各自治体が立てた介護保険事業計画に対する実際の利用割合は、全国平均で74%にとどまっているとのことである。(日本経済新聞平成13年3月26日朝刊) 介護保険利用が予想より低い原因には、介護保険利用のシステムを国民が十分知らないということと、介護保険サービス指定事業者がどのようなサービスを提供しているのか、どのような手続きで利用できるのかがよく分からないのではないかと思われる。

また介護保険下では、ケアマネージャー(介護支援専門員)がケアプラン(居宅サービス計画)をたてることが義務づけられているが、すべてのケアマネージャーがそれぞれのサービス内容を熟知しているとは言い難い現状があると推測している。しかし何よりも介護保険利用の低い原因は、「介護は家族で担う」という昔ながらの考えが浸透している日本人の国民性にあると筆者は考えている。

  少子・高齢化のわが国において、「介護を家族に任せないで社会で支える」というのが、今回の介護保険成立の目的であるが、利用する国民の発想の転換ができない限り、利用者は増加しないと思われる。
筆者は訪問看護ステーションと居宅介護支援事業所の所長を兼務し、訪問看護婦とケアマネージャーとしての役割を果たしている現在の立場から、在宅で療養しているPEG保有者(以後“PEGメイト”と記す)の現状とその問題点についてまとめ、提言したい。多くの読者の皆様からのご意見を伺えることを期待している。

●介護保険開始後1年の状況
1.介護保険利用者の状況
介護保険利用者の中には、月額の保険料さえ払えば希望する介護サービスを無条件で受けられるとか、要支援・要介護認定さえ受ければ、誰かが必要なサービスを提供してくれるなどと思っている人が多い。このように考えている人の多くが、今までの措置制度によるサービスを受けており、介護保険制度開始後もそれが続くと考えていたようである。
また、日本人の多くが家族介護に慣れており、介護保険開始後もヘルパーなどの介護サービスを積極的に利用するひとが少ない。高齢で、協力者もないまま、一人で重介護を担っている多くの介護者に、介護保険の支給限度額の範囲内で介護負担軽減のための社会資源利用を勧めても、家庭内に第三者を入れたくないという考えが強く積極的に利用したがらない。

  さらに、介護保険料の他に利用したサービスの1割を利用料として支払うことに抵抗を感じたり、年金での生活者にはその負担が重過ぎるということも忘れてはいけない。
この状況は、今までの措置制度でのサービスが「他人任せ」だったため、利用者が必要な介護サービスを選択し、その料金を支払うことに慣れていないことによると思われる。介護保険制度は、利用者自らが利用するサービスを選択し、その料金を支払うという仕組みのため、今後は「人任せ」ではなく、「対価に見合ったサービスを買う」という発想の転換をし、利用者自らがサービスの選択・評価をし、苦情をそのままにしないという態度が必要となってくる。

2.サービス提供機関の状況
  介護保険制度開始以前のサービス提供機関への依頼は、行政の措置制度によるサービス提供の依頼が多かったのではないかと思われる。利用者も個人負担がないことから、そのサービス内容を評価しても苦情をいうこともなく、そのままにしていた。そのために、サービス提供機関としては、サービス内容、提供者の教育などをなおざりにしていたと思われる節もある。

しかしながら、介護保険下では、利用者はもちろんのことケアプランをたてるケアマネージャーからもサービス提供機関は選択される。質の保証のないサービス提供機関は、どこからも選ばれることなく、徐々に淘汰されていくことになるであろう。サービス提供機関は、サービスを売るという姿勢、対価に見合ったサービスの提供、多様なサービス提供のできる人材の育成をするなどの発想の転換が求められる。
訪問介護については家事援助、身体介護、複合型介護の区分ができ、サービス提供事業者の予測に反し、最も単価の低い家事援助の利用者が多い。そして、事業者によっては単価の低い家事援助利用の申し込みを敬遠さえしている節も見受けられる。

  訪問看護については、今までの滞在型(30分以上2時間以内)から巡回型の訪問看護が可能となる30分の訪問看護の料金も設定された。1日何回でも短時間の訪問看護が可能になった訳である。ケアプランを立てるケアマネージャーによっては、利用者の状況にあった訪問看護の時間設定ではなく、支給限度額の範囲内に収まるような時間をプラン化し、状況にマッチしないことも多く見受けられる。
訪問看護ステーションも、介護サービスの提供機関の一つとして利用者やケアマネージャーから選択される。看護の質の保証とともに多様なサービスメニューとそれらを可能にする豊かな人材を揃えたステーションでなければ、介護保険下では選ばれなくなるであろう。


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