PEGと施設医療

木村病院

木村 明

●栄養管理上、抑制はやむを得ないのか?
 急激な高齢化社会の到来を背景に、在宅医療の重要性が指摘されている。その中で、栄養法の進歩や医療保険の改正により、在宅経腸栄養法が注目されている。当院においても、1995年4月より経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy : PEG)を開始し、在宅経腸栄養療法に積極的に取り組んでいる。

従来、当院では、消化管機能が温存された摂食・嚥下障害患者に対しては、経鼻胃管による経腸栄養療法が行われてきた。経鼻胃管は、挿入が簡単であり安価であるため各科で用いられてきたが、長期留置に伴う苦痛、管理の煩雑さ、合併症などに問題がある。私は消化器外科の術後の患者から、「経鼻胃管を抜去すると人生が変わる」、「術後の痛みより、鼻の管が苦しくていやだった」という声をよく聞いた。

摂食・嚥下障害患者は、喉に麻痺があるとはいえ経鼻胃管は非常に苦痛であり、経鼻胃管を自己抜去される患者は日常茶飯事であった。長期にわたって経鼻胃管を挿入されていることは、かなりのストレスになったと思われる。頻回に経鼻胃管を自己抜去する患者に対し、やむをえず抑制帯を用いて手足を動かさないようにしたが、患者のQOL(quality of life)に大きな問題がある。

●口から食べられるようになるためにもPEGを
 胃瘻からの経腸栄養療法は、経鼻胃管と比較して、患者のQOL、美容上、衛生面のいずれも勝っている。IVH(中心静脈栄養法)は、管理の煩雑さ、代謝合併症、医療経済(高カロリー輸液は高価)から考えて、長期在宅栄養管理には不向きである。実際、PEG導入後、次々PEGの依頼が来た。しかし、摂食・嚥下障害の患者、家族に胃瘻からの経腸栄養療法は非常に優れていると説明しても、なかには「経口摂取できなければ、生きている意味がない」、「誤嚥しても良いから口から食べさせてほしい」という家族がいる。病院で食事を食べさせるのは、看護婦、言語聴覚士などであり、窒息してしまったときの当事者の気持ち、責任を考えるととても承諾できない相談である。むしろ、少しでも経口摂取を可能にするためにも、胃瘻からの経腸栄養療法で栄養状態を改善させ、嚥下リハビリテーションを行うことが必要であると考えている。

●在宅移行へのカギを握る、施設での指導
 介護保険制度が導入され1年が経過した。介護保険の大きな目標の一つが、「施設から在宅へ」という流れである。しかしながら、紙上では特別養護老人ホームや老人保健施設への入居希望者が増えてきているとの報告がある。理由として、施設の方が利用者の負担が軽い場合が多い、家族の介護負担が大きいなどが上げられる。当院でも、摂食・嚥下障害を有する入院患者を在宅医療に移行させることはなかなか困難である。

PEG導入の一つの目的も、病院から退院し、在宅医療に移行させることである。当院では、嚥下造影検査(videofluorography)などで嚥下評価を行い、PEGの適応の有無を検討する。PEGの適応症例では、胃瘻とはどういうものかをビデオやパンフレットなどを用いて患者・家族に理解してもらい、どうして胃瘻を作る必要があるのか、作った後の日常生活動作はどうなるのか(たとえば、胃瘻造設後の運動制限は全くなく、積極的にリハビリテーションを行うことができる、入浴は、胃瘻チューブを保護せずともそのまま可能であり、むしろ胃瘻周囲皮膚のためには入浴は適している、胃瘻造設後も、誤嚥しない食べ物であれば、経口摂取してもなんら問題がないなど)を説明する。

次に、経鼻胃管や中心静脈栄養などと比較して胃瘻が優れている点、同時に胃瘻造設による合併症についても説明する。胃瘻キッドが口腔内、食道、胃を通過するため不潔となり、術後30~40%の頻度で創部感染が起こることなどを理解していただく必要がある。胃瘻造設後は、患者・家族に胃瘻の構造、使用法などを説明し、さらに退院近くなったらチューブの連結法、注入速度の調節、経腸栄養剤の調合、薬の溶かし方および注入法、チューブや容器の洗浄などについて教育・指導を行う。

●退院後の環境整備が急務
 退院後は、訪問看護婦やヘルパーが定期的に訪問し、患者の全身状態や在宅経腸栄養療法が順調に進んでいるかチェックしている。確かに、胃瘻は、経鼻胃管と比較して管理が容易であり、呼吸器感染などの合併症は少なくなるため、胃瘻は在宅経腸栄養療法に優れている。しかし、摂食・嚥下障害患者は、四肢・体幹の重度な麻痺のため、日常生活動作のすべてに介助が必要な場合が多い。そのため、ただ胃瘻を作るだけで在宅医療に移行するには無理がある。リハビリテーションにて少しでも家族の介助量を軽減させることは必要不可欠であり、さらに家屋改造などの環境整備も施行して、在宅での患者・家族のQOLが向上するよう努力している。

  胃瘻からの経腸栄養療法は、急速に増えている。今後、在宅管理を円滑に行うため、病院と医院が連携した病診連携システムをすみやかに導入すること、胃瘻の知識が豊富な訪問看護婦の育成が必要であると思っている。
「PEGへのご案内」(2001年6月30日発行)より