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PEGで、安心して安全な在宅療養
富士市訪問看護ステーション 主幹

新留とよ子

平成12年4月。公的介護保険が施行され早10ヶ月になりました。訪問看護をしている私は、介護をみんなで支えていこうとするこの保険のねらいに賛成でした。それは、今までのサービスは、入浴やヘルパーの手助けがほしいという利用者の希望よりも、行政サイドの都合でサービスの内容、回数までもが決められていましたし、利用者や家族は“世話になっている”という思いが強く、不平不満があっても我慢を強いられていた状況だったからです。介護保険導入により、利用者は自分にとって必要なサービスを選択できるようになりました。実際、私共の訪問看護ステーションをご利用下さっている患者様やご家族も、各種のサービスを利用しながら在宅で過ごされています。

  先日、私は介護保険の導入に対し、患者様やご家族がどのように感じていらっしゃるのかを聞いてみました。 どの利用者からも二通りの意見が聞かれました。まず、介護保険により各サービスを利用者自身が選べることは大変にありがたい。その一方、入れ替わり立ち替わり人が自宅に来ることは、家族にとって気の休まるときがないという意見がとても多く聞かれたのです。そして次に多く耳にしたのがPEGについてでした。

●Kさんのお話を紹介します
  Kさんは平成4年に脳梗塞を発症し、自宅で療養されていました。同居の娘さんは仕事をしながらKさんの介護をなさっていました。
 デイサービス・ショートステイを利用されていましたが、施設での食事の時や入浴後の水分がなかなか摂れず、施設から帰ってくると“水分が摂れなかったです”と書いてあるコメントと脱水状態すれすれのKさんの姿がありました。施設のスタッフも、極力脱水にならないように水分の補給に努めてくれていますが、大勢の利用者を抱えて一人の利用者にかかりっきりでいられる状況でもありません。

  ショートステイの利用は、介護者の介護負担を軽くするという意味もあるわけですが、サービスを利用することが介護者の娘さんにとってはかえって大変な負担になり、サービスの利用も次第に遠のいてしまいました。介護の疲労、ストレスを抱え、仕事も辞めなければならない結果になってしまいました。そして、娘さんは自分の時間も持てない様な介護に追われる日々が続き、Kさんは脱水状態に陥るたびに入退院を繰り返していました。退院の度に医師や看護婦に“水分を摂るように”と言われましたが、経口摂取ではむせるため、水分補給は家族にとっては大変な事でした。

  平成12年、再発作で入院となりましたが、このときPEGを施行し、在宅療養が可能となりました。あんなに痩せ細っていたKさんも今はふっくらとして、お休みしていたショートステイ・デイサービスも再開しました。施設では、入浴後にPEGから水分が補給され、おやつはみなさんと一緒にいただいて、ノートにも「今日はカラオケをしました。とても楽しそうに過ごされました」というコメントが増えました。現在、食事はきざみ食を経口摂取し、水分はPEGを利用しています。

●介護者の娘さんにPEGについて一言いただきました
  「今まで入退院を繰り返していたのにどうしてPEGを造ってくれなかったのか。平成4年に倒れた時にPEGにしておけば今回のような再発作は免れたのではないかと思います。お医者さんや看護婦さんは水分、水分と言うけど100ミリリットルの水を飲ませるのにどれだけ時間がかかることか。朝から晩まで水分と食事の事で追われていたような気がします。今はショートステイ・デイサービスに行っても脱水の心配もなくなり、私も仕事に復帰できました。

  どうしてこんなに良い物があるのにぎりぎりまで造らないのでしょうか?私は、PEGのおかげで父に対する気持ちも変わりました。余裕ができたというか…水を飲ませるのも食事を食べさせるのも一苦労でした。イライラして、ときに暴言を吐いてはそんな自分を責めてしまう…そんな繰り返しだったけれど、今は精神的にも余裕ができ、ショートステイ・デイサービスも何の心配もなく利用できるようになりました。PEGこそ世間で言われているQOLの向上に役立っていると思います。PEGのおかげで、脱水になることもなく入院もしなくなりました。PEGを造ってもらって本当に良かったです。」

  Kさんのご家族のように、PEGを施行した事により患者様もご家族も安心して在宅で過ごすことができるのです。Kさんの娘さんは若くて車の運転もできますが、私たちが訪問しているご家族の場合、高齢者が高齢者の介護をされているケースが多くの割合を占めています。PEGの施行前は、水分が摂れないことによる脱水は病院で対応してもらわなければなりませんでしたが、病院に連れて行きたくても、介護者が高齢となると、それは困難な事でした。しかし今では、熱が37.5℃位なら水分を補給してみるなど、介護者が自宅でPEGを上手に利用しています。

●訪問看護ステーションでもPEGをおすすめ -安心な在宅療養のために-
 当訪問看護ステーションは平成9年4月に開所しました。利用者の多くはご高齢で脳血管障害の方が多く、摂食障害で嚥下困難のため介護者は毎日が大変な状況でした。
 私はおかげさまで富士市立中央病院勤務で鈴木先生よりPEGについてご指導を受けていましたので、摂食障害の患者様についてはPEGを施行されている方々の在宅でのお話やビデオを用いて、導入をお勧めしてきました。開所から現在まで288人の方が当訪問介護ステーションをご利用くださり、そのうちの123名が訪問看護終了となっています。PEGにより最後まで自宅で看取られた方が40名、訪問看護を終了し他の福祉サービスへ移行された方27名、他の30名の方は在宅での生活が困難となって施設に入所されたり入院先で死亡されています。

  現在68名の利用者のうち、PEGの方は20名です。介護者がご高齢であっても無理なく扱える点も、PEGの魅力かも知れません。又、住み慣れた家で最期を看取りたいと家族が望んでも、患者様が飲まず食わずの状態では身内の心情として到底無理なことです。しかしPEGさえあれば患者様の状態に合わせて、在宅で栄養補給ができます。
 当訪問看護ステーションでもPEGにより在宅で終末を迎えることができた、入院回数が減った、外との交流が増えた等、患者様の生活そのものが大きく変わりました。Kさんのように口からは好きなものを食べ、水分はむせるためPEGからというように、自由自在に利用できます。
 また、鼻から挿入したチューブは、違和感による自己抜去の心配があり、衛生面からの頻回なチューブ交換は苦痛を伴いますし、外見的にも痛々しい気がします。一方PEGの場合は、トラブルが無ければ4カ月~半年に1度の交換ですみますし、外見上も痛々しい等という姿はありません。よほどの理由がない限り、経口摂取が困難となった場合には、PEGを検討する方が望ましいと思います。

  医療の発達に伴って、様々な医療器具を装着した状態で在宅療養を余儀なくされている方が多く見受けられます。在宅療養を支えるには、ただサービスを提供するだけでなく、その人に必要なサービスを提供することが大切です。そして医療も福祉も同じレベルでそれぞれ専門性を活かす事が、保険の無駄使いを防ぎ、公平なサービスの提供に繋がるのではないでしょうか?
 私たち在宅療養を支えていくものの努めとして、利用者やご家族が安全で安心して生活ができるよう支援していかなければならないと、常々思っています。
「PEGへのご案内」(2001年6月30日発行)より