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PEGを有効に活用した嚥下リハビリテーション

鯖江リハビリテーション病院
言語聴覚士

吉川 文恵

●経鼻胃管と胃瘻の違いとは
 言語聴覚士として勤務して、13年になります。当院では、4年前より嚥下リハビリテーションを開始致しました。従来、消化管機能の保たれた嚥下障害患者に対しては、経鼻胃管より経腸栄養剤を投与していましたが、この4年の実務の中で思ったことは、経鼻経管栄養は、長期管理において多くの問題点があるということです。嚥下機能から考えると、経鼻胃管は咽頭壁に接しているため感覚の鈍麻が起こり、咽頭反射が起こりにくくなります。唾液が減少し、鼻腔や咽頭壁に接しているカテーテル周囲および口腔内は痰や粘液で不潔になります。

また、軟口蓋や喉頭蓋に接触していることが往々にあり、嚥下の際に可動域制限を生じやすく唾液嚥下も減少し、嚥下機能の廃用化が進んでいくなどです。音声学的には、軟口蓋の可動域制限から、共鳴や構音障害を受けやすいなどの問題があります。美容的には、経鼻胃管は外観が悪く、重症に感じられるため、外出や交流の機会を拒否する患者がいます。そうなると、訓練室でのリハビリテーションが円滑に進みません。また、経鼻胃管が挿入されているだけでも大変つらいのですが、その上、絆創膏で固定されるため、非常に煩わしく感じます。そのため、自分で経鼻胃管を抜去してしまう患者さんが絶えませんでした。その対策として、リハビリテーション病院に入院している患者さんに抑制帯を使用するのは不本意ですが、抑制帯により自己抜去の予防をしていました。抜去後の経鼻胃管の交換も患者さんにとってかなり苦痛です。経鼻胃管は胃瘻チューブより安価ですが、頻回の自己抜去による入れ換えにより、かえってコストが高くなることがあります。

  胃瘻からの経腸栄養療法は、管理が容易であり、チューブ留置に伴う苦痛がないため非常に優れた方法ですが、嚥下訓練に関しても、カテーテル接触による咽頭反射の影響がない、口腔内自動運動が容易、嚥下時の鼻腔からの空気の漏れがないなどの利点があります。さらに、安全に確実に栄養剤を投与できるため全身状態が改善し、リハビリテーションが順調に進みます。

●経鼻胃管と胃瘻の違いとは
 嚥下訓練は、食事を用いない間接的訓練法から開始して、嚥下造影検査にて経口摂取可能なのを確認してから食事を用いた直接的訓練を開始します。脳血管障
害による摂食・嚥下障害は、機能レベルで大きく2タイプに分けられます。大脳幹部が傷害されたのか、いわゆる仮性球麻痺か球麻痺か、ということを考えなければなりません。球麻痺であれば、ほとんど嚥下反射が起こらない、ごくわずかに回復しても輪状咽頭筋が弛緩しないため食塊が通過しない、などの症状があります。この様な症例では、早期より輪状咽頭筋切断術が行われることがあります。しかし、手術を行っても嚥下能力が向上しない症例もあり、適応については更なる検討が必要だと思います。

また、仮性球麻痺は、多発性脳梗塞の患者さんが多いので、高次脳機能障害を持った方が多く、そういう患者さんの訓練には難渋します。つまり、認知症状がある症例では、訓練内容が理解できない、あるいは今日の訓練を明日には忘れてしまい、毎日がゼロからの繰り返しになってしまうと、リハビリを進めることは難しいですね。痴呆以外にも失語、失行、失認、前頭葉症状などが合併していると、嚥下リハビリテーションは円滑に進みません。

●患者さんを取り巻く環境の改善にもPEGを利用

 さらにリハビリテーションを支えるマンパワーの問題もあります。嚥下障害を有する患者さんの直接法による訓練には、常に誤嚥というリスクがつきまといます。その一部始終に責任を持って付き添うスタッフを、現在のシステムの中でどう確保してゆくかということです。ですから、一概に喉の機能だけの問題ではなく、嚥下障害以外の病態・背景を抜きにして嚥下障害を語ること自体が難しいのです。
 私達は、PEGの有効な利用により全身状態を改善させることで嚥下訓練が可能となり、少しでも口から食事のとれる患者さんを増やしたいと考えています。
「PEGへのご案内」(2001年6月30日発行)より