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ほくりく 医療最前線

  

  おなかにもう1つの"口"

  PEG えん下障害の強い味方



 


  北國新聞 2002年(平成14年)2月25日(月曜日)
  19面(生活)より転載



胃ろうを造った患者を
往診する小川院長
     =金沢市内

へそが二つある、とはオーバーな言い方になるが実際、金沢市に住むえん下障害の七十四歳男性の腹部には、見た目がよく似たくぼみが、へそとは別にもう一つある。本当のへそと違っていろは、そのくぼみから細い管が出ていることと、男性がその管を通して毎日三度の食事をとっていることである。

胃に直接栄養を

  男性にとって"もう一つの口"とも言えるくぼみは「胃ろう」と呼ばれる。物を食べても飲み込めない人や、むせ込んで肺炎を起こす人たちのため、カテーテル(管)で胃へ直に栄養を送りこむために使うものだ。この栄養投与は「PEG(ペグ)」と呼ばれ、欧米では広く行われているが、日本では普及し始めて間もない。
 
  男性は六年前に脳卒中で倒れて以来、口から物を食べても飲み込めなくなるえん下障害を患った。当初は入院しながら、静脈に直接カテーテルで栄養を送り込んだり、鼻の穴から胃に通す管を使って栄養をとっていたが、その間、世話をしていた妻(七一)は半年間、毎日バスで病院へ通う生活を強いられ、疲労がたまっていた。PEGに出会ったのはこの時である。

  夫妻にとって幸運だったのは、長男が高血圧症でかかっていた医師が、北陸PEG・在宅栄養研究会事務局長を務める小川滋彦小川医院院長(金沢市)だったことである。小川院長は北陸はもちろん、日本のPEG普及へ道を開いてきた功労者の一人。小川院長は「口から栄養をとることができない在宅患者にとって、PEGにまさるものはない」と断言する。

  カテーテルは手術で設置し、約二週間で胃ろうが形成される。その後の食事は次のように行なう。栄養剤が入った袋を高いところに設置し、チューブを腹部のカテーテルに接続、胃へと液体を送り込む。一回の食事に約一時間半かかる。液体をチューブで送る要領は点滴のようだが、決定的に違うのは、腕からの点滴は一回につき約百キロカロリーしか摂取できないが、PEGならば約四百キロカロリーの栄養がとれること。成人に必要な一日のカロリー量が最低でも八百キロカロリーであることを考えると、この差は大きい。

食べる訓練も可能

  といっても、一般の方にとって、PEGはにわかになじみがたい方法かもしれない。なにしろ、腹部から見えている管が内臓とつながっている。「腹から胃液が漏れやしないか」「胃に異物が入ったりしないだろうか」といった素朴な疑問が浮かぶが、カテーテルにはキャップがついており入浴も平気だそうだ。

 「胃に管をつけてまで生かすのはかわいそうじゃないか」という声もある。しかし、PEGであれば食事の訓練もでき、事実、男性は少しずつ口から物を食べることを楽しみ始めている。小川院長の往診のかいもあり、在宅医療を続けて五年近くたっ
た男性は、「毎日孫の声を聞くのが楽しみ」と語っている。



胃ろうがつくられた状態を示した図
(NPO法人PEGドクターズネット
    ワークの「胃ろう手帳」から)

昨年末、PEGの浸透に尽くした足取りを本に著わした小川院長は「これからは在宅医療が本格的に増える。PEGをはじめ、在宅医療をカバーする医療機関の知識やケアがもっと必要だ」と指摘している。