第7回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 レポート (2001.10.18)
第7回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会が9月27・28日に府中の森芸術劇場(東京都府中市)で開催された。
メインテーマは「摂食・嚥下リハビリテーションにおけるEBM」(会長:昭和大学歯学部第一口腔外科学教室教授・道 健一先生)。会長講演・教育講演・招待講演・のほか、シンポジウム・一般演題・ポスターセッション・研修セミナーと、多彩なプログラムが複数会場で同時進行されていた。
今回の招待講演は,カリフォルニア大学サンフランシスコ校神経科臨床准教授SusanE.Lagmore先生。「摂食・嚥下障害の診療における根拠に基づく医療の重要性」という演題で講演された。
アメリカにおいても1970年以前は嚥下障害に対する不十分な理解や誤った認識の下、経口摂取不可の評価=経鼻胃管栄養という対応が一般的であったが、1980代以降、嚥下造影や嚥下内視鏡検査により嚥下運動や誤嚥の確認が可能になり、嚥下障害に対する臨床上の関心も高まり、問題の把握および十分な検討がなされるようになったという。
さらに近年、「根拠に基づく治療」が提唱されるようになり、臨床の知識と良質の研究に基づく客観的証拠を統合した医療という概念は、個々の患者に応じた最適な対応、画一的でない治療を模索するようになった(その中には、症例数が増加しているPEGも含まれている)。
摂食・嚥下障害に基因する疾患として最も多く研究されているのは誤嚥性肺炎である。様々な研究、検査に基づく治療は、誤嚥の減少や嚥下機能の改善につながったが、ここでLagmore先生は、「最も重要なのは治療によって患者の健康状態が改善したかどうかであり、誤嚥性肺炎にかかることなく、常食の摂取、体重の増加、栄養状態の改善、食事を楽しむゆとりができることが重要」と強調された。そして、検査・研究そのものがいかなる根拠に基づいているのかも模索していくべきだ、と結んだ。
一方「いかに経管栄養から離脱させ、リハビリを進めて摂食・嚥下障害患者のADLを向上させるか」という内容の口演が多い中、高齢嚥下障害者へのPEG施行例について、広島県三原市・松尾内科病院からの報告があった。
「学会で胃瘻について発表するのは今回で5回目となります。でも正直なところ、胃瘻そのものがどちらかというとあまり良い方法としては紹介されず、毎回学会の流れとは反するような印象を受けます。胃瘻から経口摂取が可能となりADLが向上した症例に対しては、それなりに反響はあったと思われます」と、発表者である同院リハビリテーション科・岡本真弓先生。
以下に、当日の口演抄録を紹介する。
当院における内視鏡的胃瘻造設術を施行した高齢嚥下障害患者に対する検討
松尾内科病院
リハビリテーション科:岡本 真弓、宮下 文子
同 内科 :宇野 弘二、春田 祐郎、松尾 恵輔
【目的】
1994年から長期にわたり中心静脈栄養(IVH)又は経鼻経管栄養を必要とした摂食・嚥下障害のある高齢者に対して胃瘻施行した。今回、胃瘻施行者において胃瘻造設前と造設後(現在)の臨床経過を追跡し比較検討したので報告する。
【対象と方法】
1994年10月から2001年4月まで当院にて胃瘻施行した86例(男性32名、女性54名、平均年齢80.8±2.7歳)において、以下の項目について比較検討した。
【結果】
①精神機能面:胃瘻造設後、34名に自発性、意欲、見当識の向上が認められた。
②栄養管理状態:胃瘻造設前→IVH;81名、経鼻経管栄養;5名。胃瘻造設後→IVH;3名、胃瘻;60名、胃瘻と部分経口摂取;17名、完全経口摂取;6名。
③ADL状況(障害老人の日常生活自立度判定基準):胃瘻造設前→ランクB;4名、ランクC;82名。胃瘻造設後→ランクA;4名、ランクB;7名、ランクC;74名、ランクJ;1名。
④嚥下訓練実施状況:全例に間接嚥下訓練実施。20例に直接嚥下訓練実施し著しく改善した症例が認められた。
【まとめ】
胃瘻造設後、86例中24例(27.9%)に摂食・嚥下機能、ADL能力の改善が認められた。
【考察】
IVHから胃瘻に変更したことにより栄養バランスが良好となり精神機能面の改善につながった。又、精神面の賦活が訓練効果を向上させ摂食・嚥下機能、ADL能力を改善させた。内視鏡的胃瘻造設術は高齢でADL自立度の低い嚥下障害者において有効な手段であると思われる。