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特別寄稿(2001.10.23)

3.脳血管障害の治療


  脳血管障害の治療には、大きく分けて外科的治療と内科的治療があります。最近ではその中間ともいえる、カテーテルを用いた血管内治療も増えてきました。また、いずれの治療法においても、栄養を中心とした全身管理も並行して行わなければいけません。

1)外科的治療

  脳出血のような出血性病変に対しては、基本的には開頭・血腫除去術といって、脳の中の血腫を取り去る治療を行います。もちろん原因が脳動脈瘤の破裂であれば、出血源の動脈瘤をクリッピングして出血しないようにすることも必要です。
 また、脳梗塞の原因が、頚部頚動脈や脳の比較的大きい血管(直径1mmくらい)の閉塞や狭窄であれば、外科的に治療することもあります。頚部頚動脈内膜切除術は、頚動脈の内面にたまった内膜の肥厚した部分を取り去る手術で、内膜を取り去ると血管の内腔が広くなり、血流が増えるのです。また、頭蓋外の血管(頭皮にある血管や足の静脈など)を、脳の血管に吻合してつなげるバイパス術もあります。いずれも一時的に脳の血流を遮断する必要があるので、手術は迅速に行う必要があり、手術顕微鏡や、血流障害を起こさないように脳波や血流の術中モニタリングなどを用いる、難易度の高い手術です。

2)内科的治療

  小さい脳出血や、ほとんどの脳梗塞では、薬物療法を主体とした内科的治療が行われます。脳出血では止血剤を投与したり、血圧のコントロールや脳浮腫の治療が中心となります。脳梗塞では、血栓溶解剤や血流改善剤の投与などが行われます。
 外科的治療が選択される場合でも、これらの内科的治療は並行して、あるいは手術後に行われます。

3)全身管理

  脳血管障害を起こす危険因子として、高血圧・糖尿病・高脂血症などの生活習慣病が注目されており、同時に治療の妨げになることも多いことから、脳血管障害の治療に際して、これらの合併症の治療も行われます。とくに脳血管障害の急性期には、血圧や血糖が変動することが多く、血圧や血糖のコントロールは必須とっても過言ではありません。
 また、意識障害患者では呼吸不全を起こすことが多く、肺炎に至ることもあるので、呼吸管理も重要な治療となります。もともと心疾患、肝障害、腎障害などの合併症がある患者では、それらが急に悪くなったり、脳に悪影響を与えることがあるので注意を要し、並行した治療が必要となる場合もあります。
 意識障害や神経症状が重症の場合、発症から約1週間の間は、手術などの治療が優先されますが、その後は栄養管理も重要な問題となります。口から食物を食べることができない、あるいは誤嚥の危険がある場合には、経管栄養を始める必要があります。はじめは経鼻経胃的に投与しますが、長期にわたる場合には、PEGを行うべきでしょう。

4)リハビリテーション
  従来は、栄養管理と同様に病状が落ち着いてからリハビリテーションを行っていましたが、最近ではStroke Care Unit(脳卒中集中治療)の概念が提唱され、急性期から積極的にリハビリテーションを行われるようになりました。早期のリハビリによって、肺炎などの合併症が減少し、リハビリのゴール(どこまで動けるようになるか)への到達が短期間になるという報告がされています。
 脳の障害による症状は、これまで述べてきたように、障害された脳の部位と程度によって決まります。「脳が障害される」ということは「脳細胞が死んでしまい、再生しない」ことを意味しますから、多くの場合障害をカバーする細胞の力は不十分で、さまざまな治療やリハビリテーションを行っても、神経の後遺症は完全に回復することはなく、だいたい3から6ヶ月でゴールに達してしまいます。


脳血管障害の主な危険因子は、加齢、生活習慣病、生活習慣そのものといわれています。なかでも、高血圧・糖尿病・高脂血症・肥満がそろうと死亡率が高くなることから、これらは「死の四重奏」と呼ばれています。高齢化社会となった現在、脳血管障害の発生は年々増加し、高齢者の患者数も増えています。脳血管障害の治療の目的は「元に戻すこと」ではなく、「最大限に元に近い状態を目指し」、「再発を防ぐ」ことにあります。脳血管障害、いいえ、「死の四重奏」が怖い方は、健康診断による生活習慣病のチェックや治療、生活習慣の改善に努められますように!


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