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静岡県の県西部浜松医療センターのNST(栄養療法チーム)及び嚥下チームは、コメディカルと歯科の結束が土台となって、各職種が互いにサポートしあう見事なチーム医療を展開しています。

では、そのシステムをいかに地域完結医療として普及させていくか、この地区での取り組みをお聞きしました。

Ⅲ摂食・嚥下機能向上のための取り組み
3.胃瘻造設患者における
 地域連携口腔ケアの実践


県西部浜松医療センター 歯科口腔外科科長 内藤克美

(所属・役職等は発行当時のものです)

内藤克美

PDN通信 23号 (2008年4月発行) より

(所属・役職等は発行当時のものです)

入院前・退院後の口腔ケアの必要性

周知の通り、PEG施行数が増えるにつれて、造設後の瘻孔部感染や誤嚥性肺炎が問題となってきており、その予防のためにも、術前の口腔ケアの必要性が提唱されてきた。

さらに胃瘻造設後も、残された機能を出来るだけ活用できるような口腔の状態を維持し、より快適に生活できる環境をサポートするためにも、歯科の関わる領域は非常に大きい。

当センターに赴任して13年目となる歯科口腔外科科長の内藤克美先生は、「口腔ケアにも地域連携を!」と呼びかける。

「昨年、静岡県歯科医師会の講演で、PEG患者さんに対する地域連携口腔ケアの重要性と、そのシステム構築の提案をさせていただきました。胃瘻のケア同様、口腔ケアも地域全体の取り組みが必要なのです。療養の場がどこであろうと、誰であろうと、すべての人が等しくそのサービスを受けられるような、地域連携システムです。静岡県歯科医師会(飯嶋理会長)はこの提案に同意してくださり、まずは、ここ西部地区から始めようということで、協力していただくことになり、2007年4月に浜松市歯科医師会と正式にスタートしました。

院外からのPEG目的での入院患者さんに対しては、造設前に歯科医師・歯科衛生士が外来で口腔ケアを実施します。その際に、受け持ちの看護師が必ず同席し、患者の口腔内の状態や今後の口腔ケアについて、歯科医師・歯科衛生士から指導を受けます。

造設後は、主治医・消化器科医師はもちろん、院内のNSTが患者にかかわり、さらに看護師・歯科衛生士の継続的口腔ケアによる、良い状態での早期退院を目指します。

退院時には、かかりつけ歯科医(あるいは歯科医師会)に、退院後の口腔ケアの継続を依頼し、かかりつけ歯科医が特にいない場合は、歯科医師会のネットワークを活用する。これが、西部地区における地域連携口腔ケアです」と、これまでの流れを振り返る内藤先生。

患者全体を把握できる、かかりつけ歯科医を

一方、PEGを必要とする患者は、全身状態も悪化していることが多いため、PEG施行前の口腔ケアを、地域の歯科医にどこまで実施してもらえるか、ということは課題になっている。

「歯科医も患者さんも、安心して術前の口腔ケアに取り組める環境作り、つまり患者さんの全体を把握している、かかりつけ歯科医の育成こそが必要なのです。病院で行なう専門的な口腔ケアは、全体からみればその一部分ですから」と内藤先生。

そのため、退院時には、紹介状・看護師による退院時サマリー・口腔ケア地域連携連絡表を用意し、患者のプロフィールから口腔ケアに必要な道具にいたるまで、個々の患者ごとの詳細な情報が提供される()。

図 地域連携の流れ
図 地域連携の流れ

この、歯科における地域連携口腔ケアのシステムを通して、口腔ケアが単に「口の中をきれいに保つ」というだけではなく、摂食・嚥下機能訓練にもつながっていくことを、患者と患者を取り巻く人々や歯科医にも、認識・理解を広めた意義は大変大きい。

胃瘻造設患者のみならず、地域連携口腔ケアの対象となる疾患を拡大し、医科・歯科合同の地域連携に努めることが、内藤先生の今後の目標である。

PDN通信 23号 (2008年4月発行) より

(所属・役職等は発行当時のものです)