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会場の様子 |
さる6月24日、区中央部のセミナーは、PDNと16社の共催の下、東京慈恵会医科大学講堂で開催された。講師及びシンポジストは総勢11名、参加者は250名を超え、会場は補助椅子を出しても足りずに立見が出るほど。
●午前の部「PEGを使いこなす」
1.経腸栄養 |
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●スキントラブルの原因と対策 (東京慈恵会医科大学看護部 堀 友子先生)
人の皮膚に備わっている皮脂は天然ワックスの役割をしているが、無意味な消毒や加齢による皮膚の乾燥などでこの皮脂が失われ、皮膚を守りきれずにトラブルを起こしていることも多いという。「皮膚が周期的に正常な状態を生み出すその力を、余計な手を加えて邪魔せず、必要に応じて皮膚の保湿を」と堀先生。
被覆材を上手に活用し、漏れ出た液を皮膚に接触させないことなど、スキントラブル予防のコツを示された。 |
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●消化器症状の原因と対策 (東京慈恵会医科大学外科 川崎成郎先生)
悪心、胃食道逆流、嘔吐、下痢、便秘など経腸栄養管理中の消化器トラブルは、対応に苦慮することが多い。投与速度をゆっくり、腸瘻に変更、などというアドバイスはよく耳にするが、ゆっくり=長時間投与を意味するため、本人およびご家族のQOLは著しく低下する。どちらを優先するかのバランスも悩みどころである。
胃瘻から腸瘻に変更する方法もあるが、胃と腸では同じ消化器官でも形や機能が異なる事を充分理解し、本人・ご家族・介護者にもその管理法の違いをしっかりと伝えることが必要であると、川崎先生は強調された。 |
2.褥瘡治療 |
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●褥瘡ケア ―入院から在宅まで― (杏林大学病院看護部 丹波光子先生)
丹波先生は、褥瘡の原因は個人的な要因、外的な環境要因、社会的要因など様々で、その治療及びケアにあたっては、各方面からの多職種によるアプローチが必要、と訴える。
体位変換やエアマット使用時の落とし穴として、「枕を使って身体を傾けたけれども除圧したいところに逆に圧が集中していたり、エアマットのコンセントが抜けて除圧になっていなかったり」というお粗末な事例も紹介し、定期的かつ確実なチェックの重要性にも言及された。
在宅患者さんの場合は介護保険を最大限利用すべく、まずはその確認を、とのこと。 |
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●目からウロコの褥瘡治療 ―褥創対策が面白くなってきた
(リハビリテーション中伊豆温泉病院外科 恩田啓二先生生)
恩田先生はラップ療法による褥創治療を実践しているラッパーとして、「褥創はキズ」の立場。無意味な消毒やガーゼ使用の害を説き、褥創発生要因を徹底的に排除した上で、除圧・湿潤環境・汚れたら洗ってラップ(または穴あきゴミ袋とオムツ)をかぶせる治療法を展開。褥創が治らないことを何でも低栄養のせいにしない、という本意をこめて「低栄養でも褥創を治してみせる」とアピール。
また、今や「褥創は看護の恥」ではなく「病院長の恥」である、と除圧ベッドの導入を経費面から躊躇するような病院長の経営方針の誤りこそが、褥創を発生させるのだと言及。
院内では看護助手も含め、褥創チームのスタッフが各々ラップ療法を理解・実践し、その治っていく過程を経験することでさらに確信を持ってラッパーの仲間入りをしている様子を紹介、病院見学や褥瘡治療の依頼も大歓迎と呼びかけ講演は終了した。
会場からは、ラップ療法で重度の褥創が治ってゆく患者さんを目の当たりにして感動したという報告や、主治医がラップ療法を正しく認識していないのでなかなか取り組めないという悩みも聞かれた。 |
3.半固形化栄養 |
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●なぜ半固形か?胃瘻からの半固形栄養剤短時間摂取法の正しい理解と実践のために
(香川大学病院腫瘍センター長 合田文則先生)
半固形という形状が生理的である根拠を豊富なデータを示しながら解説されたのは合田先生。
かつて胃瘻造設後3ヶ月以内に亡くなる患者さんの原因の約6割が誤嚥性肺炎・肺炎と言う事実を目の当たりにし、胃の動きや逆流のメカニズムおよびその防止策について研究を始められた。10年以上にわたるその研究の結論は「胃食道逆流が起きないということは目的ではなく結果」。
生理的な胃の蠕動運動や消化管ホルモンの分泌があれば、疾患以外の逆流は予防できるはず。本来我々が咀嚼して飲み込んだ状態に近いもの、つまり液体ではなく半固形状の物を胃に注入すればよいことになる。実際、ミキサー食や半固形化した栄養剤を、我々が食事をする程度の時間で注入すると、その刺激で胃の機能が目覚め、押し出しの力ではなく胃本来の蠕動運動によってそれらが排出される事を画像で示された。さらに血糖値のコントロールや、便性の改善などの効果も確認されている。
専門的、科学的なお話から、加圧バッグを使った実際の注入方法の紹介など、まさに「正しい理解と実践のため」の講演だった。 |
●ミニレクチャー
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ミニレクチャーの様子 |
参加者は講演会場の3階講堂から7階の展示会場に足を運び、メーカーのブースを回ってサンプルやパンフレットを受け取り、午前の部の講師らを見つけては質問をしていた。講師の先生方も質問を受けるだけでなく、ほかの講師の話や各メーカーの説明に耳を傾ける姿があちらこちらで見られた。
今回は、ナース・栄養士・薬剤師・介護職など、エンドユーザ(患者)に一番近いところにいる方々も、栄養剤(食品)・キット・注入関連製品などについての豊富な情報を入手されたことと思う。実物を手に取り、試してみたことを、これからの職務に役立てていかれることだろう。