PDN理事の長谷部先生 |
東京都は23区を7つの二次医療圏分けての開催を試みているが、先生方同士のつながりなどもあり、今回は豊島・台東・荒川の3区を対象にセミナーが開催された。
この地区の代表世話人は池袋駅前に位置する長汐病院院長でPDN理事の長谷部正晴先生。第1回は長谷部先生のご企画で開催された。
前半の症例発表は各先生方の体験された症例を通して、胃瘻の造設・交換・日常のケアにおけるポイントが示された。経管栄養療法における薬剤投与法の一つとして、簡易懸濁法が注目されているが、参加者の中ではまだまだ『聞いたことがある』程度の普及状態であることを考えると、実際に薬剤を溶かしてみて、適する薬剤と適さない薬剤の説明なども加えながら実技セミナーを企画してみてもよいのではないかと思われた。
岡田病院の笠巻先生 |
講師の先生方はどなたも高齢者へのPEGを経験しておられ、恒例になるほど粘膜が弱くなるため、内視鏡を挿入しただけで裂けて出血した症例なども紹介された。岡田病院の笠巻先生は、自験例をすべて開示し、PEG後の長期生存が保障されるわけではないこと(術後の早期死亡例は高齢者においては30%台にのぼる)、GERDによる肺炎発症が無くなるわけではないこと、ご自身の体験を通してメリット・デメリット共に開示し、それらのリスクを承知で同意、依頼された場合には年齢にかかわらず施行されているとのことであった。
休憩後、長谷部先生の教育講演が始まる。耳慣れないこのタイトルは何だろうと思っていると、これはラテン語。英語に訳すとFirst, do no harmということで、『まず、害の無いように』という医療の鉄則の言葉であることが明かされた。栄養治療は人にとって大切な<食>につながるものであるから尚のこと、標準化され安全性が確保されたものであることが求められる。患者に害を与えるような治療であってはいけない、そのためには統計学的な正しい手法(メタ・アナリシス)に基づく標準化、ガイドラインの作成が求められる。栄養療法においてもアメリカやヨーロッパ、日本でも経静脈栄養と経腸栄養のルート選択のためのアルゴリズムが定められている。
司会の勝部先生 |
栄養療法全体の基礎知識を解説されると、テーマは胃瘻カテーテル交換の安全な手技へ。ここ数年PEG施行数が急増し、それに伴う事故のニュースが後をたたない。せっかく造った胃瘻なのに、交換時にミスをすれば「do harm」である。
そこで長谷部先生が19ヶ月で250回ご自身で行い、合併症を起こすことなく安全に交換する方法が紹介された。抜去前のカテーテルに小さな穴を開けガイドワイヤーを通しておき、ネラトンチューブと確実に接続し、造設のプル法を応用して内視鏡下で交換する。詳細は改めて紹介するが、ネラトンチューブが瘻孔の内側に位置するので瘻孔損傷が予防でき、ガイドワイヤーに添って新しいカテーテルを挿入することで誤留置も予防できる、まさに患者に害を与えないことを考慮した交換法といえよう。
そして、このような安全な手技も含め、病院側は『危機管理』という言葉を使うが、それは病院にとっての危機。医療者は患者に害を与えない『安全管理』という考え方で日常の診療に当ってほしいと結ばれた。
雲南総合病院の大谷先生 |
再び休憩を挟み、特別講演。講師は島根の公立雲南総合病院からはるばるおいでいただいた大谷順先生。関東における島根県の印象の薄さとは裏腹に、高い高齢化率(患者だけでなく医師も高齢化)、医師不足という深刻な状況にあるこの地で、未だに胃瘻の必要性を理解していない医療・介護スタッフそして患者・家族たちを相手に、何のために胃瘻を作るのかをじっくりと粘り強く説いているとのこと。お国言葉を交えながらの愉快なお話に、笑いの絶えない講演であった。高齢者へのPEG施行における適応は、全国民的なテーマであることを改めて感じた次第である。
今後、当地区のPDNセミナーは、世話人の先生方による持ち回りで年に2回、開催される。次回は荒川区の木村病院院長、木村厚先生の企画で9月に開催予定である。『今回参加した方は必ず第2回も参加してください。そしてもう一人、お友達も誘っていただいて、今回の倍の参加者で第2回も盛り上げていきましょう』と挨拶され、盛会のうちに終了した。
長汐病院の中里先生 |
木村病院の野中先生 |
浅草病院の吉田先生 |
木村病院の木村先生 |