2010年4月24日(土)に練馬総合病院地下会議室で第7回東京城北地区PDNセミナーを開催しました。
今回のプログラムは2部構成であり、第1部では地域で実際にPEGにかかわっている各施設、各職場の立場からPEGや経腸栄養の問題点を提起していただき、工夫している事や今後の課題を明らかにすることがテーマでした。
第2部では当地域PDNセミナーでは初めて実技体験を行いました。NPO法人PDN、テルモ(株)に共催いただき、日清オイリオグル―プ(株)中央研究所、ネスレニュートリション(株)の協力、また、展示ブースで実戦向けに充実した展示内容をテルモ(株)、(株)大塚製薬工場、共和化学工業(株)、伊那食品工業(株)、オリンパスメディカルシステム(株)、(株)星医療酸素器にご協力いただきました。約50施設、100名以上の参加者が熱心に参加され、3時間半に及ぶセミナーが短く感じられました。当日のセミナーの様子をご紹介します。
当番世話人の栗原直人先生 |
第一部:PEGの現状 いろいろな職種の立場から
第一部では、まず、今回のテーマの目的について基調講演をおこないました。事前アンケートから、胃ろう管理の経験者がほとんどであり、種々のPEGに関するトラブル経験をしていました。胃ろう管理での不安要素は経腸栄養剤の逆流、誤嚥性肺炎、独居老人のPEG管理、PEG交換時の腹腔内誤挿入などでした。また、多くの方が口腔内ケアの重要性を理解して実行しており、簡易懸濁法は約6割が実際におこなっていました。次に6人の演者が各職場、職種の立場から現状について、PEG患者の事例の提示をふくめて発表しました。
1.アースサポート(株)練馬在宅サービスセンター 渡辺 健一氏は胃ろうを造設した利用者のケアプラン作成の手順について説明しました。在宅患者の週間スケジュール決定には生活環境や介護力、経済力等様々の条件により異なるのでそれぞれプランの立て方も当然変わります。介護保険の限界、限度額内でのサービスの組み立て、医療・看護と介護の組み立ての中でPEG患者をどうやって在宅で管理するか、胃ろう患者のショートステイや通所介護での受け入れ問題など、現状について理解できました。
2.光が丘訪問看護ステーション 永沼 明美氏は看護師系ケアマネージャーの立場から実際のケアプランの週間スケジュールの立て方について、金銭面まで含めて説明しました。
PEG患者のQOL、療養環境の制限がある中で介護者の負担を考慮したケアプランを立てることの難しさがよく理解できました。
3.医療法人社団 平真会 薬師堂訪問看護ステーション 馬場 雅子氏は、在宅で管理しているPEG患者の訪問看護の要点について、事例を交えて説明がありました。家族の手技の確認、病院での退院時指導やケアを基に継続指導をおこなったり、便秘や下痢などの排便コントロール、スキントラブルの有無の確認や実際のケア、栄養剤の調整などを行っています。患者のADLや家族の介護力、時間的要素により、病院で行っている理想的な経腸栄養をそのまま在宅に移行することができない場合があることを事例紹介から説明されました。また、日常患者を介護している家族の理解度により栄養管理の対応がかわることも理解できました。
4.特別養護老人ホーム 第二育秀苑 渡邊 季代子氏は、特別養護老人ホームは身体上、精神上で何らかの障害があり、介護保険制度で「要介護」な高齢者が利用する施設であり、在宅復帰を目標とするが実際にはそのような例がないと説明されました。
施設の現状から、その中で寝たきりで意思表示ができない利用者、自分の死について自己決定ができない利用者など終末期における胃ろう造設の適応について問題を提起されました。家族の満足度のために胃ろうを利用するといつかは胃ろう患者ばかりになると危惧されます。施設職員の願いは利用者が人間らしく生きて死を迎えることであると話されました。
5.介護老人保健施設 大泉学園ふきのとう 笹本幸子氏は、病院から在宅への橋渡しをする中間的施設である介護老人保健施設の概要について、要介護認定を受けた高齢者を対象に、身体の状態に合わせた介護計画を立て、一定の期間、看護や介護、リハビリやレクリエーション、入浴、食事を提供する介護サービスを提供している状況を説明されました。胃ろう患者は経腸栄養が安定している場合、ショートステイで受け入れおり、経腸栄養の方法は在宅と同様の方法で行っていることを話されました。また、半固形食の導入も積極的に行っているようです。
6.武蔵野療園病院 森山喜美代氏は、介護療養型病院である武蔵野療園病院の概要、PEG患者が一般病床34%、介護病床26%と非常に多い現状について説明されました。
森山氏が勤務している病棟においても19名の胃ろう患者がおり、経腸栄養の投与に関連してa. スタンドのフックに名前を貼る。b.栄養剤に必要な情報(患者名、栄養剤の種類、一日の投与量) を書き込んだビニールテープを貼る。c. 栄養剤投与終了後、ビニールテープを剥がして次の栄養剤に貼る。などの工夫を紹介しました。胃ろう管理にともなうトラブルの写真、対処法についても説明されていました。
患者の栄養管理として経口摂取が出来なくなった場合には胃ろうが有用であり、患者が安全で安心して経腸栄養が受けられるよう努めていきたいと抱負を語っていました。
上記多職種の立場からの発表は、それぞれの医療現場の現状と問題点を理解する上でとてもわかりやすく、参加された当地区の世話人の先生方からも温かいコメントをいただきました。
胃ろうに関連する問題点については挿入・管理だけではなく、胃ろう患者を地域でささえる体制づくり、胃ろうの適応などについての議論、法律的な解釈など今後の課題も見えてきました。
第二部:体験PEG教室
当地区では初めての実習となりました。参加者が約100名となったため、2チームにわかれました。
テーマは4つであり 1.胃ろう患者を管理する上で、患者の気持ちになって嚥下障害を考えるための「嚥下障害疑似体験(45分)」、2. 模型を使った胃ろう造設・交換体験(15分)、3.薬剤の簡易懸濁法体験(15分)、4.各メーカーの展示説明(15分)を参加者全員に体験していただきました。
1.「嚥下障害疑似体験」
この先生方、どなたか分かりますか? |
嚥下障害の患者が口から摂取することの困難さを実体験していただき、経口摂取を補助する上でどのような食材、アプローチが安全・安心できるかを考えることが目標でした。
顔にテープをはり、嚥下困難の準備を行います。体験は具体的に 1. 開口、閉口状態、 2. 噛めない、 3. 飲み込めない、 4. 食物が咽頭に流れ込む、 5. 口腔内に食物が残存する、 6. 舌苔があるとどうなるか、 7. 体位によって嚥下時にどうなるか、などについて、準備した食材(コーンフレーク 、オレオ 、柿の種 、ゼリー 、チョコレート、 水、トロミ水)を嚥下体験していただきました。テープにより顔半分がオペラ座の怪人のようになっていましたが、熱心に疑似体験され、嚥下困難な人の辛さを実体験されました。
また、舌苔の模擬体験として、オブラートを口腔内に入れて簡易舌苔をつくり、嚥下をしました。味覚がかわり食べにくく苦しかった、という意見が多く、口腔内ケアの重要性が実感できたようです。
アンケートでは食材の種類により嚥下しやすさが異なること(最も食べやすい食材はゼリーであり、最も食べにくい食材はコーンフレ-クでした。)、患者の体位により食べやすさが異なること、介護者の視線や声かけにより安心感がことなること、スプーンが大きいと口に入る一回摂取量が多くなること、患者の気持ちを理解した食事介助が重要であること、など多くの意見が出されました。
2.「模型を使った胃ろう造設・交換体験」
カテーテル留置方法はこのように |
胃の模型(人形)をつかって、胃壁固定具から胃ろう挿入までの手順を体験しました。また、胃ろう交換の方法、交換した胃ろうが胃内に挿入されないとどうなるか、など具体的な胃ろうに関するトラブルについても実際に体験していただきました。
3.「薬剤簡易懸濁法」
正しい簡易懸濁法を学ぶ |
簡易懸濁の方法について実際に体験していただき、溶けやすい薬剤だけでなく、溶けずに固まってしまう薬剤は簡易懸濁法の適応でないことを理解していただきました。
また、簡易懸濁法では薬剤を55度程度のお湯で10分間静置してから、懸濁させて投与するのですが、10分以上放置すればいつまでも放置できるという誤認識が多いことがわかり、正しい簡易懸濁法について説明しました。
4.「各メーカーの展示説明」
ポスターを用意してミニレクチャー |
おわりに
第7回PDNセミナーはプログラム立案時から、1部・2部ともかなり充実した内容(タイムスケジュール的に欲張りすぎた感もありました。)となり、時間内に予定通り終了するか不安な面もありました。
しかし、当日はほぼ予定どおりに終了することができ、参加者からセミナーに参加してよかった、との声を聞き、喜んでいます。
1部・2部とも事前準備から当日の運営まで、各施設の演者の皆様、練馬総合病院の職員・NSTメンバー、PDNセミナー事務局、協賛・協力していただいたメーカーの方、アドバイスをいただきました世話人の先生方に感謝します。