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新しい自分探しの旅

  

気管切開をし、在宅で人工呼吸器を使う毎日。三十五歳。進行性筋ジストロフィー症のぼくは、ある時期から食事が困難となり、ミキサー食さえも、気管のほうに流れるようになった。
 幸いにも、肺炎の一歩手前で PEGを造設。約二週間の入院で、家族と共にPEGの使い方をトレーニングした。
  数年間、食事をすることだけで精一杯だったぼくは、とりあえず、10秒に何滴落とすかと時計とにらめっこ。希望カロリーを入れられることに大きく期待したが、はじめから計算通りにいくわけもなく、そのうちに頭の中が数字だらけとなり、夢の中にまで注入食のキットが現れるようになった。
 ぼくの一日は午前十一時に始まる。吸引やら着替え、排便などこなすと正午になる。一回目の注入は正午から午後二時前まで、昼寝をしたあと、二回目は夕方五時から夜の十時までと、合計で約七時間あるが、薬のタイミングはいつもギリギリ。思うように注入量が増やせず悩んでいた。
 あるとき、実際に入れてあるはずのカロリーと袋の目盛に差があることに気付いた。それ以後は目安としてとらえられるようになったが、もし、目盛が正確に管理しやすいキットがあれば戸惑うことは少なかったかもしれない。
 また、途中で止まったり、テンポが変わることもあるのが悩みの種だ。自ら寝返りさえできぬ身。24時間、介護が必要不可欠なため、妻には、夕方から仮眠をしてもらっている。止まった場合、唯一の睡眠中でも起きてもらわなければならない。せめて、数時間でも止まらないで欲しいと願うのは現在でも変わらない。
 紆余曲折あったが、peg造設から約半年、注入量は950mlとなり、いくらかふっくらしてきた。ミキサー食の頃は食費もかかり、台所の片づけも追いつかぬほど、妻への介護負担は限界に近かったのが、改善できたと思う。
きっとこれから先、もっとナチュラルで、細やかな操作をしなくても希望カロリーを注入できるようになるだろう。ぜひ手応えを確かめつつ、共に進化したいと望んでいる。
 PEGに感謝。

(2004,2,27)


泉岳志(患者本人)
進行性筋ジストロフィー症(DMD)
PEG歴半年