HOME > 医療者から > 上野 文昭

PEGの適応

大船中央病院消化器肝臓病センター

上野 文昭

●一言で言えば

PEGが必要となるのは、何らかの理由で1ヶ月以上経鼻胃管チューブが留置されている患者さんです。向こう1ヶ月以上経鼻胃管チューブの留置があらかじめ予測される患者さんに対しても、PEGはよい適応となります。

わが国の医療では、これまで実に多くの患者さんが、長い間経鼻胃管チューブを挿入されていました。これらの方々が皆、PEGの恩恵を受けられる可能性があると考えていただいてよいと思います。

●こんなときPEGが役に立ちます

表1  PEGの一般的な適応

1.経腸栄養のアクセスとしての胃瘻造設
・脳血管障害、痴呆などのため、自発的に摂食できない例
・神経筋疾患などのため、嚥下不能または困難な例
・頭部、顔面外傷のため、摂食困難な例
・咽喉頭、食道、胃噴門部狭窄例
・食道穿孔例
・成分栄養に依存しているクローン病症例

2.誤嚥性肺炎を繰り返す例
・摂食できてもしばしば誤嚥する例
・経鼻胃管留置に伴う誤嚥

3.減圧ドレナージ目的
・幽門狭窄
・上部小腸閉塞

4.その他の特殊治療

PEGの一般的な適応を表1に示します。難しい医学用語が多いので、少し解説させていただきます。

栄養補給のためのルートを確保することがPEGの最も多い適応です。点滴や経鼻胃管チューブから栄養補給するのに比べ、胃瘻からの栄養補給が医学的に優れることが、理論的に明らかですし、また幾つかの研究でも実証されています。


最近、在宅医療の重要性が認識されるようになりました。点滴や経鼻胃管チューブを必要としていた患者さんは、在宅管理が困難で、ただそれだけの理由で入院していたこともしばしばありました。しかしPEGを利用すれば、多くの患者さんが家族に囲まれて生活することが可能となります。

また胃瘻を造るにあたって、外科的手術も行われますが、内視鏡を使うPEGの方が、入院期間やコストの点で有利であることが証明されています。同じ物を造るのに、手術しないで済むならばそれにこしたことはない、と考えるのも自然でしょう。このような栄養ルートを必要としている患者さんの多くは、脳神経疾患のため食事を摂る意欲がなくなっているか、食事を飲み込む働きが麻痺しているご高齢の患者さんです。またけがや腫瘍などのため、食事を飲み込めない、食事が胃まで通過しない方々にもPEGが行なわれることがあります。


特殊な例として、腸の炎症性疾患であるクローン病の患者さんがあげられます。この病気では、程度にもよりますが、普通の食事を摂ると悪化することが多いので、腸に負担をかけない成分栄養剤で栄養を摂っている患者さんが大勢います。しかし成分栄養剤はまずいため、自分で飲むのは困難で、これまでは毎日経鼻胃管チューブを自分で挿入しながら栄養補給していました。胃瘻があるとその苦労からも解放されるようになります。

また少し食事を摂ることができそうでも、時々うまく飲み込めなくてむせてしまう患者さんもいます。最悪の場合には気管に誤嚥して,肺炎をおこしてしまいます。このような方々はあまり無理をせず、まず胃瘻を造って十分な栄養補給ができるようにし、安全な程度の量の食事を楽しんでいただくのが好ましい方法と言えます。


栄養ルート以外の適応としてよく行なわれるのは、減圧ドレナージと言われる治療法です。胃の出口付近や少し先の小腸が癌などにより塞がると、食べたものをもどしてしまうばかりか,何も食べなくても常時分泌されている胃液が溜り、始終嘔吐することになります。これに対し経鼻胃管チューブを挿入して、胃液が外に出やすいようにすれば大分楽にはなりますが、それでも鼻のチューブは苦しいものです。胃瘻を造ることにより、これらの苦痛からも解放されます。PEGを応用した消化器内視鏡治療もたくさん行われるようになりましたが、ここではあまり詳しく述べないことにします。


●PEGは永久的なものではありません

患者さんの全身状態が思わしくなく、今後の見通しが立たないような場合は、PEGを留置するよりも、取りあえず経鼻胃管チューブを用いる方がよいかもしれません。しかしPEGが決して恒久的なものではないことも知っておくべきです。患者さんの状態が改善し、胃瘻からの栄養補給が不要になれば、チューブを抜去できます.抜去後は瘻孔が速やかに塞がります。

PEGを行い、経鼻胃管チューブを抜去すると、肺炎や食道炎が改善し、驚くほど意識状態がよくなり、そのうち食事を摂ることが可能になる患者さんが決して少なくないことが知られています。一時的な栄養経路としてもPEGを考慮する価値があります。

●PEGを適正に使いましょう

表2  PEGの施行と合併症

軽度の合併症: 造設時の出血
瘻孔周囲炎
不良肉芽
チューブ閉塞
びらん、潰瘍
バンパー埋没症候群
瘻孔の開大
重篤な合併症: 造設時の大量出血
心停止
呼吸停止
腹膜炎
誤嚥
穿孔
大腸誤穿刺
瘻孔部への癌の生着

このようによいことばかりのPEGのようですが、逆に最近ではPEGを信奉するあまり、過剰に用いられる傾向も見受けられます。

いくらお腹を切らないとは言っても、内視鏡を用いた多少の危険を伴う手術であることには間違いありません。患者さんの全身状態を注意深く観察し、簡便であっても手術にはかわりないという認識、経験を積んだ術者の確かな技術、感染対策を考慮した術中・術後管理が整わなければ、表2のような合併症を引き起こす危険性があることを常に考えておかなければなりません。

さらに冒頭に述べたように、最低1ヶ月ぐらいは使わないと、その恩恵に浴するとは言えません。全身状態がきわめて悪く、手技の危険が大きい場合はもちろんですが、状態が不安定な患者さんで予後の見極めができない場合も、安易にPEGを行うべきではありません。海外からのある報告では、その見極めが甘く、PEGを使えた期間が1ヶ月未満であった症例が少なくなかったとのことです。

また医療側としては、PEGを行うことが最終的に患者さんや家族の満足に繋がるかどうかを十分に検討する必要があります。PEGを上手く造ることは必要最小限の条件に過ぎません。家族の積極的な姿勢や、それに対する支援(医学的、精神的、経済的)などが、PEGが本当に活かされるために必要です。昨今、インフォームド・コンセントという言葉がよく使われますが、十分な説明の上、納得していただくことが重要です。

「PEGへのご案内」(2001年6月30日発行)より