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高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン
人工的水分・栄養補給の導入を中心として(ワーキング・グループ試案改訂第一版)を拝読して

昨年12/4に東大で開催された平成23年度老健事業シンポジウムでこのガイドラインが発表され、またPDNを代表して鈴木裕先生が基調講演をされました。ご苦労さまでした。その聴衆の一人として意見を述べさせていただきます。

まずこのガイドラインは表題にある「意思決定プロセス」が決定的なキーワードであり、我々が普段の臨床の現場で利用している種々の疾患の診断治療の(EBMに基づいた)フローチャート的なガイドラインとは全く異なります。

東京大学グローバルCOE生死学研究室の研究に基づいて作成されたものと考えますが、この研究のエッセンスが「2.命についてどう考えるか」と「合意形成のための意思決定プロセス」と思います。これが理解できないと全体の理解が出来にくいように思います。

① このガイドラインで我々が臨床の現場での判断に有用なのは「はじめに」の「本ガイドラインの性格と構成」で「…適切な意思決定プロセスを経て決定されたことについては、法的にも責を問われることはないとも考える」という部分ですが、ここはもっと強調して欲しいところです(検討委員に法学部教授の樋口範夫先生が入っておられるので)。

② 「1.医療介護における意思決定プロセス」の1.8で医学的エビデンスの提示に対して慎重な態度を提示しており、臨床現場の医師はかなりのジレンマを生じながらでも患者、家族と双方向のコミニュケーションしながら合意を(時間をかけながら)目指さなければならないということと私は解釈しました。臨床現場からすればそれだけのプロセスの経過の記録が残されていれば医療スタッフの労力に対し何らかの評価(たとえばカウンセリング料-例えば現在の癌カウンセリン料のように診療報酬の形で)をして欲しいし、そのような方向で検討されるべき、との文章を入れて欲しいと思います。

③ 「2命についてどう考えるか」で「死はいかなる場合にもぎりぎりまで避けるべきであるという思い込み込から医学の専門家も素人の市民も解放されるべきである。」という提言を私は正しいと思います。しかしこの結論を臨床現場で得るためには前述の(かなりの労力のいる)意思決定のプロセスが必要なのだということなのでしょう。

④ 「AHN導入に関する意思決定プロセスにおける留意点」で(当日会場の現場の医師から批判があった)「何もしないこと」という言葉は「AHNをしない」に直すべきと思います。AHNはしなくても最期まで介護や緩和ケアは必要なのだから。3.2.5での「延命が人生の完結のために有益である限りにおいてAHNは妥当である。」の補足説明のところにPDN鈴木裕先生の「 認知症患者の胃ろうガイドラインの作成 ―原疾患、重症度別の適応・不適応、見直し、中止に関する調査研究―調査研究事業報告書」の内容を入れていただきたいと思います。

最後に、最近会田薫子先生の「延命医療と臨床倫理」を読み、大変勉強になり考えさせられました。この本の後半のPEGに関わる医療ついての提言は我々PEG造設医には厳しいところをつかれたという思いと、造設医が「もし自分が患者になった場合どのような適応と状況ならばPEGを受け入れるのか」という問いに答えられなければならないという思いを強くしています。


思いつくままに書かせていただきました。また意見を述べさせていただくかもしれません。ほかの先生方のご意見を是非伺いたいと思います。

高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン―人工的水分・栄養補給の導入を中心として(ワーキンググループ試案改訂第一版)について

前回述べさせていただいた私の意見の前に、昨年12月26日に改訂第1版が公開されていたので、新たに意見を述べさせていただきます。

このガイドラインがこのように医療、介護の現場からの意見を直ちに吸い上げて直ちに改訂されていくことに正直驚きました。ワーキンググループが、このガイドラインを現場に開かれた形で作成しようという意思が強く感じられます。その反面前回も述べましたが、医学的エビデンスが前面に出ておらず、意思決定のプロセスのためのガイドラインとなっていることが(前回より本文が簡略化されたことにより)よりわかりやすくなったと思います。

① 「本ガイドラインの性格と構成」(P3)で「法的に責を問われることはないとも考える。」とアンダーラインが加えられいますがも少し明快な言及が欲しいです。

② 1.3の「……に相対的(相関的?)である。」は抽象的でわかりにくく、注釈の文章を簡略したものの方がわかりやすいように思います。

③ 1.5の「危険である」というよりは「慎重であるべきである」のほうが良いように思います。

④ 1.7の注釈19は、「介護、医療スタッフのマンパワー確保のための積極的な政策が必要…」などの社会的問題に対する提言を入れても良いと思います。

⑤ 2.1はA,Bの他に医学的介入がQOL向上に寄与する可能性が残されている場合は、trial therapyという選択も考えられるというC項目も入れてはどうでしょうか。PEGはまさにこのようなケースで悩むことが多いように思います。これは「3.AHN導入に関する意思決定プロセスにおける留意点」にも関わるので注釈の41のところに日本のPEGの治療成績に言及していただきたいと思います。

⑥ 注釈43の法的な点への言及をもう少し強調していただきたいと思います

⑦ AHNの撤退についての言及は、私は賛成です。


以上僭越ながら私見を述べさせていただきました。

このガイドラインが、PEGに関わる現場の皆さんの役に立つように完成されていくことを期待したいと思います。

PDN岩手県理事 盛岡赤十字病院小児外科 畠山 元