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レポート(2002.02.26


第1回PEGセミナー開催
-全国的なPEGの標準化を目指して-

 昨年12月8日、東京国際フォーラムにて第1回PEGセミナーが開催された。
臨床現場の第一線で活躍中の7名の医師によるディスカッションに、150余名の参加者たちは熱心に耳を傾けていた。
 誰もが安全にPEGの施行を受けられるよう、手技・管理共に全国的な標準化の必要性が提唱されてきているが、わが国の現状ではPEGに対する誤った認識や「知らない」ことによるトラブルも少なくない。
 標準化のためには、科学的根拠に基づいた医学的検討と患者の視線に立った医療の質の検討、さらには「どこでも誰でも必要なサポートを受けられる」ための支援システムの確立が必要と思われる。
 今回開催されたセミナーは、今後も定期的に開催される予定である。以下に、プログラム及び討議内容を紹介する。

左から
上野文昭、高橋美香子、鈴木裕、
小川滋彦、有本之嗣、小山茂樹、
嶋尾 仁の諸先生

4:00~14:30
基調講演「PEGのコツと在宅管理」
演 者
  小川医院 院長 小川滋彦先生
司 会
  大船中央病院 内科 上野文昭先生
    北里大学東病院 外科 嶋尾 仁先生
14:30~16:00
パネルディスカッション「PEGの手技と管理について」
    パネリスト
  滋賀医科大学 内科 小山茂樹先生
 
  昭南病院 外科 有本之嗣先生
 
  小川医院 院長 小川滋彦先生
 
  東京慈恵会医科大学 外科 鈴木 裕先生
 
  鶴岡協立病院 内科 高橋美香子先生
司 会
  大船中央病院 内科 上野文昭先生
    北里大学東病院 外科 嶋尾 仁先生
       
討議項目
■手 技
 

 1)手技の選択 利点と欠点
 2)胃壁固定具の必要性 
 3)瘻孔の適切な距離
 4)日帰り手術時の確認事項

  ■管 理
   1)胃食道逆流の対策
 2)栄養管理方法 
 3)創傷感染対策 
 4)瘻孔周囲からの漏れに関して 
 5)カテーテル交換の時期と方法に関して
16:00~16:30
質疑応答
後援:HEQ研究会/北陸PEG・在宅栄養研究会/PDN(PEGドクターズネットワーク)
主催:株式会社メディコン

<基調講演>

 小川先生の基調講演では、在宅での胃瘻ケア及び栄養管理上の注意点について、報告された。問題点として、実際に胃瘻患者を引き受けている医療者でさえ、正しいケア(例:バンパーは緩めに、消毒ではなく清拭を、など)を理解せずに、むしろ誤った管理を行っている例があげられた。
 医療においては素人である家族が中心になって栄養管理や介護を行う在宅介護では、いかに安全で簡単な操作(=ローテク)で管理が出来るかが重要である、と強調された。
このテーマを受け、胃瘻の造設・ケア・交換の手技および管理における検討が項目別に行われた。

<医療者からみた安全な手技とは?>

  造設時の手技は、イントロデューサー法、プル法、プッシュ法と三種類があり、さらに胃壁固定具の使用も含め、それぞれの医療者が個々の症例に適していると思われる方法を選択していた。通常はプル・プッシュ法で行っている場合でも、咽頭部に菌がある場合(とくに感染性の高いMRSAが検出されている場合)は、咽頭部を胃瘻カテーテルが通過する際に付着した菌が瘻孔部に移植されてしまうため、パネリスト全員が、イントロデューサー法で施行していた。

 胃壁と腹壁を癒着させるための腹壁固定具については、より安全な管理を行うため、あるいはトラブルが起きた場合も最小限にとどめるために使用するという意見と、イントロデューサー法以外には必要ないのではないかという意見にわかれた。いずれも「経験的理論が多く、エビデンスは無いが推奨されているというレベル」とのことで、今後胃壁固定具の有用性についての科学的根拠に基づいた検討が行われてゆくものと思われる。

  瘻孔の適切な距離については、適切な状態そのものが体外からはわからないため、基準を定めることは難しい。「交換時に瘻孔を損傷しない、吊り上げていることによるトラブルが起こらないというのが基準」「強く固定しなくても自然に癒着するので緩めにしておいた方がチューブや創傷などのトラブルが起こりにくい、これらが目安」などの意見があがった。

<日帰り手術の原則>
 
 日帰り手術を行っている先生からは、「病院内の他科からの依頼で造設する日帰り手術も関連病院間の日帰り手術も、どのように管理してゆくかクリニカルパスを渡して適正な管理法を周知徹底させること、どういう手順で誰が責任を持ってみるかを明確にすること、全科を回診できる専任者を認める病院全体のシステムを確立することが大切」「適応患者がいるのにPEGを施行できる医師がいないという場合造設医と、その後のケアを行う主治医が同じクリニカルパスを利用して連携すれば病院間の日帰り手術は可能」との発言及び報告があった。
 正しい胃瘻管理ができる医師と情報を共有しながら実施することが日帰り手術の原則であり、言い換えれば、患者情報や管理法について十分共通の認識を持てない場合は、安易に行うべきではないということであろう。

<造設後のトラブル―胃食道逆流への対処>

 胃食道逆流への対応は、いかに嘔吐をコントロールするかがポイントである。体位や投与速度に注意することは基本的な確認事項であるが、バルーン型カテーテルで急に嘔吐した場合は、カテーテル先端が十二指腸に迷入したための閉塞も原因になり得ることを認識しておく必要があるとのこと。また、制吐剤を使用する前に、エリスロマイシンや粘度増強食品を使用することも対処法として効果があるようだ。

  さらに「胃は食べ物が入ると上部が膨れて後から入ってくるものを受け入れる準備をするので、50mLほど投与したらいったん中断し、30分後くらいにその作用が現れた頃に再開する」「消化管機能促進剤を利用する際も作用が現れる頃(50分~1時間)に栄養剤を注入し、血中濃度を高め胃蠕動を起こさせる」などの工夫も試みてみるべきという発言もあった。

  逆流予防のために腸瘻に変更する場合もあるが、「繰り返し逆流して肺炎を起こすことよりはよい」のであり、それで嘔吐を完全にコントロールできるわけではなく、その後のトラブルや投与時間の長時間化という点で、問題が無いわけではない。安易な腸瘻への変更は慎むべき、というのが全体の意見であった。

<適正な栄養管理を行うには>

 胃瘻を造る目的は主に栄養状態を改善するためだが、胃瘻というルートがありながら必要な栄養量が補給されていないことも現実にはあるようだ。保険審査基準が低く抑えられている影響なのか、栄養評価が正しく行われていないためのかは定かでないが、個々の患者に必要な栄養量を確実に補給するためも、NST(栄養サポートチーム)が機能する必要がある。しかし現実には、NSTはまだまだ普及しておらず、栄養評価も行われていないことが多い。
 
  1日に投与する回数によってエネルギー効率が変わることが報告されているが、それを把握するためには身体測定がよい指標になる。血液生化学検査だけではなく、体重・上腕三頭筋・皮下脂肪厚などの値から、栄養が効果的に利用されているかを判断することも重要である。具体的には1000kcal前後の栄養剤を通常の回数よりも増やして投与し、1ヶ月後の患者の様子(顔色や肉づき)を観察すること、つまり観察と評価に基づいて投与カロリー量や投与回数の増減を行うことを徹底するべきであることが強調された。

<創傷感染の捉え方とその対策>

 瘻孔が完成する前(早期)の合併症として多い創傷感染の処置については、「イソジンで消毒する」ことの効果が論じられた。感染を起こしているのが筋膜・脂肪層であれば、皮膚の表面をイソジンで消毒しても効果は無いことになる。また皮膚がびらんを起こしている場合は、イソジン消毒は逆効果である。イソジンの使用は効果の有無を検討してから実施すべきであり、基本的には洗浄と排膿(必要があれば2-3mm皮膚切開して中の膿を押し出す)、および必要に応じた抗生物質の投与、というのが適正な標準的処置とされているが、実際の医療現場では、まだまだ「イソジン信仰」の壁は厚いようである。

  創部感染は術後2‐4日目がピークになり、この時期は胃の排出能が極端に低下するため、胃瘻からの投与をいつから開始するかの見極めもまた重要とのことであった。

<瘻孔からの漏れとその対策>

 瘻孔周囲からの漏れはスキントラブルの原因に直結しやすいため、その原因を明らかにして根本から解決することが求められる。人によって胃瘻カテーテルの種類によって漏れたり漏れなかったりというケースが多々あるので、違うタイプのカテーテルに交換してみることもある、という報告もあった。粘度増強剤は、2週間ほど使用しつづけると漏れの悪循環を一度止めることができるが、投与のたびに毎回利用するとなると自己負担という経済的な課題を残している。

 カテーテルのサイズより瘻孔が大きいためにその隙間から漏れが起こる場合は、いったんカテーテルを抜去し、数次間放置して瘻孔を小さくする方法もある。しかし、時間の経過と共に広がってしまい根本的な解決法にはならず、栄養状態が悪い場合は尚のこと小さくなりにくいとのことであった。局所的な対処の工夫のみならず、やはり栄養管理による全身状態の改善という面からも捉える必要があるようだ。

<安全なカテーテル交換のために>

 交換時期の目安はバルーン型が約1ヶ月、バンパー型は約6ヶ月、内視鏡は必ずしも使用しなくてもよいが、不安材料がある場合には内視鏡下で確認しながら行う、というのが一般的なようだ。交換しづらいケース、なんらかのトラブルを予想されるケースは当然のこと、可能であれば全例で胃の内腔にカテーテルが留置されたことを確認する必要があることも指摘された。

 バルーン型カテーテルの交換目安は1ヶ月とはいうものの、患者にとっては交換までの期間はなるべく長い方がよく、また医療期間側の経済的な問題もあり、チューブ型カテーテルの場合は酢水を利用した管理によって長期間清潔に保つ工夫をしている医療機関が増えているようだ。一方、バルーン型より値段の高いボタン型カテーテルであっても、在宅介護で器具の管理が正しく行われていれば1年近くまで耐久性が延びることもある。そうなると、頻繁に交換しなければならないバルーン型よりもバンパー型の方が結果的には医療費が安くなるのではないか、という意見も上がった。さらにバンパー型カテーテルの交換目安は、チューブの耐久性だけでなく逆流防止弁の機能もチェックすることが必要であることも指摘された。


<力テーテルの種類は4タイプ>


おなかの口(胃ろうカテーテル)は抜けないように、胃内固定版と体外固定版で止めています。
胃内固定版は「バルーン(風船)型」 と「バンパー型」の2タイプがあります。
 また、 体外固定版は「ボタン型」と「チューブ型」の2種類があります。


<バルーン型>

長所

バルーン内の蒸留水を抜いて挿入・抜去(出し入れ)するので、交換が容易である
  短所 バルーンが破裂することがあり、短期間で交換になることがある

<バンパー型>

長所 カテーテルが抜けにくく、交換までの期間が長い
    短所 交換時に痛みや圧迫感を生じる

<ボタン型>


長所


目立たず動作の邪魔にならないために自己抜去がほとんどない
栄養剤の通過する距離が短いのでカテーテルの汚染が少ない
逆流防止弁がついている
  短所 指先でボタンを開閉しづらい場合がある

<チューブ型>

長所 投与時に栄養チューブとの接続が容易である
    短所


露出したチューブが邪魔になり自己抜去(引っぱって抜いてしまうこと)しやすい
チューブ内側の汚染が起きやすい
PEGドクターズネットワーク発行「胃ろう手帳」p12-13より

 PEGは、まだすべての医療者が正しく理解し手技に習熟しているとはいえず、患者が複数の病院や施設を移動すれば尚のこと、造設後のフォローは難しくなる。適正な管理・ケアを行っていくためには、医療者間、また医療者と患者間における情報の開示・共有が急務であるといえよう。


<質疑応答>

:口腔内にMRSAがあって炎症反応が上がった場合、バンコマイシンなどを使用してプル法で行って良いか。
A:胃壁を固定しイントロデューサー法で施行すれば菌を瘻孔部に移植する心配は無いが、菌が同定されることと感染力の有無は別の問題。激しい感染が見られる場合はプル法は避けた方が良いが、そうでなければ「感染が起きる」ことを前提に施行することも可能だと思う。MRSAは栄養状態の悪い方に検出されることが多いので、栄養状態の改善も行うべき。

:口腔内の細菌に対する、術前処置としての口腔ケアは。
A:口腔外科のナースや歯科衛生士など経験の有る専門家に指導してもらうのが望ましい。嚥下障害がある場合は胃瘻を造るかどうかに関わらずイソジンガーグルによるうがいや清拭を行う。

:穿刺部位はどこが一番いいのか、あるいはどこでも同じなのか。
A:胃を膨らました場合、胃はやや左側の腹直筋を貫くところに位置し、それが一番距離が短く呼吸時の痛みも少ないと思われる。しかし、人によって肝臓の左葉が肋骨の下に這い出して来たり、肋骨丘の開き具合なども違うため、指サインが一番はっきりとわかるところを目安としたほうが、むしろ個々の症例に対応できる。

:瘻孔部感染への対応として皮膚切開を行う際、縫合はタイトとルーズとどちらが良いか。
A:皮膚切開は大きめで縫合しない。感染が起きてもドレナージできれば問題ないので、海外の文献では10mm前後も切開している。Tの字に切開すれば、ドレナージ量も多くなる。 

:ALSの患者でPEG施行から1年半、胃瘻カテーテルの交換時期にきているが、前回の交換でトラブルを生じたこともあり、主治医(神経内科)が半永久的にこれを使うということで入れたままになっている。交換時でも眼球しか動かない状態で下顎も拘縮して口が開かずレスピレーターを2年ほど使っている。腹壁も薄いようだが、経皮的に交換できるか。腹壁固定はしていない。
A:確実を期すためには内視鏡下の交換が望ましい。睡眠剤と鎮痛剤を使用し、開口器なども利用すれば、眠らせた状態で内視鏡下で行えると思う。

:微量元素の補給について。
A:現在市販されている経腸栄養剤だけで長期栄養管理を行っていくと、微量元素欠乏は必ず起こる。採血による検査で判定できるが、頻繁に検査を行うことは困難なことが多いので、通常の病態からは説明がつかないような貧血や皮膚症状が出たときには微量元素欠乏を疑う、という認識を持って対応する。微量元素補給飲料や抹茶・ココア・コンソメスープ、野菜ジュース、きな粉など(粉は薬のように溶かして使用)の食品を利用するのも安価で効果があるのではないか。