監修:
小川 滋彦(小川医院 院長)
責任編集:
倉 敏郎(町立長沼病院 院長)
高橋 美香子(鶴岡協立病院 内科)
編集委員:
石塚泉(公立甲賀病院 内科) / 日下部俊朗(市立千歳市民病院 消化器科)
平良明彦(津山中央病院 内科) / 松本昌美(奈良県立五條病院 院長)
村上匡人(村上記念病院 院長) / 村松博士(清田病院 副院長)
■症例・画像等提供協力者■
足立靖/石崎テル子/石田一彦/伊藤重二/伊東徹/今里真/遠藤高夫/大重京子/大嶋陽幸/大西浩二/岡田晋吾/岡野均/小野沢滋/香川俊行/梶山雅史/菊地勤/倉敏郎/倉田なおみ/近藤秀則/櫻井洋一/佐藤孝夫/城本和明/諏訪ひとみ/平良明彦/高橋美香子/鶴田真也/永原央/中谷吉宏/中堀昌人/中山佳子/西口幸雄/西野圭一郎/西脇伸二/久野千津子/藤城貴教/藤塚宣功/保刈伸代/堀内朗/前畑忠輝/松本昌美/丸山道生/水原章浩/三原千惠/武藤学/村上匡人/村松博士/矢野友規/山下真幸/湯浅博夫/笠健児朗/鷲澤尚宏(五十音順・敬称略)
主な内容
適応と造設:
造設方法とカテーテルに関する用語/造設時の出血/行結腸誤穿刺/臓誤穿刺/瘻孔形成不全/胃壁固定/術後早期のイレウス/Introducer変法のトラブル/気腹/術後早期のバンパー埋没症候群/術後早期の事故抜去/術後早期の創部感染瘻孔部への癌のImplantation/隠れ癌症例にご用心!
交換:
長期間交換されなかったカテーテル/誤挿入と誤注入にご注意/交換時の胃穿孔/交換時の出血/交換時のカテーテルの破損・脱落/逆流防止弁の反転と破損 交換時のカテーテル落下/ガイドワイヤーを過信しない
カテーテルトラブル:
事故抜去の予防とその対応/バルーン型カテーテルのトラブル カテーテルの接触による潰瘍形成/バルーン水に使用できるのは蒸留水だけ!/ボールバルブ症候群/バンパー埋没症候群/内部ストッパー周囲のポリープ/炎症性肉芽/経鼻胃管の確認法/PTEGのトラブル 結ばれたチューブ
スキントラブル:
慢性期創感染/残胃ではトラブルが起きやすい/肉芽への対応/瘻孔閉鎖不全/胃癌の瘻孔部浸潤
胃食道逆流:
食道炎と食道狭窄にご注意/半固形化栄養剤投与で胃食道逆流は減少する/漏れと逆流対策~半固形化栄養剤投与とPEG-J~
栄養:
半固形化栄養剤投与は施設連携を前提に/長期経空腸栄養に伴う微量元素欠乏/高タンパク栄養剤投与の注意点/半固形化栄養剤投与と胃石形成
薬剤投与:簡易懸濁法物語
訪問ナースの胃瘻いろいろ日記
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「失敗学」のススメ!
「失敗学」という学問がある(NPO法人失敗学会もある)。フリー百科事典『ウィキペディア』によると、“失敗学とは「起こってしまった失敗に対し、責任追及のみに終始せず、(物理的・個人的な)直接原因と(背景的・組織的な)根幹原因を究明する学問」”のこと。その上で、その失敗に学び、同じ愚を繰り返さないようにするにはどうすればいいかを考える。さらにこうして得られた知識を社会に広め、他でも似たような失敗を起こさないように考える活動」と定義されている。そして、その核となるのが原因究明 (CA:Cause Analysis)、失敗防止 (FP:Failure Prevention)、知識配布 (KD:Knowledge Distribution)なのだそうだ。
さらに失敗の種類について、
「失敗の種類は大きく3つに分けられる。
1.織り込み済みの失敗。ある程度の損害やデメリットは承知の上での失敗。
2.結果としての失敗。果敢なトライアルの結果としての失敗。
3.回避可能であった失敗。ヒューマンエラーでの失敗。
1と2の失敗は「失敗は成功の元」となり得る失敗である。また、この2つの失敗については、状況・結果などがある程度予測できたり、経験からくる的確な判断で対処したりすることができる。3の失敗は失敗から更なる悪循環が生まれる失敗である。予想しておけば回避可能であったにも関わらず、予想をしていなかったためにパニックに陥り、ますます、状況を悪くしてしまう。」と分類・解説している。
この度刊行された「PEGのトラブルAtoZ-トラブルから学ぶ対策そして予防-」は、まさに失敗学の本といえる。人の失敗を自分の失敗として再発防止に努めることは、生命を預かる医療者にとってはミッションとも言えるだろう。
他人(ひと)の失敗を自分の失敗としてかみしめる!
「…ひとは自分の失敗は隠したがる」という基本的性質を持っています。また、昨今、医療の分野では「合併症」という言葉に対してバッシングも強まっています。しかし、そんな「人に言えないような失敗」「冷やっとした経験」「恥ずかしくて穴があったら入りたい経験」を共有する事によって、「予防法や対策も共有していく」という姿勢が、結局は患者サイドにとっても医療者サイドにとってもきわめて有益であることは当たり前のことなのです。
そんな思いがこの企画の出発点でした。「自分の失敗を隠すのでなく、他人(ひと)の失敗を糾弾するのでもなく、他人の失敗を自分の失敗として共有し、自分の失敗と同じ轍を他人に踏ませないように役立ててもらいたい」という呼びかけに賛同して、編集者の先生方をはじめとして多くの医師とコメディカルが協力してくれました」(巻頭言:倉敏郎・高橋美香子)
PEGに関する秘伝のノウハウ:“Point Advice”
「“Point advice”に集約された内容は、通常のマニュアル書では伝えきれないPEGの極意の集大成となっている。それはある意味、千差万別の生身の人間に対する謙虚さと言ってもいいかもしれない。おそらくそんなことを最初から意図したわけではないだろうけれど、結果としてそうなっている。“Point advice”を通読するだけで、PEGに関する秘伝のノウハウが頭に入る仕掛けに、計らずもなっているところが本書のユニークな点といえる。編集の先生方には重ねて感謝の気持ちを伝えたい。」(監修の言葉:小川滋彦)
(本書より)
名医になる条件!
「私は外科医であるが、『信頼できる外科医とは』と考えると、今、マスコミが持ち上げている“神の手”を持った医者ではないと確信する。医療が対象としているのは、生身の人間である。どんなに正しいことをしても、時には想像もつかないトラブルに巻き込まれる。その時に適切な対応ができる外科医が信頼に足るのである。
PEGは内科系の医師が主に行うが、胃に孔をあけるのであるから立派な手術である。しかも、対象患者さんは、併存疾患を持った虚弱高齢者が多い。つまり、手術の内容は小さくても、受ける側の許容度を考慮すると、PEGは相対的に危険度の高い手術になる。また、PEGは栄養ルートとして長期間使われるので、その間の日常的な細かいトラブルは必ず生じる。
本書は、このようなPEGの一生の間に起こるトラブルに対して原因から対策までまとめたPEGのバイブルである。医師が名医になる必要条件は、トラブルに対して適切な対応ができることである」
(発刊に寄せて:PDN理事長・国際医療福祉大学病院外科教授 鈴木裕)