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高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン
人工的水分・栄養補給の導入を中心として(ワーキング・グループ試案改訂第一版)を拝読して

「導入を中心」とした試案として拝読しました。

導入時点で、いかに皆であらゆる場面を想定して検討しても、すべてを網羅することは難しい中で、このようなご提案をありがとうございます。

高齢者の人工的水分・栄養補給法の適応を考える際に、短期的には本人の医学的キュアの適応で判断しますが、長期的には介護側のケアの許容量が適応の大きな要素となると、多くの方が感じています。

そこで、導入時の適応を検討するにあたり、2点のコメントをさせていただきます。

1点目は、導入後の再検討の余地についてです。

人工的水分・栄養補給法は、事前に医学的に評価しても「開始してみなくてはわからない」ケースが多くを占め、その場では「胃瘻を造設することで可能性に賭けてみる」ことが精一杯で、時を経てから倫理的妥当性について考える事の意味を理解するに至る、といった速度が平均的な人の理解であると感じます。それを導入時点での判断に圧縮しようとすることは、脅迫的な要素を醸しだし、本人及び家族の真の意思を引き出せないと感じることがあります。

導入した後に望まない方向に至った場合に、「途中でやめる」という選択も許容できることを平行して提示していかなくては、導入時の決断に無理を強いることになると感じます。

導入を迷った時点で、その先にも再検討の機会があることを提示することができると、本人及び家族の真の意思を確認する時間が出来ると思います。

2点目は、ガイドライン中に経済的な要素が見えない点です。

本人の最善と家族の負担というガイドライン「1.医療・介護における意思決定プロセス」の中に、「1.5本人の表明された意思ないし意思の推定のみに依拠する決定は危険である。そこで、これと本人にとっての最善13についての家族14およびケア提供者たちの判断との双方で、決定を支えるようにする。また、あくまでも本人にとっての最善を核としつつ、これに加えて、家族の負担や本人に対する思いなども考慮に入れる15」とあります。

本人の真の希望を引き出すと「『自分たちが頑張るので、何としても生きていて欲しい』と家族に言って欲しい。」と涙されますが、それを言えない背景(負担をかけることへの懸念)があります。家族の負担を軽減する社会的なサポートが得られない理由は、経済的な理由が大きいのではないでしょうか。「倫理的妥当性」を考える上で経済的支援の要素は大きく、現場では具体的な数字を付け加えて現実的な適応を検討しています。ガイドラインでは、経済的観点からみた適応について触れる要素がないため、きれい事として現場との解離を感じてしまいます。

「経済的支援に限りがあり、十分受けられない事も踏まえて、長期に継続可能か否かを考えるべきである。」という要素を加えたほうが現実的なガイドラインに近づくと感じますが、意図的に希釈しているのでしょうか。

以上の2点につきまして、意見させていただきました。

西神奈川ヘルスケアクリニック 赤羽重樹