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 PDNレクチャーで詳細に解説されている「経腸栄養」。腸を経るということですから、口から食べるのも、鼻からのチューブで栄養を摂ることも、胃瘻、腸瘻、食道瘻などから栄養を摂ることも、経腸栄養です。

 ここでは、臨床現場で患者さんの全身状態を含めて栄養管理を行う管理栄養士の先生お二人が、PDN通信にご寄稿下さった記事をご紹介します。

 ・経腸栄養管理のポイント(宮澤靖先生)

 ・訪問栄養士からみた在宅PEG患者さんのチェックポイント(松月弘恵先生)(この記事です)

2.訪問栄養士からみた
 在宅PEG患者さんのチェックポイント


東京家政学院大学  松月弘恵(管理栄養士)

(所属・役職等は発行当時のものです)

松月弘恵

PDN通信 2号 (2002年10月発行) より

(所属・役職等は発行当時のものです)

PEGをはじめとする経腸栄養管理を開始すると、あたかも栄養管理の必要がなくなったように錯覚しがちである。しかし、PEG患者さんの栄養管理こそ、短期評価から栄養量の過不足に直結するリスクを発見し、速やかに胃対処することが必要である。

療養環境は整っているか

医療・介護・福祉施設では一定水準の医療・ケアや室温・湿度などの居室環境が確保できるが、在宅では居住環境や介護環境が整わない場合もあり、訪問時には療養環境のチェックが必要となる。

室温が異なれば不感浄泄(汗や呼吸による水分の蒸発)としての水分出納も異なる。また、胃瘻を管理する介護者の状況の変化によっては、栄養管理が困難になる場合もある。安定した療養環境が整っていてこそ、正しい栄養評価が行える。

何をチェックするのか

①短期評価(訪問時に行う評価)
具体的には下痢・脱水の有無、体温、水分出納、また経口摂取を併用しているのであれ場所くじからの摂取栄養量など御、訪問時に必ずチェックしてモニタリングを続ける。
さらに、栄養状態に問題がある場合には、体重を測定する。体重は着衣によって変動するため、入浴直前に測定するとよい(家庭での体重測定が困難な場合は、ショートステイ時などに測定を依頼する)。その際、浮腫の有無の確認が不可欠である。

②中期評価(1~3ヶ月に一度の評価)
体重、BMIは必ず確認する。また、上腕三頭筋皮下脂肪厚、上腕周囲長、上腕筋免責なども、1~3ヶ月に一度は評価したい。
栄養剤の適否についてはPEG施行後の下痢の有無を確認するのみならず、生化学的検査によって血糖値を確認する。高値の場合には栄養剤を低炭水化物・高脂肪である炭水化物調整タイプの栄養剤(食品扱い)への変更も考慮する。

③長期評価(6ヶ月に一度の評価)
状態が安定するにつれ、療養者や家族が「療養の楽しみとしての経口摂取」を望む場合がある。摂食訓練を行いやすいことも胃瘻のメリットである。経口摂取量を食事記録から算出し、不足栄養量を栄養剤で補えるように投与量を定める。
尚、栄養剤の過剰投与による肥満は、介護者の負担増にも繋がるので注意を要する。

栄養・水分の過不足

表1 目標エネルギー量の決定
  (1日必要エネルギー量 kcal/日)

BEE×Active Foctor×Stress Factor

BEE(基礎エネルギー消費量 kcal/day)
男性 66.47+13.75(W)+5.0(H)-6.76(A)
女性 655.1+9.56(W)+1.85(H)-4.68(A)
W:体重(kg) H:身長(cm) A:年齢

Active Foctor
寝たきり:1.1 歩行可:1.2 労働:1.4~1.8

Stress Factor
体温:1.0℃上昇→0.2ずつUP
 平熱36℃の場合
  37℃:1.2 38℃:1.4
  39℃:1.6 40℃以上:1.8

詳細な評価は生化学的検査を行わなければできないが、ここでは訪問看護師や介護者が栄養・水分の過不足を評価する方法を紹介する。

①目標エネルギー量の決定
栄養剤の投与量は、医師が決定する。一般的な算出法を表1に示す。

②投与熱量の評価-発熱の場合-
エネルギー量の過不足は、目標エネルギー量と経腸栄養剤や経口摂取からの摂取エネルギー量を比較して評価する。経口摂取併用の場合は、細菌では栄養表示を行っている食品が増えてきているため、摂取量を全製品の1/2,1/3等と判断し、エネルギー量を概算する。詳細は計算が必要な場合は、栄養士に相談する。
発熱時は、投与エネルギー量の変更が必要となる。平熱36.0℃の療養者が38.0℃に発熱した場合、通常は1,000kalであっても、ストレス度は1.0から1.4に増加するため、1,400kcal必要となる。短期評価で体温を確認するのは、速やかに投与エネルギー量を変更するためである。

③投与水分量の評価
1日当たりの水分必要量は30mL/kg(体重)として算出する。
1,000mLの経腸栄養剤には1,000mLの水分が含まれているわけではない。一般的に1kcal/1mLの栄養剤では,水分含有率は80~86%である。1.5kcal/1mLのものではさらに低く、76~78%となる。
療養者の体重が50kgの場合、必要水分量は最低1,500mLであるから、1,000kcalの投与を行っている場合、1kcal/1mLの栄養剤を使用していれば700mL、1.5kcal/1mLの栄養剤であれば1,000mLの水分を,栄養剤以外から追加しなければならない。さらに下痢、創部ドレナージ、発熱などでは、40mL/kg(体重)に増量する。
水分の過不足は,投与した水分の合計量と排泄量から評価する。秤量はオムツを使用している場合は、秤などを用いると計量できる。また、視覚で確認出来ない代謝水と不感浄泄によって20mL/kg(体重50kgでは1,000mL)失われていることも、覚えておきたい。

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以上のポイントを表2にまとめた。
介護者からの情報収集(体温、尿や便の回数・量・形状など)を含め、早期にリスクを発見・対処する栄養管理に役立てて頂ければ幸である。

表2 訪問時チェックリスト (*:介護者からの情報)

対象 チェック項目 評価


状態 体温 体温 訪問時    ℃
*発熱の有無 前回の訪問から
今回までに
   回
*発熱の期間 前回の訪問から
今回までに
   日間
*最高体温 前回の訪問から
今回までに
   ℃
体重 訪問時    kg
浮腫 浮腫の有無 訪問時 有・無
栄養の入 栄養剤 摂取量 (   )を    mL/day
水分 摂取量 (   )を    mL/day
経口摂取 *経口摂取 前回の訪問から
今回までに
有・無
*摂取の例(1日)    
栄養の出 尿 尿量(1日) 訪問時    mL/day
*回数(1日) 前回の訪問から
今回までに
 
下痢 下剤の有無 訪問時 有・無
*下剤の有無 前回の訪問から
今回までに
有・無
<下痢がある場合>    
*期間 前回の訪問から
今回までに
   日間
*回数(1日) 前回の訪問から
今回までに
   回
室内 気温 訪問時    ℃
湿度 訪問時    %

介護者の状態 健康状態 訪問時 良好・不良
介護疲労 訪問時 有・無

PDN通信 2号 (2002年10月発行) より

(所属・役職等は発行当時のものです)