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なにくそ!俺はここにいる 113

京都府 飛田洋さん(68歳)

自らを詠む

犬でも挨拶


『一』
寝たきりで
 時間潰しは   なれたもの
  見ては興奮   聞いては涙
寝たきりは
 何かと不便   不自由でも
  別に不幸や   不遇に非ず

『二』
寝たきりも
 誇り・己を   消しはせぬ
  欲は殺して   失うとても
寝たきりを
 侮るならば   さりげなく
  後の祭りで   後悔呼ぶぞ

『三』
寝たきりの
 願い一つは   食べること
  夢の欠片か   悲しい限り
寝たきりが
 まん丸丸く   過ごせたら
  それで満足   喜びなのさ

★ 自ら ~みずから
★ 非ず ~ あらず
★ 己  ~ おのれ
★ 侮る ~あなどる
★ 欠片 ~ かけら


『一』
犬でも挨拶
犬でも挨拶   してるのに
 挨拶する気   ないらしい
人間らしく   生きるのに
礼儀作法は   欠かせない
 西郷どんが   なげいてる

『二』
猿でも反省
猿でも反省   出来るのに
 反省なんか   せぬらしい
人間らしく   いたいなら
工夫努力と   知恵くらべ
 太閤はんは   あきれてる

『三』
牛なら涎が
牛なら涎が   似合うのに
 涎が大人に   似合わない
人間らしく   おるならば
根気我慢と   しんぼうと
 家康さんは   たしなめる

★ 涎 ~よだれ


愚弄と罵倒

待ちぼうけ


『一』
愚弄されても  お仲間さん
 何か意地でも  あるのなら
 固い意地でも  張るのだね
どろんこ昭和  生き抜いた
つまり自信が  あるのだろ

『二』
忘れそうでも  お仲間さん
 恩や義理など  欠かせぬと
 誰も義務だと  がんばるね
ろまんな昭和  知り抜いた
そんな誇りも  あるのだろ

『三』
罵倒されても  お仲間さん
 苦労甲斐など  得なくとも
 違う価値から  充たされる
がちんこ昭和  やり抜いて
そこに見込が  あるのだろ


『一』
待ちぼうけ
ほぼ毎日の   待ちぼうけ
 いまや私は   ベテランさ
別に慌てる   こともない
合間仕事が   似合ってる
『二』
待ちぼうけ
さも当然と   待ちぼうけ
 どうせ私は   ごくつぶし
山と時間は   持っている
急ぐ事なく   過ぎている
『三』
待ちぼうけ
だが退屈な   待ちぼうけ
 だから私は   かんがえる
声を忘れた   カナリアと
今は自分を   なぐさめる
『四』
待ちぼうけ
ただ辛抱の   待ちぼうけ
 なあに私は   負けていぬ
夢は今だに   燃えている
見えぬ心で   燃えさかる


全くじゃ山田隆夫ちゃん

女房の良さは顔じゃない


『一』
倒れた日から  十年あまり
 全くじゃ山田  隆夫ちゃん
手伝いなどは  出来なくて
足を引っ張り  つづけてる
 やれる我慢を  みちづれに
 どうぞ宜しく  たのみます

『二』
無駄飯食らい  随分寝てる
 私はじゃ山田  隆夫ちゃん
座布団はこび  出来たなら
笑点見ながら  リハビリー
 そんな野望を  抱きまくら
 どうぞ今後も  たのみます

『三』
不細工なのは  折紙つきと
 噂はじゃ山田  隆夫ちゃん
無精ひげさえ  わがままで
着っぱなしも  マイペース
 ペグを流して  ドラマ漬け
 今日も宜しく  たのみます

★ 山田隆夫-ず~とる~び


『一』
自慢の女房で  ありまして
 女房の良さは
 女房の良さは  顔じゃない
男に負けない  荒れた手で
痒いところを  かきながら
疲れかくして  明け暮れる

『二』
糠みそ女房で  来たけれど
 女房の良さは
 女房の良さは  顔じゃない
女で媚びたり  ふくれたり
芝居もどきは  せぬだけに
今も変わらず  惚れている

『三』
婆さん女房と  言うけれど
 女房の良さは
 女房の良さは  顔じゃない
中年ぶとりを  持ちこたえ
痴呆もどきと  言われても
味は出せない  真似出来ぬ

★ 媚びたり ~こびたり

主治医より一言

<<自らを詠む>>

 寝たきりの願い一つは、食べることにありますが、私は知ってますよ。飛田さんが好きなプリンを口から味わっている事を...。それがPEGの利点の一つですからね。