PEGを用いた経腸栄養法 | |
東京慈恵会医科大学 内視鏡科 川崎 優子 |
●経口摂取が不可能あるいは不十分な場合の栄養投与法 経口摂取が不可能あるいは不十分な場合には栄養補給を行う必要があります。たとえば脳梗塞、脳出血などの脳血管障害やその他の神経疾患で嚥下機能障害を来たした場合、頭頸部や食道の腫瘍で手術を受け、物理的に経口摂取が困難な場合、あるいは痴呆や消耗性疾患で充分な経口摂取が行えない場合などが挙げられます。 栄養補給の方法は大きく分けて経静脈栄養法(parenteral nutrition : PN)と経腸栄養法(enteral nutrition : EN)があります。さらにENのなかでは栄養剤投与の道筋の違いで経鼻胃管を用いた経腸栄養法と経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy : PEG)を用いた経腸栄養法が多く行われています。 ●経静脈栄養法と経腸栄養法 経静脈栄養法は静脈にカテーテルを留置して、点滴として栄養剤を血管内に投与する方法です。 胃や腸などの消化管の手術を行った直後は消化管の縫合部に食物を通過させることができないため、経静脈栄養法は画期的な方法として脚光を浴び、これまでわが国において広く普及してきました。 現在では、病室でも比較的安全に静脈へカテーテルを留置することが可能となってきたため、消化管手術後でなくても栄養補給の手段として経静脈栄養法を病室に限らず目にするようになりました。 経口摂取が全く出来なくても必要な栄養素を調合して投与する完全静脈栄養(Total Parenteral Nutrition : TPN)を用いる方法もあります。最近では静脈にカテーテルを留置したまま在宅で医療を受けている患者さんも見受けられるようになりました。 一方、経腸栄養法は経鼻胃管あるいは胃瘻チューブを用いて栄養剤を胃内や腸内へ投与する方法です。 ●経静脈栄養法と経腸栄養法はどこが違うのか? 経静脈栄養法も経腸栄養法も計算された必要充分なカロリーや栄養を投与できるという点では、優劣はありません。しかし長期にわたりこれらを行った場合にはいくつかの違いが出てきます。 1.細菌感染 経静脈栄養法ではカテーテルが直接血管内に入っているため細菌感染を起こさないように充分な注意が必要となります。具体的にはカテーテル留置部や接続部の念入りな消毒と、カテーテルの内腔が栄養剤や逆流した血液で詰まってしまわないように頻回に洗い流すこと(フラッシュ)が必要となってきます。万が一感染を起こすと熱が出たり(カテーテル熱)敗血症になったりすることがあります。こういった場合にはカテーテルを抜かなければならなくなります。 一方、経腸栄養では栄養チューブが直接血管内を通るわけではないので細菌感染に関しては経静脈栄養ほど神経質にならなくても大丈夫です。したがってカテーテル管理、あるいは栄養チューブ管理の点で経腸栄養の方が取り扱いは簡便であるといえるでしょう。 2.小腸粘膜萎縮 完全静脈栄養法を行うと消化管を食物が通過しないため小腸粘膜が廃用性萎縮を来たすことが知られています。消化吸収の場である小腸粘膜が萎縮すると粘膜の表面に存在する消化吸収に関与する酵素の活性が低下したり、吸収面積自体が減少して効率よく栄養素が取り込めなくなると考えられています。また小腸粘膜が萎縮することにより、腸管のバリア機構(消化管免疫)が低下し腸内細菌が腹腔内へ漏出して腹膜炎を起こしたという報告もあります。 一方、消化管の中を食物が通る経腸栄養法は、経静脈栄養法と比べて、より生理的で人体に与える悪影響も少ないと考えられます。 ●経鼻胃管を用いた経腸栄養法とPEGを用いた経腸栄養法 経鼻胃管を用いた栄養法は鼻から軟らかいチューブを挿入し、先端を胃内あるいは小腸内へ送り込んで栄養剤を注入する方法です。病院ではもちろんのこと患者さんの家族や患者さん自身でもチューブを挿入することが可能で容易な方法です。実際に多くの患者さんが経鼻胃管による経腸栄養法を行っています。 しかし経鼻胃管を用いた経腸栄養法にもいくつかの問題点があります。経鼻胃管による咽頭や喉頭の違和感がありリハビリの妨げとなったり自己抜去の原因となることがあります。鼻から消化管までの長いチューブのルートが栄養剤で詰まることもあります。そしてなによりも重大なことは、チューブ留置が誤嚥性肺炎を引き起こしやすいことです。胃液や注入された栄養剤がチューブを伝って咽頭や喉頭へ逆流し誤嚥することが、少なからず起こっています。 このような経鼻胃管を用いた経腸栄養法の問題点を解決した方法が、PEGを用いた経腸栄養法といえるでしょう。PEGは内視鏡を使って腹部の体表から胃内へ小さな穴をあけチューブを留置する方法です。全身麻酔ではなく局所麻酔で行いますので、内視鏡室や病室で造設することができます。造設にかかる時間は通常10~15分です。2~3日は傷の消毒や安静が必要になりますが、出血や局所感染がないことを確認して栄養剤の注入を開始します。 また瘻孔(腹部の表面から胃までのトンネル)が完成してしまえば、シャワーを浴びたり湯船につかったりすることもできます。そうなれば消毒をする必要もなくなります。食事の後、口の周りを拭くように、栄養剤注入後に胃瘻チューブのまわりを清潔な布で拭いて手入れをします。PEGでは経鼻胃管と違いチューブが咽頭や喉頭を通過しないので違和感からも解放され、嚥下のリハビリテーションを開始することも可能となります。また、経鼻胃管留置の場合にみられる誤嚥性肺炎も防止できます。 このように、同じ経腸栄養法でもPEGを用いた経腸栄養法は更に優れた方法といえるでしょう。 自験例の中には、経鼻胃管を用いた経腸栄養を行った場合、PEGを用いた経腸栄養法と比較して体重と血清アルブミン値が低い結果となった症例もありました。経鼻胃管では、チューブの詰まりや折れ曲がりで栄養剤の注入がスムーズに行われなかったり、誤嚥性肺炎をおこして体力を消耗したり、また咽頭・喉頭の違和感や顔面からチューブが出ているストレスなどが、総合的に関与していると思われます。 ●まとめ 栄養補給が必要な患者さんへの栄養投与方法として大きく分けて経静脈栄養法と経腸栄養法があることを述べました。経腸栄養法は経静脈栄養法と比べて、より生理的なため、投与された栄養を有効に利用することができ、また合併症も少ない方法です。 アメリカ静脈経腸栄養学会(ASPEN)のガイドラインが提言しているように、何らかの原因で経口摂取ができなくなった人あるいは不十分な人への栄養投与方法は、消化管機能が温存されている場合には経腸栄養法を第一選択とするのが良いでしょう。更に取り扱いが簡便で経鼻胃管による経腸栄養法の問題点を解決したPEGによる経腸栄養法は今後、栄養補給法の主流となっていくと思われます。 「PEGへのご案内」(2001年6月30日発行)より |