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インターネットにもっと日本語の医療情報を

東京大学先端科学技術研究センター教授
ロバート・ケネラー, J.D., M.D.

同センター協力研究員
首藤 佐智子(翻訳)

●お買得情報よりも医療情報を求めて

諸外国の状況を見ると、インターネットを介して医療情報を得ることができるようになって、医療の現場に顕著な変化がおこっている。

ある調査(Pew Internet and American Life Project)によると、アメリカでは、病気、治療法および健康管理に関する情報を得るためにインターネットを利用したことがある人は約5千万人にのぼるという。アメリカでオンラインショッピングが日常茶飯事であることは周知の事実だが、実際のところは、買い物をするため(47%)よりも医療情報を得るため(55%)にネットを使っている人の方が多いのである。こうして得た医療情報は、医師の診察を受けるべきか、医師にどのような質問をするべきか、病気にどのように対応するかといった判断を下す際に生かされているわけである。

インターネット上で簡単に手に入れることができる英語の医療情報は膨大な数にのぼる。国立衛生研究所(NIH)や国立疾病対策センター(CDC)のような政府の医療関係機関、メイヨクリニックのような大学病院、さらにはWeb M.D. のような民間企業によって運営されている高度なウェブサイトを利用することで、一般の人でもわかりやすい医療知識を得ることが可能だ。もちろん、Alta Vista、Yahoo、Googleのような一般の検索エンジンを使って医療情報を得ることもできる。情報の質はそれぞれのサイトによって様々だが、それなりに知名度のあるサイトであれば、情報の質も一般に高いといってよい。

●立ち遅れている日本の状況

日本の状況はというと、残念ながら、同様とはいえない。ごく一部の例外を除いては、政府の医療関係機関も医師による団体や民間企業も、一般の人向けでありながら質の高い医療情報をインターネットで提供しているとはいえない。ある特定の病気に関しての対応の仕方を調べようとして検索を行っても、その大半は、政府や民間の研究機関などによる素人には難解すぎる専門知識に片寄ったサイトか、医学とは無縁な素人が自らの経験を語っているホームページである。前者の場合には、意図的ではないにせよ、「不親切」といった印象をぬぐいきれないし、後者の場合には、ホームページの作成者が多大な時間と労力をかけているのは明らかなのだが、医学の専門家の視点が欠けていることで、その価値自体に疑問が生じてしまう。

日本人の医師の中にも、インターネットを通じて医療情報を提供するために奮闘している人もいる。しかし、問題は充実した医療情報をウェブサイトで提供したり、情報ネットワークを立ち上げたりするためには、人手も予算も足りないというのが現実だ(Japan Times 2001年2月21日付の記事から)。

●患者自身が積極的にとりくむ

なぜ日本のインターネット上の一般向け医療情報は遅れているのだろうか。まさか、政府や医療関係者は、患者が生半可な知識を持つことによって医師の威信が脅かされ、ひいては医療保険制度への経済的負担が増加することを憂慮しているとでもいうのだろうか。そうとは考えたくないが、仮に事実なら、それは無責任な短絡的な考え方で、実際のところ、そちらの方が憂慮すべき問題である。もちろん、より高度の医療知識を持った患者は、治療法の選択について質問をするだろうし、セカンドオピニオンを得ようとするかもしれないわけであるが、そのように患者が自身の健康管理に積極的な関心をもつことは、結局はより健康な社会の構築に向けて良い結果を生むはずである。医療情報がより簡単に得られるようになれば、医師の診察を受けないで済む患者も出てくるであろうから、保険制度への経済的影響はマイナスばかりではないはずだ。


日本人は、アメリカ人やヨーロッパ人に比べて健康に関する情報に対する関心が薄いが、日本におけるインターネット上の一般向け医療情報が遅れている原因の一つはここにあるかもしれない。一般人の関心事に関する国際比較調査(米国科学評議会による「科学技術指標2000」から)では、医学的な新事実の発見に対しては、アメリカ人、カナダ人、ヨーロッパ人の方が日本人より関心をもっていることが示された。また、国際比較調査の専門家によれば、日本の高校生の科学知識はアメリカの高校生よりも優っているのだが、大人の科学知識となると、先進国の中で最低である(ちなみに最高は米国)という。日本人の高校卒業後の科学知識の衰えには、複雑な背景があるので、一概に因果関係は語れないのだが、インターネット上での医療情報提供状況や、医療全体に対しての患者の参加する度合いが、日米で大きく異なることが、日本の状況を不利にさせていることは大いにあり得る。この点に関しては、政府レベルでの対応が必要であり、インターネット上における医療情報提供の改善はその一歩になるであろう。

●日本人による日本人のための医療情報を

日本人が、一般人にもわかりやすく、質も高い医療情報をインターネットで得られることを要求する日が近々来るのは間違いない。もし、日本の医療関係者や政府が提供しなければ、海外からの提供者が現れるのはそんなに遠くない将来かもしれない。既にそこにある情報を翻訳さえすればよいのだから。そんなことになれば、日本の医療関係者は、日本の医療全般に貢献する大切な機会を見逃すことになる。日本の医療のことは、海外からの提供者よりも日本の医療のことを一番よくわかっている日本の医療関係者が、それに見合わせた情報と方法で提供するのが一番よいはずだし、なによりも一番早いはずである。日本の政府と医療関係者は今や一致団結して医療情報を提供する場をインターネットに構築するべきである。海外の政府医療関係機関によるウェブサイトのモデル(一例を挙げれば、米国立衛生研究所による PubMed Plus)はいくらでもある。もちろん、個人の医師や医師グループによる一般人向けの医療情報提供サイトに対しても、それが良質で発想に富んだものであれば、政府や医療関係機関が支援することが望まれる。実際のところ、日本人医師によるそのような尽力は一般の人々に有益な情報ネットワークを構築するために、最も効果的な手段である。そのようなネットワークを構築することは、医師がサイトの情報を更新し続け、その情報を日々の医療行為に生かし、医療の質を向上させることにつながるはずである。

「PEGへのご案内」(2001年6月30日発行)より