PEGドクターズネットワーク(PDN)は、患者主体の医療情報提供組織である。

PEGドクターズネットワーク理事長
国際医療福祉大学病院 外科 教授

鈴木 裕

●PDN設立に至る背景

昨年11月末、PEGのホームページ開設を緊急に行いたいという目的をもって、身近な協力者を頼み、その具体的な方法について検討をはじめた。趣旨は「患者さんとご家族へのPEGの有用な情報発信」であった。検討を重ねた結果、情報発信母体として、何よりもNPO法人の設立が先決であるという結論に達した。こうした検討会では、東京大学先端科学技術研究センターの、弁護士であり医学博士でもあるロバート・ケネラー教授に参加していただき、貴重な意見と激励を頂戴できたことは幸いであった。

こうして本年1月9日、東京都に「PEGドクターズネットワーク」(以下略称PDN)のNPO法人の申請を行い、去る4月13日、正式に認証を得てPDNは東京法務局に登記された。

PEGの適用症例は、ほとんどが慢性疾患や長期に障害を抱えた、口から食べられない、あるいは経口摂取が不充分な患者である。これら嚥下機能に障害をもつ患者の多くは、介護保険で要介護と認定された高齢者である。PEGは、こうした栄養摂取に苦悩する要介護者が家庭に帰るための道を拓いた。患者のQOLの向上、介護負担の軽減など、嚥下障害患者のケアを容易にしようというPEGの医療理念が、在宅介護の推進という介護保険の基本理念と制度に合致し、さらにPEGが持つ医療費軽減という経済効果も加わって、PEG普及の基盤整備につながったと云えよう。

話が前後して恐縮であるが、一昨年6月、私は「おなかに小さな口PEG」という一般読者向けの書籍を出版した。およそ700例のPEG施行から学んだ経験の集大成のつもりであった。その巻末に大学のE-mailアドレスを掲載したところ、多くの読者からメールが寄せられ、いきなり私はその返信に多忙を極めることとなり、今更のように嚥下機能に障害を持った患者さんの多さを実感させられた。こうしたことが、ホームページ開設、NPO法人設立の直接の動機となったことも申し添えておきたい。

●PDNの運営

PEGに纏わる医療は、多くの診療科に関連する。それだけにPEGの情報発信は、脳神経外科、神経内科、外科、一般内科、耳鼻咽喉科、小児科、リハビリテーション科など各科の専門医、また在宅介護と密接な関係にある開業医、コメディカル、ソーシャルワーカー、訪問看護婦など多彩なか顔ぶれが揃わなければならないし、地域密着型のネットワークづくりも緊急を要する。また情報提供活動を遂行するにあたっては、取材スタッフなどの人材や経費も計算に入れなければならない。さらに我々が持ち合わせていないNPO法人にかかわる知識の習得も疎かにはできない。

しかし、いま必要としていることを、いますぐ始めることが最も大切である。最善を尽くして活動を開始し、問題が発生したらその都度解決を求めるという基本的なスタンスをとることにした。設立趣意書に記しているように、患者さん、ご家族が必要とする情報を提供するという目的は、今の時代が必要としていると確信するからである。同時に、医療者・医療施設間の認識の格差是正や医療の質の底上げなど、医療サイドにとってもPEGに関する情報が必要であることを痛感している。さらには、医療薬や機材を扱う企業にも正しい情報を提供する必要性を感じている。

特定非営利活動法人の設立理念には、同じ考え方を持つ善意の参加者を積極的に受け入れることがあげられている。これはまさに、私どもPDNの理念そのものと一致している。PDNには派閥色、系列色、学閥色、企業色など、いかなる色もつけてはならない。敢えて言えば市民色であり、ここに参画する医療従事者は市民の一人であるという自覚を堅持する者たちである。

●PDNからの呼びかけ

PEGの適用となる患者は施設介護、在宅介護を問わず、多様な医療スタッフの協力をえて長期のケアに取り組まなければならない。即ち、急性期の病院主治医、内視鏡医、プライマリーと介護の核となるホームドクター、また病棟看護婦、訪問看護婦、理学・作業・言語療法士、薬剤師、栄養士、ソーシャルワーカー、ケアマネジャー、介護福祉士、ヘルパー、あるいは医療機関、介護保険の運営母体である地方自治体の連携、さらにはキットや栄養剤関連の企業が患者のニーズを反映した製品開発やサービスを推進してゆくことも必要となろう。PEGの症例を多く手がけてきた医師のひとりとして、PEGは決して医師だけによって可能な医療でないことを強調しておきたい。

以上のような基本理念を踏まえて、PDN設立に至った。ホームページを担当していただく医療スタッフは、それぞれのキャリアの中で、PEGに精通された先生方である。具体的な症例に対して、PEGのメリット、デメリットを多角的に提言していただく。医療者はそれぞれ体験から学んだ知識をわかり易く語り、患者・家族もまた、同じ立場の患者・家族を癒し励ますため、自分自身が学んだ闘病体験記を提供してほしいと思う。

今後の活動としては、セミナーの開催、アンケートをはじめとする情報の収集、印刷物・映像の制作など、多角的に展開していく計画である。時間的な制約もあり、「まず行動を起こすべし、しかる後、多くの知恵を集めて育てるべし」という発起人の総意から、準備不足のままスタートしたが、PDNは先にも述べた通りNPO法人であるから、今後、多彩な人びとの自由な参画を切望してやまない。最後になってしまったが、本冊子発行と今後のホームページ運営に賛同を賜わり、積極的に協力をお申し出下さった諸先生、体験記をお寄せ頂いた患者・家族の皆さんに、心より感謝の意を表したい。


若輩で力不足の私ではあるが、PDNの発展に役立ちたいと決意も新にしている。皆様のご指導、ご支援を賜りたい。

「PEGへのご案内」(2001年6月30日発行)より