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高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン(試案改訂第一版)を読んで

AHNの定義を具体的にすべきである。「AHNとは経管栄養、静脈栄養をいい、経管栄養には胃瘻や経鼻経管が使用されることが多く、静脈栄養には中心静脈栄養と末梢点滴での栄養水分補給がある。」とすべきと考える。

(理由)
現在、家族・介護者との話し合いで、胃瘻を作らないことになった場合、そのほとんどのケースで、中心静脈カテーテルを留置しておこなう中心静脈栄養法や末梢点滴からの栄養や水分補給を行うことを、家族や介護者が希望する。胃瘻は拒否して、静脈栄養となるケースが後を絶たない。医学的・科学的には、摂食・嚥下障害患者本人にとって、腸を使った胃瘻栄養法が静脈栄養に勝っているのは明らかである。このガイドラインが胃瘻造設にブレーキをかけ、不合理な静脈栄養を増加させることになる可能性が高いと考える。これでは全く何のためのガイドラインかわからない。ここでいうAHNは「静脈栄養・末梢点滴を含める」ということを明確に打ち出す必要があると考える。
長浜雄志:静脈栄養法との比較、丸山道生編、経腸栄養バイブル、p16-22、日本医事新報社、東京、2007


このガイドラインでは、認知症や嚥下障害がかなり末期的な状態になった時期にPEGが行われ、胃瘻栄養が行われることを想定していると考えられる。この点が問題である。摂食・嚥下障害の程度が軽いうちにPEGを行い、経口栄養と併用して胃瘻栄養を行う方がQOLの改善、維持につながることを、欄外に、例として提示すべきと考える。

(理由)
現在、PEGは、摂食・嚥下障害の比較的早い時期に行われ、嚥下リハビリが積極的に行われて、嚥下調整食などの工夫で、より正常に近い食事の摂取を目指すようになっている。重度の嚥下障害でまったく経口摂取が行われていない患者より、嚥下障害の程度がそれより軽い段階で、ある程度の経口摂取をしている患者にPEGを行った方が、経口摂取の改善がよいことが分かっている。それを「食べるためのPEG」と称している。QOLの観点からも、早めのPEGが有効である。現在、PEGの施行医の多くが、この点の配慮をしており、ガイドラインで想定される末期的状態の患者へのPEGは逆に想定されていない。この点の配慮がまったくガイドラインに入っていない。
NPO法人PEGドクターズネットワーク:認知症患者の胃瘻ガイドラインの作成調査研究事業報告書、平成22年度老人保健事業推進費等補助金


「高齢者の摂食・嚥下障害に関しては、そもそも、それが進行してしまう前に、嚥下機能の評価を行い、それにふさわしいリハビリテーションと嚥下調整食や、時には強制栄養も併用した栄養療法を行って、嚥下機能の回復を計り、再び十分な経口摂取ができるようにするのが基本的な対処法である。この大前提を明確にしたのちに、それでも症状が進行した場合に、このガイドラインを参考に人工的水分・栄養補給を考える。」という前提を明記すべきであると考える。

(理由)
現在、摂食嚥下障害患者に対する嚥下評価や栄養療法、リハビリテーション、薬剤治療などが徐々に広まりつつあるが、全国的にはまだまだ十分というえる状態には至っていない。そのため、摂食嚥下障害が非常に進行し、口からの摂取が全く不可能になるまで対処されずに、いきなりAHNの導入が行われる傾向がある。現時点での問題点は、このように摂食嚥下の機能低下を早期に評価し、訓練や栄養療法で、「最期まで口から食べられる」を行う医療が行われていない点にある。摂食嚥下障害患者のトータルな医療体制が確立することにより、AHNの導入、もしくはそれを行わないことに対する患者個人個人とその家族、そして医療者の共通認識が生まれ、このガイドラインの求めているところが自然に生まれてくる。この点の認識を促す意味においても、上記の記載をこのガイドラインに盛り込むことがいいのではないかと考える。

綠道子・病院勤務医(東京)