東日本大震災による経腸栄養剤の不足について
経腸栄養剤、4月・5月で最大2割程度分の不足の見込み
厚生労働省は4月1日、「経腸栄養剤の適正使用に関するお願いについて」の事務連絡を行いました。
経腸栄養剤の限られた在庫の適正使用ということで、日本医師会は保険医療機関及び保険薬局に対し、
●経口摂取出来る患者さんは出来るだけ医療食で代替していただく
●保険適用となる経腸栄養剤は、在宅患者さん優先に
と呼びかけています。
[No.14423] 地震の影響 From:Q 2011/03/28(mon) 14:03:53
今回の地震で 被災された方に お見舞いを申し上げます。
当地 千葉では一部地域で 津波・液状化の被害が出ました。 停電も復旧し、「計画停電」は あります。
さて エンシュアリキッドの工場は 被災しなかったものの、仙台の製缶工場が被災し、製品の出荷が 止まっているようです。 4月下旬に出荷再開とか?
ラコールも 出荷制限をしているようです。
在宅で PEGから これらの製品を用いて 生活している方々 一時的に 食品の製品を使用することになるかもしれません。
Re:地震の影響 From:Shizz@病院薬剤師 2011/03/29(tue) 21:01:47
アボットのHPにてエンシュアリキッド缶の供給再開は「5月下旬」とのコメントがUPされていますね。
一昔前にくらべ、食品扱いの濃厚流動食が非常に高性能化しており、まったく遜色ありません。
私の県では「市販の濃厚流動食が使えない理由はなにか?」という姿勢で、ラコールやエンシュアを査定してきます…。すごい厳しいです。
医薬品から濃厚流動食(食品)への変更にあたって
医薬品から濃厚流動食(食品)への変更にあたっての注意点などに関して、専門家の先生方からのコメントをいただきました。ご参考になさって下さい。
地域栄養ケアPEACH厚木 江頭文江先生(管理栄養士)からのコメント
1:栄養成分をそろえる
このENマップがあるので、エネルギーだけではなく、タンパク質量や半固形化の有無、栄養成分(消化態等)なども選択できますね。
しかし、食品系の入手も厳しくなってきているという中で、実際の災害時は、これを参考にするけれども、きちんとエネルギー、タンパク質をそろえる、ということすら難しいのではないかと思います。
被災地以外でも、代替えが必要になった場合は、まずは消化態、半消化態などの栄養成分をそろえるようにし、下痢などの問題が出ていなければ、多少タンパク質の増減があっても、仕方がないかと思います。
どうしても不足してしまう栄養素については、プロテイン製品の追加、食物繊維、ビタミン・微量元素の追加などは、サプリメントや市販の機能食品の利用などで、工夫することができます。
2: 医学的リスクとモニタリング
エンシュアを使っていた方が、食品の高タンパク系の流動食を選択した場合は、腎機能などのモニタリングを行わなければなりません。
また、半固形化製品を使っている人でも、時間短縮だけで使用していたのであれば液体タイプで問題ありませんが、逆流等のリスクがある方には、なんとか半固形を継続したいですね(流動食+増粘剤などでも)。
一時的であれ、モニタリングは、消化機能(排泄)、腎機能、逆流など医学的リスクをもっていたかどうかと、代替え後、そういったリスクが出てきたかを見ていかなければならないと思います。
3:ミキサー食利用時の注意点
被災地からは、すでに栄養剤がないため、どのようにしたらよいかと問い合わせがあり、常食(非常食)をミキサーにかけ、水分を調整して粘度を調整し、カテーテルチップで注入する方法をお伝えしました。その場合には、でんぷん系の主食(米、パン、麺等)や芋類、繊維の強い野菜や肉類などのミキシングに注意しないと、チューブ詰まりにつながるので、気をつけて下さい。
ミキサーにかける際には、しっかりと水分を加えて粘度調整をしましょう。
地域栄養ケアPEACH厚木 江頭文江(管理栄養士)
(株)フレディタカノ薬局 長谷川聰先生(薬剤師)からのコメント
さて、今回の経腸栄養剤不足の事態についてですが、医療従事者の我々ですら情報と物品を求める状況ですから、実際にこれを使っていらっしゃる患者さんご本人およびご家族の皆様は、さぞご不安のことと、心中お察し申し上げます。
現在、被災したメーカーだけでなく、関係する多くの団体、すなわち、経腸栄養剤を製造・販売しているメーカー全体、厚生労働省、医師会、薬剤師会、関係する学会などが連携して、この状況を乗り切ろうと尽力しているところです。今回の大震災では、この経腸栄養剤以外にも同様に、供給不足が予測された医薬品がありましたが、各所調整の結果、供給の目処がたったとの報告がなされてますから、経腸栄養剤もいずれ同様の報告がなされることと期待しています。
万が一、経腸栄養剤が変更となった場合の対応ですが、基本的にあまり不安にならないでも宜しいかと思われます。
ただし、栄養剤の内容(各種栄養成分の量や配合比)が異なるため、一時的な下痢や便秘、お腹が張るなどの不快感が生ずることは予測されますので、主治医・看護師・薬剤師などとの連絡をいつもよりも密にしていただき、ご対応いただければ宜しいかと思われます。
大震災の影響はまだ当分続きそうです。これから暑い時期になる中、東日本では電力不足による停電も予測されます。停電が実施されるともちろん空調も止まってしまいますので、停電時の温度管理および脱水症への注意も必要になってくると予測されます。
色々ご不安なことは尽きないとお察しいたします。ご不安なことは身近な医療従事者やPDNの掲示板などへ、何なりお寄せください。我々医療従事者も先に先にと予測して対応していくよう努めますし、皆様の不安の声を基に更に対応を考えてまいりたいと思います。
(株)フレディタカノ薬局 長谷川聰(薬剤師)
「経腸栄養剤切り替え時の留意点」
福井県立病院 内科 NST chairman 栗山とよ子先生
このたびの東日本大震災により、亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。早いもので1カ月が経過いたしましたが、まだまだ被災地では困難な状況が続いているようです。
この未曾有の大災害によって多くの工場も被害を受け、栄養管理関連におきましても経腸栄養剤エンシュアの出荷が困難となり、さらにその影響によって同じく薬品取り扱いのラコールの供給も需要を満たすのが難しくなっているようです。
従いまして今まで同栄養剤を用いて経管栄養を受けておられた患者さんも他剤への変更が予想されます。そこでエンシュア・ラコール栄養剤の特徴と、他の栄養剤に切り替えられる場合の留意点を思いつくままに列挙してみました。
1.蛋白質含有量について
PDNのHPにある経腸栄養マップなどを利用して症例にあった栄養剤を選択していただければと思いますが、基本的には投与カロリーが適切であればいずれの栄養剤も平常時に対して十分な蛋白質を含有しており、三大栄養素のカロリー比にそれほど神経質になる必要はありません。
2.蛋白質と尿素窒素
エンシュアの蛋白カロリー比は14%です。高蛋白含有量(>20%)の栄養剤に変更してそれが長期化する場合は、特に腎機能の低下が疑われる高齢者では尿素窒素の上昇の有無などをチェックしたほうがいいかもしれません。
3.ビタミン、ミネラルなど微量栄養素の含有量
ビタミン、ミネラルなど微量栄養素の含有量は製剤によって若干の違いはありますが、900~1200kcal程度投与するとほぼ推奨量を満たすよう設計されています。
4.ビタミンKに関して
ラコールに含まれる量は他剤と比較してかなり多いので、もしワルファリンを使用されている場合、ラコールから他剤へあるいは他剤からラコールへ変更される場合はワルファリンの効果が変化する可能性があります。安定までチェックが必要です。
5.食塩含有量
食塩含有量は、1200kcal前後投与時にエンシュア、ラコールともに2.2~2.5g/日と少なめに設計されています。一方、食品扱いの栄養剤では同カロリーあたりに含まれる塩分量は下記の通りです。
1.7~2.2g ;MA-7, MA-8, テルミールソフト, アイソカル2K,/プラス、腎障害用、肝障害用
2.3~4.0g ;上記・下記以外のほとんどの半消化態栄養剤
4.1g~ ;メディエフバッグ、ぺムベスト、L-6PMプラス、L-8、ハイネ、PN-Hi、E-7(S)、サンエットA/GP/SA、リカバリーMini
特に腎機能に問題がなければ多少の増減は問題になりませんが、もし塩分含有量が大きく異なる栄養剤に変更する場合、あるいは別に食塩を添加されていた場合など引き続き追加が必要かを判断するために、できれば変更前後での血清Na濃度の測定が望ましいと考えます。
6.食物繊維
薬品扱いの両栄養剤には食物繊維が添加されていませんが、食品扱いの栄養剤の多くに添加されておりその含有量は0~2.0g/100kcalと製品によって差があります。便通に影響(多くは好影響ですが)する可能性があり緩下剤を使用している場合効果に変化が出るかもしれません。一度使用製剤の含有量を確認してください。
参考:エンシュア、エンシュア・H、およびラコールの主な栄養組成
参考のため、エンシュア、エンシュア・H、およびラコールの主な栄養組成を下表にお示しします。
福井県立病院 内科 NST chairman 栗山とよ子
「栄養剤の固形化について」
Shizz@病院薬剤師さんのコメント(PDN談話室の書き込みより)
[No.14422] 今更ですが栄養剤の固形化について From:M 2011/03/20(sun) 16:52:45
仙台市在住です。
震災前はリーナレンMP4本(カロリー800)を水200ccで、水800cc~1000ccをそれぞれ別々に寒天で固形化して注入していましたが、震災でガスが使えず電気コンロでの調理の為、またリーナレンが残りわずかの為(いつ手にはいるか不明)現在はリーナレン2~3本(カロリー400~600)と水800ccをあわせて固形化しています。
リーナレンをかなり薄く固形化していますが栄養の吸収面で何も問題はないのでしょうか?
Re:今更ですが栄養剤の固形化について From:Shizz@病院薬剤師 2011/03/21(mon) 18:50:17
震災の直撃を受けている地域ですね。医薬品の流通が滞り本当に大変だと思います。
私は西日本なので幸いに被害はありませんでしたが、東北の製薬会社からの医薬品供給が途絶え、未曾有の国難であることを改めて認識いたしました。
さて、リーナレンMP固形化ですが、いくら薄めて頂いても結構です。
また、ご存じと思いますが、リーナレンと水を混ぜた状態で鍋で煮るのは、ビタミンなどの減少が懸念されるので避けたほうがよろしゅうございます。
それにしても、次のリーナレンがいつ手に入るか、という事の方が深刻ですよね。
ポンスキー型の胃瘻チューブであれば、香川医大の合田先生らの「ミキサー食」でなんとかしのげるかもしれません。
といっても、特別な方法ではなく普通の腎臓食をミキサーでどろどろにしてそれをシャンプーボトルやカテーテルチップで注入するのですが。
文献「胃瘻からの半固形短時間摂取法ガイドブック―胃瘻患者のQOL向上をめざして」合田先生
って… From:Shizz@病院薬剤師 2011/03/23(wed) 10:33:21
停電でミキサーが動かないでしょうか?もしかして。
だとすると困りましたね、これは…。
Re:今更ですが栄養剤の固形化について From:M 2011/03/28(mon) 22:45:59
Shizz@病院薬剤師様
「薄めても大丈夫」のお言葉で安心して介護できました。
又幸いな事に実行はしませんでしたが、もしもの時は「ミキサー食」とのお言葉も力強かったです。
本当に有難うございました。
先日リーナレン届きました。震災の為注文から約2週間かかりました。今後は「買いだめ」ではありませんが、余裕を持って管理していこうと思いました。
※脱水予防の経口補水療法について (PDN通信32号:栄養教室 脱水から命をまもるORS(経口補水塩))
ご回答いただいた先生方、ありがとうございました。