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若き頭頸部外科医の挑戦(2)

東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科
二宮 竜太
遺稿

国際医療福祉大学病院 外科 教授
鈴木 裕
二宮 竜太

●患者のQOLの向上と介護負担の軽減

入院期間の短縮そのものが患者のQOLの向上といえるが、これはまた介護負担の軽減にもつながった。

頭頸部癌患者には高齢者が多く、介護するのも高齢者という現状においては、医療機関に入院していた方が介護負担は軽いのではないかという反論もある。しかし、入院による患者の精神的圧迫感のみならず、入院患者を毎日見舞うという介護負担も決して見過ごせないのである。

「術後の患部の治癒」と「栄養状態の改善」と「嚥下機能の回復」のために長期に病院暮らしを強いられるよりも、それと同じ治療が在宅ででき、同等以上の効果が得られるならば、患者のQOLは向上し介護負担が軽減することは、入院を経験された方ならば容易にご理解いただけるはずである。スパゲテッイ症候群などといわれる病院での治療や決まった時間に病院訪問をしなければならないご家族の苦労は、体験してみないとわからない苦痛である。

PEGによる在宅経腸栄養は、経鼻経腸栄養やTPN(中心静脈栄養)に比べて合併症も少なく、安全で確実な栄養管理が家でできるために、日常生活ではきわめて大切なポイントとなる。

●易な在宅管理、不要になったら抜去

食べにくいあるいは食べられなくなった患者さんでも、PEGによる在宅経腸栄養管理によって、在宅で自分の生活スタイルに合わせた闘病生活を送ることができる。社会復帰を果たしながら患者さん自身のセルフコントロールによる栄養管理を行い、食事量を少しずつ増やして栄養状態を改善してゆくことが可能なのである。早期に退院、社会復帰して自分らしい生活をしたいと願う患者さんにとっては、是非とも提示したい栄養管理法である。単に入院期間を短縮させるだけでなく、早く退院して自宅で栄養管理をしながら治療を続けたいという患者さんの希望もかなえることができる。

また、PEGからは、基本的には口から食べられるものなら何でも食べたり飲んだりすることができる。そのため栄養状態は早期に著しい改善がみられ、術後成績も格段に向上する。また、体調が回復し、自分の口から食事がとれるようになれば、PEGはいつでも抜去できる。そして抜去したその日から口から食事もできるのである。

●終末期医療もPEGでコントロール

頭頸部癌は非常に厄介な癌で、癌そのものを退治できないケースもある。それでも食道から下の消化管は機能しているので、必要な栄養補給さえできれば、日常生活を営むことができる。また、水分補給も患者さんの苦痛緩和の観点からは重要で、口から水を飲めなくなっても、PEGから喉の渇きをとる程度の水分補給は容易である。さらに、癌末期患者への最大の苦痛となる、癌性疼痛にも応用できる。現在では、24時間効果が持続するスチック状のモルヒネ徐放剤(カデイアン)が開発されたため、胃瘻から注入すれば痛みは驚くほど軽減される。
癌末期のターミナルケアにもPEGは有効で、いわゆる在宅ホスピスケアにも効果を発揮する。

●竜太の志を実現させるために

現在では癌の緩和医療は当たり前になったが、彼はPEGを用いた緩和医療を当時から積極的に行ってきた。これらの新しい発想による治療法は、若き耳鼻科医だからこそ着目できたのだろう。今までの医学界のしがらみから抜け出し、患者中心の集学的医療を彼は目指したのである。

ICU治療だけが集学的治療なのではない。術前、術中、術後、在宅治療というダイナミックな流れでとらえた栄養管理と緩和医療という死の直前にある患者さんのための医療、この大きな二つの柱にPEGを取り入れて展開した彼の志を継承し、彼の思い描いていた患者中心の医療を実現させるための一手段となるべく、このPEGドクターズネットワークを大きく育ててゆきたいと思う。

「PEGへのご案内」(2001年6月30日発行)より