第1回「半固形化」の現状と問題点 ~日本栄養材形状機能研究会と2009年全国アンケート
PDN通信第25号で経腸栄養剤の半固形化について取り上げた。その後もさまざまな臨床現場で導入され、特徴ある半固形化栄養剤が発売されている。しかし、いまだに用語、調整法、注入法、粘度測定法などについては統一されていないのが現状である。
PDN通信30号では、2009年9月5日に日経ホールで開催された、第3回日本栄養材形状機能研究会「半固形化栄養材の基礎から今後の展望まで」(代表:近畿大学医学部名誉教授 大柳治正先生)の模様と、同研究会とPDNで行った共同アンケート調査の結果について、同会調査ワーキンググループの丸山道生先生に解説していただいた。(参考:第3回日本栄養材形状機能研究会・講演会プログラム 演題抄録集)
東京都保健医療公社大久保病院外科部長
丸山道生
「半固形化」の基礎・臨床の研究を行う「日本栄養材形状機能研究会」
本邦オリジナルの栄養療法
寒天による栄養剤の固形化に端を発した「半固形化」は、在宅医療を中心に、ほんの短期間のうちに日本全国へ広がりました。もともとは誤嚥性肺炎や胃食道逆流の予防法として考案され登場したわけですが、それ以外にも、下痢の改善や投与時間の短縮など、多くのメリットがあることがわかってきました。
しかし、民間療法的に在宅で広がったものであったため、その名称(固形化、半固形化、ゲル化、粘度増強など)や栄養剤の粘度など、多くの混乱や誤解などが生じたのです。「半固形化」に関してのこの状況を改善し、きちんとした栄養療法として確立するために、平成19年に「日本栄養材形状機能研究会」が発足しました。
日本栄養材形状機能研究会の目的とは「栄養補給に用いられるあらゆる栄養材の形状と機能について医学、薬学、栄養学など関連する学問領域を通じて研究し、その成果をもって、それを必要とする人々の健康増進や維持を図ること、および研究成果を公表することでその意義を広く伝えることを目標とする」と会則に高々と謳われています。「半固形化」の栄養療法は世界で類を見ず、本邦オリジナルな栄養療法です。その効果も多岐に渡るため、学問的体系をしっかりとさせて、世界に通用する栄養療法にすることは、われわれの責務なのです。
栄養材の形状機能とは?
この研究会名の「栄養材形状機能」とは、ちょっと難解ですね。まず、「栄養剤」でなく「栄養材」であることに引っ掛かります。この「栄養材」とはいわゆる栄養剤と食品素材の両方を意味する表現として採用されました。胃瘻栄養に使われているような、いわゆる栄養剤だけではなく、いろいろな素材を対象としたいというわけです。
「形状機能」とは栄養材に形状変化を加えたときに、獲得する機能を意味しています。半固形化することにより、嚥下、逆流、胃排出などの消化管運動、消化吸収、ホルモンなどへの影響があると考えられえます。これが形状の持つ機能ということだということなのです。
考えてみると、「半固形化」というのは、いままでの液状の栄養剤よりも、より食事に近い形状を栄養剤に持たせて投与することにより、生体に対し、栄養剤がより良い機能を持つことを目的にしたものです。一方、今はやりの「エコ・ニュートリション」は、従来の近代科学の栄養療法より、人間が古来から親しんだ食事や料理により癒す力があるという概念です。こう考えてみると、この「半固形化」も「エコ・ニュートリション」の一環なのでしょう。
第3回日本栄養材形状機能研究会 「半固形化栄養材の基礎から今後の展望まで」
第3回の研究会が平成21年9月に東京で開催されました。この研究会では嚥下に関わる食品の物性、半固形化の臨床的、基礎的研究などが発表されました。それに加えてPDNと研究会が共同で施行した2009年最新の全国アンケート調査の報告が行われました。
また、「半固形化」に関するコンセンサス・ミーティングが行われ、現在までに明らかになっている「半固形化」の現状がコンセンサスとして提示されました(表)。そのコンセンサスについては今後、修正が加えられ、研究会から報告される形になります。
表 栄養剤形状機能のコンセンサスを得るために
1.現状
1-1 経胃瘻:栄養材の形状を変えた食品を注入することが医療現場で行われているが、ガイドラインがない
1-2 経口:摂食嚥下障害患者のための食事は、その内容や名称に一定の基準がない
1-3 用語:ゲル化、半固形化、固形化などさまざまな用語が同義語として用いられている が、統一されていない
1-4 測定:①粘度、②硬さ、③凝集性、④付着性が用いられているが、その測定条件が一 定ではない
1-5 測定法(離水):形状変化の臨床効果を示す重要な因子であるが、確立した測定法がない
1-6 調整法:形状変化の方法には様々な方法が用いられている
1-7 注入方:シリンジが多用されているが、より簡便な注入方が望まれる
1-8 検査法(経口):嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査が行われているが、検査食の形状に関する規格が統一されていない
2.定義
2-1 名称:経管的に注入される栄養材について、粘度を高めたり、液体から形状を変化さ せる事を「半固形化」とする
2-2 測定法:チューブを介した注入を想定する場合には、その物性測定は一定基準のチューブを通した後のサンプルを用いる
2-3a 形状の測定法(粘度計):半固形化栄養材の粘度測定はでは、B型粘度計よりもE型粘度計が適切である
2-3b 粘度の表記(経胃瘻)ヒステリシスループ:構造破壊による影響を評価するために ヒステリシスループが有効である
2-3c 粘度の表記(単位):粘度の単位は、国際単位系におけるパスカル秒(Pa・s)を用いる
3.形状が機能するということ
3-1 胃食道逆流:半固形化栄養材を用いる事で、胃食道逆流を抑制する可能性がある
3-2 肺炎:胃液の逆流と投与した栄養剤の肺炎の発症が減少したとの報告がある
3-3 嚥下:液体は最も誤嚥しやすく、粘度やかたさ等の形状を変化させる事により、誤嚥しにくくなる
4.形状変化による生態への影響
4-1 胃排出:半固形化栄養材を用いると、液体の栄養材と比べて胃排出に変化が生じる
4-2 消化吸収:半固形化栄養材の消化吸収に及ぼす影響は、現在のところ不明である
4-3 内分泌・代謝:半固形化栄養剤を用いると、内分泌・代謝反応は通常食の摂取時に近づく可能性がある
4-4 排泄:半固形化栄養剤を用いることで、液体の栄養剤と比べて下痢が軽減する可能性がある
5.利便性と経済効果
5-1 注入時間:半固形化栄養剤を用いることで、注入時間が液体栄養剤注入時よりも短縮する
5-2 介護環境:半固形化栄養剤を用いることで、介護者の負担軽減につながる可能性がある
5-3 経済効果:経済効果に関しては、今後の検討課題とする
「半固形化」2009年全国アンケートより
周知されてきた半固形化
前回2007年に続き、研究会の調査ワーキンググループとPDNが共同で、「半固形化」の全国アンケート(図)を行いました。期間は2009年6月10日から7月25日で、対象施設はPDNホームページに登録されている全国PEG施行医療機関で、発送先は1169施設、回収は322施設で、回収率は27.5%でした。
まず、半固形化の認知度と実際の施行に関しては、「半固形化をよく知っている」が88%とほぼ9割で、前回調査の86%とほぼ同じでした。また「半固形化栄養剤を投与している」73%、「投与したことがある」16%で、使用経験も89%で、ほぼ9割に達しています。これは前回の83%を上回っていました。このように、「半固形化」は認知度、使用経験ともにMAXに達していると考えられます。
「半固形化」の投与理由は、胃食道逆流防止(27.3%)、下痢対策(19.3%)、嘔吐対策(18.2%)、投与時間の短縮(15.0%)、栄養剤のリーク防止(10.6%)で、これはほぼ前回のアンケートと変わりません。(図1)
使ってみたらどうだったか
「どのような半固形化栄養剤を使用しているか」との問いには、あらかじめ半固形化してある製品を使用(40.9%)が最も多く、次いで、粉のタイプの増粘剤で調整(24.5%)、寒天法は15.3%と比較的少なくなっていました。半固形化した既成品が使われることが多くなってきていることがうかがえます。(図2)
臨床症状の変化に対する問いでは「下痢をしなくなった」(26.4%)、「肺炎を繰り返さなくなった」(21.6%)、「瘻孔からの漏れがなくなった」(17.3%)、「熱が出なくなった」(16.4%)と、予想どおりの結果でした。
介護者のメリットとしては「投与時間が短縮して、他のことに時間がさけるようになった」(47.2%)、「便の扱いが楽になった」(21.6%)であり、やはり短時間注入のメリットが出ているようです。(図3)
半固形化の投与にあたっての問題点は、「コストがかかる」(31.3%)、「調整に手間がかかる」(23.9%)、「投与に手間がかかる」(22.4%)で、既成品を使うとコストがかかるという点が問題視されています。(図4)
アンケートの自由意見の中でも、「半固形は介護者の負担を軽減し、便利であるが、高価なため購入しづらい」、「コスト問題で半固形化食品を採用していない」など、コスト面により使用しづらいという意見が多く見られました。今後、半固形化既成品がエンシュアリキッドやラコールと同様に、薬化収載、保険適用になることを望む声がいくつかみられ、やはり、薬品扱いの「半固形化栄養剤」が期待されるところになりそうです。
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