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Chapter2 経腸栄養
5.半固形化栄養剤 1.基礎的な知識


大阪国際がんセンター 栄養腫瘍科 飯島正平

飯島正平

記事公開日 2011年9月20日
2015年10月27日改訂

<Point>

  1. 液体(状)栄養材の形状を変化させて経腸栄養に利用する方法を半固形化栄養と呼ぶ。この半固形化栄養法は比較的新しい概念である。液状より実際の経口摂取に近い形態の栄養投与方法でもある。
  2. 投与する栄養材の半固形化の性質を物性とよび、いくつかの指標が現在利用されているが、いずれも不完全な状況である。
  3. その物性の臨床的な評価もこれからで、その測定方法や条件もまだ定まっていない。したがって、臨床的な効果においてもその必要な条件設定すら現状では難しい。

1.はじめに

経腸栄養ではほとんど液体で栄養材が投与されるが、口から摂取された食物は口腔内で食塊を形成し胃内に達し、この点では胃内の栄養素の状態は異なっている。そして、胃ろうからも例外でなく、従来は液状の栄養剤が投与されていた。

しかし、この流動性の高い栄養剤がもたらす臨床的な問題点(瘻孔からの栄養剤の漏れ、腸管への栄養剤の速い流入による下痢などの消化器症状、食道への栄養剤の逆流など)が存在し、これを改善するために流動性に富んだ液体ではなく、より固体の性質を栄養剤に持たせることにより、液体特有の問題点を解決できるのではないかという試みがなされるようになった。

その効果に関しては、次の臨床的な知識の項にゆだねるが、現時点では決してエビデンスレベルの高い科学的根拠に沿った評価ではない。しかし、多くの現場の医療者が実際の効果を身近な症例で経験しており、近年爆発的な広まりをみせている。

ここでは、半固形化の基礎的な知識について説明する。

2.半固形化の表記とその方法

液体の栄養剤の形状をより固体に近づける、この形状変化の呼び名(表記)は、当初さまざまで、ほぼ同じような手法ながら、医療者により異なった表記がなされながら広まった。胃瘻からの栄養投与以外でも摂食嚥下障害症例の経口摂取時にも利用され、このような形状変化に呼応した表現が医学界内での統一の表記がないことは、今後の発展を考えると望ましいことではなく、学会や論文での発表が増えるにつれて、混乱を招きかねない。

そこで、日本の厚生労働省に当たるアメリカ合衆国食品医薬品局(Food and Drug Administration , FDA) での表記にあるSemi-solidを参考に、半固形化と呼ばれるようになっている。ただし、この表記は今後変更される可能性がある。

半固形化の方法としては、はじめは身近な食材である寒天を利用して行なわれた。事前に液体栄養剤に寒天を加えて加熱調整し、これを別容器に移し、温度が下がってくると次第に固まってくる。この固まった栄養剤を注射器に入れ、これを胃瘻のチューブから胃内へ押し込んで投与する方法がなされた1)。この場合、調整して寒天で固まっている栄養剤をつぶして投与していることになる。調整した時点での固まった見かけと胃瘻からの投与後の形状では、すこし様相は異なる。その後、トロミ剤と呼ばれるような粘度を上げる増粘剤やカルシウム添加後にペクチンが重合する性質を利用した製品も市販されるようになっている(表1)。

表1 現在よく利用されている半固形化の方法
  • 寒天
  • 多糖類(増粘剤)
  • ペクチン

いずれも、食品としての実績を持ち、安全性という面では遜色ない方法である。ほかにも変性をねらった方法も試みられているが、まだ臨床応用での評価がなされていない。

3.半固形化栄養での物性

半固形化栄養では、多くは見た目にもその形状は大きく変化している。しかし、見た目に同じに見えても、どの程度同じと判断してよいか問題である。その性質である物性を評価できる指標が必要とされた。

もともと、食品だけではなく、ゴムやプラスティックの工業製品をはじめ、マヨネーズやケチャップなどの同じような形状の製品管理の目的で、表2に示すような指標が使われてきた。ただ、その指標は製品としての均一性を評価したり、同様の製品の分類のため、数字が設定されていた。

このようなすでに存在する測定条件やその数値は、私たちが行なっている半固形化栄養とは目指すものが異なっている。半固形化栄養として評価したい物性の指標と、まだ明らかとなっていない臨床効果に対する基準値などを、業界として独自のものを設定してゆかなければならない。

しかし、表2に示す物性はその測定機器に関しては、すでに実績があり、条件を設定すれば利用できるものは多いのでは、と考えられた。

表2 半固形化の物性の指標
  • 粘度
  • 堅さ
  • 凝集性
  • 付着性 動的粘弾性

そして、その条件設定では、表3の示すような因子が測定には影響している。また、その測定方法自体の変数値の条件も当然大きく影響してくる。現在、それぞれのその条件が定まっておらず、今後科学的な根拠を持って設定されるものと期待している。

表3 半固形化栄養において物性に影響する因子
  • 測定温度
  • 測定に必要な試料量
  • 測定時間
  • 調整(開封)後経過時間 調整(開封)後試料容器への移し方

<Pitfall>

現在表示されている物性を表す数字は、その測定条件が必ずしも適切で、かつ同じであるとは限らない。その条件次第では、検査値は変動する。したがって、市販の多くの製品に表示されている数字はその測定条件はメーカーが独自に決めている。条件により大きく数は変化するので、鵜呑みにしてはいけない。

4.粘度

粘度は、流動性を示す指標として、液体の性質を評価するものとして知られている。数字が低ければ流動性があり、上がるにつれていわゆる「どろっと」した感じが増してくる。高粘度では、スプーンでかき混ぜるにもかなりの抵抗を感じる程度にもなる。

粘度を測定するには、まず「測定しようとする粘度がどれくらいなのか?」を想定しなければならない。各粘度計にはそれぞれ測定可能な幅が存在するため、この範囲を外れていた場合には当然正確な測定はできないからである。

音さ型と呼ばれる粘度計があるが、これは比較的低い粘度(ほとんど見た目には粘度を感じないレベル)を測定することに適している。たとえば、「牛乳が加工前後で粘度がどの程度変化するか?」など、人の触感ではわからないような低粘度の違いを測定しで鑑別する場合に利用できる。したがって、胃瘻からの栄養では向いているとは言えない。

胃瘻から投与するような半固形化された栄養剤ではもっと高粘度での測定となり、その測定は栄養剤の中でセンサーが回転することでなされる回転粘度計が適している。粘度測定では、この回転により、ずり応力[物質を流す力]がかかり、ずり速度[物質が流れる速度;流動速度]が発生する。その比例関係から粘度が測定される。栄養剤ではかかったずり応力に従い、それに一定に比例したずり速度が発生すれば、測定は簡単であるのだが、残念ながら栄養剤をはじめほとんどの食品ではこれらが比例しない関係にある。つまり、回転粘度計ではずり速度が栄養剤にかかるが、このすり速度が回転数で変化してゆくので得られる粘度は単純に比例せずに大きく変化する性質を持っている。このような性質を持つ流体を非ニュートン流体(ずり応力[物質を流す力]とずり速度[物質が流れる速度;流動速度]が比例しない性質)とよび、実際の測定ではこのずり速度を規定しておかないと測定値は大きく変動してしまう。

逆に水や糖液(水あめも含む)のような液体では、ニュートン流体(ずり応力[物質を流す力]とずり速度[物質が流れる速度;流動速度]が比例する性質)と呼ばれ、このずり速度がどのように変化しても得られる粘度は変わらず一定の数字となる。

4.1 粘度とその単位

粘度の概念は以下の図1とおりである。

図1 粘度の概念
図1 粘度の概念

水平な堅い平坦な面にある流体(試料)を置き、さらに同じ堅い平坦な面でこれを挟むようにかぶせる。流体は2枚の面に面積(cm2)の広さで幅(高さ)H(cm)で接触している(挟まれている)。この流体の下部の面を固定しておき、上部の面だけを速度(cm/s)で一方向へ流動させる(ずらす)とき発生する流動抵抗をとする。粘度のある流体であれば、変数μ(粘度)が存在し、

F = μ・A・V・H-1(ニュートンの式)
と表すことができる。この式からμ(粘度) を計算すると、
μ(粘度)= F(g・cm/s2) × H(cm) × A(cm2)-1 × V(cm/s)-1 = g/cm・s
となり、1g/cm・s = 1P(ポアズ)
と定義された。

粘度の単位はこの従来からのポアズ(poise, P)が利用されてきた。これは1913年に提唱されたもので、その名前はフランスの物理学者であるジャン・ポアズイユに由来する。1ポアズは、流体内に1センチメートル(cm)につき1センチメートル毎秒(cm/s)の速度勾配があるとき、その速度勾配の方向に垂直な面において速度の方向に1平方センチメートル(cm2)につき1ダイン(dyn:g・cm/s2)の力の大きさの応力が生ずる粘度と定義されている。すなわち、1 P = 1 dyn·s/cm2 = 1 g·cm/s2·s/cm2 = 1 g/cm·sとなる。

しかし、ポアズはCGS(センチメートル・グラム・秒)単位系における粘度の単位であり、粘度表示では多用されているものの、日本工業規格(JIS)や医学分野を含む科学の世界ではSI(メートル・キログラム・秒)に基づいた国際単位系に合わせており、栄養材の粘度表記もSI単位系が望ましく、パスカル秒(パスカルびょう、Pa·s)を利用するようになってきた。1パスカル秒は、流体内に1メートル(m)につき1メートル毎秒(m/s)の速度勾配があるとき、その速度勾配の方向に垂直な面において速度の方向に1パスカル(Pa:1 N/m2 = 1 kg·m/s2/m2) の応力が生ずる粘度と定義されている。

<Pitfall>

使いなれた慣れた単位(ポアズ)が使えないと心配することはない。定義を読めば難しい話ではあるが、計算結果は簡単で、換算も容易である。

定義から、1 Pa・s = 1 kg·m/s2/m2 ・s = 1000 g/s/m = 10 g/cm·s = 10 P であるので、1 mPa・s = 1 cP と計算され、数字はそのまま読み替えることができる。

つまり、5000cP(センチポアス)=5000mPa・S(ミリパスカル秒)と読みかえればよい。

4.2 二種類の回転粘度計

粘度を測定する粘度計には、大きく分けて2種類(表4)の回転粘度計がよく利用される。

表4 半固形化栄養で利用される粘度計
  • 単一円筒形回転粘度計(B型粘度計)
  • 円錐‐平板型回転粘度計(E型粘度計)

回転させるローターにはそれぞれ数種類があり、目標とする粘度により採用すべきローターが決まる。つまり、このローターごとに測定可能な粘度の範囲が決まっており、これを超えた部分は正確には測定されていないことになる。また、半固形化栄養では、想定するずり速度により測定される粘度が変わってくるので、想定するずり速度がどれくらいか知らないと測定はできない。

実際の試料を飲み込んだ印象からずり速度の範囲を検討した報告がある。方法論は省くが、感応試験と呼ばれ、経験のある検者が行なえばそれなりに正確な数字が得られる方法とされている。川崎らの報告(表52)によると、飲み込むときのずり速度は10 S-1以上とされている。胃瘻からの投与の場合、そのずり速度よりもより低い数字であると推測される。胃瘻栄養ではずり速度に関する感応試験はできないためどれくらいの数字であるかは不明であるが、この報告を参考にここでは胃瘻栄養でのずり速度は2~20S-1くらいを想定して考えてみる。胃の蠕動は経口摂取より速いとは考えにくいからである。

表5 想定される流動状態のずり速度口腔内の報告例
流動状態 ずり速度(S-1

容器を傾けたときの流れ

0.1~40

スプーンでかきまわす

90~100

飲み込む

10~1000

単一円筒形回転粘度計(B型粘度計)は、食品の粘度測定ではかなり普及した方法である。安価な器械でもあり、各医療現場でも入手できる値段で販売されている。しかし、その測定ではずり速度が一定ではなく安定した数値が得られ難い。すなわち、ローターの中心部から離れるにつれてずり速度は低下してゆく。さらに、容器のふちに近くなるとその容器との間にすべりが生じ、さらにずり速度が変化する。つまり、容器の口径が異なれば、ずり速度が異なって、その結果測定値に影響がでる。このことは、この粘度計の決定的な欠点であるといえる。測定のルールでは、試料を直径約8.5cmの500mlビーカーに入れ、この中でローターを回転させて測定することになっている。ずり速度も回転数で設定はできることになっているが、回転数をそろえただけでは不十分で、次で示すE型粘度計のように規定された測定とはならない。しかも、ずり速度はかなりの低い数字しか設定できない。設定できるずり速度はここで仮定した胃瘻での最低の2 S-1までで、それ以上は測定ができないことになる。したがって、もっと速いずり速度が想定される半固形化栄養剤を飲み込む場合の検討では、この粘度計は適さないことになる。しかも、先に述べたように、粘度測定では表3に示したような影響する因子があり、特に試料は規定では500ml程度が使われ、その試料内でローターを回転させるため、これだけの量の温度を安定させたり、半固形化の状態が刻々変化する栄養材では測定のタイミングや時間を均一しておくことはかなり難しいともいえる。

一方、円錐‐平板型回転粘度計(E型粘度計)はやや小型で、必要とする試料も少ない。器械もやや高価である。ただし、円錐角(円錐と平板間の角度)が非常に小さくなっており、非ニュートン流体にみられるずり速度勾配(ずり速度の変化)がなくなるため、一定のずり速度で安定した数値が得られる粘度計である。試料は少量であるため均一化された条件の試料しか測定できない。さらに、かなり試料を押しつぶした感のある測定のため、胃の中の試料を想定すると違和感もある。しかし、測定の安定性や測定可能なずり速度帯は胃瘻や経口摂取で想定される範囲を十分カバーすることができると考えられる。

どちらの粘度計でも測定可能なずり速度帯は異なっており、一般的に低ずり速度はB型が、高ずり速度はE型が適している。胃などの消化管でのずり速度を知ることは粘度測定では最も大切なことといえる。

4.3 現状の粘度表示

現在の市販されている製品には、すでに半固形化され容器ごろ販売されているものと、既存の栄養剤に混ぜて半固形化させるものの2種類がある。利用できる2つの粘度計のうちどちらが適しているのかが明らかとしたうえで、測定条件を規定しての表示が医療現場には求められるが、現在の市販製品の測定はそういった条件設定がされておらず、特にずり速度の想定をしないまま、各社独自の条件で安易に測定が行なわれている。単純な数字の比較は危険である。特に、回転数(ずり速度)を一段階上げると、粘度は約半分くらいになってしまう。商品の表示ではそれは明らかにされていないので、実際の感覚が大事である。

<Advice>

物性は測定値も大切だが、実際に半固形となった栄養材をかき混ぜてみたり、斜面を流してみたり、胃瘻からの投与を想定して容器から押し出してみたり、実際に口から飲み込んだり、指先や手の感覚や食感などの印象も大切である。

また、あらかじめ半固形化され市販されている製品では開封後、栄養剤に半固形化剤を混合して半固形化する場合では混合後、温度や時間の経過によりさらに物性が変化する。したがって、実際に投与に即した条件で試してみないといけない。

5.堅さ、凝集性、付着性

固体の性質を評価する方法としてレオメーター(クリープメーター)と呼ばれる器械で測定される堅さ、凝集性、付着性などが物性の指標として利用されている。胃瘻から投与される栄養材ではあまり測定されておらず、摂食嚥下障害患者での経口摂取における食品の物性評価でよく利用されているが、胃瘻栄養での意義について議論されていない。

実際の測定では、試料を専用の測定容器(プランジャー)に少量入れ、センサーで試料を2回上から圧縮してその反発力として得られるグラフ(図2)からこれらが算出される。

図2 堅さ、凝集性、付着性
図2 堅さ、凝集性、付着性

食品ではかなり浸透している方法で、最初に圧縮されるときに堅さを、初回圧縮後センサーに付着した試料がセンサーが離れるときにセンサーに吸い上げられるときに付着性を、2回目の圧縮の際には初回の圧縮により凝集がすすんでいると2回目には同じような圧縮具合にはならずこれらの差を凝集性として測定する。

ただし、圧縮する速度については統一されておらず、現在2つの速度(1m/s、10 m/s)のいずれかで測定されており、それぞれ測定結果はいずれを採用しているかによって異なってくる。栄養材においてどちらが適切であるかは現在のところ不明である。

最後に

まだまだ発展途上の領域で、物性の評価の方法、測定条件、得られた数字の評価などを臨床的なメリットとの相関性がでてくるにはすこし時間がかかる。現在の常識が数年後には通じなくなるかもしれない。

文献

  1. 蟹江治郎ほか:固形化経腸栄養剤の投与により胃瘻栄養の慢性期合併症を改善し得た1例 日本老年医学会雑誌(0300-9173)39(4)P448-451,2002
  2. Shama. F, et al;Identification of stimuli controlling the sensory evaluation of viscosity. J texture studies 4 p102-110,1973

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