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Chapter2 経腸栄養
1.経腸栄養の特徴と適応


田無病院院長 丸山道生

丸山道生
記事公開日 2011年9月20日

2023年2月20日改定

<Point>

  • 栄養療法の大原則は、“When the gut works use it !” 「腸が働いているなら、腸を使おう!」である。
  • 経腸栄養療法の利点として、
    1)腸管粘膜の維持、2)免疫能の維持、bacterial translocationの回避、3)代謝反応の亢進の抑制、4)胆汁うっ滞の回避、5)消化管の生理機能の維持、6)カテーテル関連血流感染症、気胸などのTPN時の合併症がない、7)長期管理が容易である、8)廉価である、などがある。
  • 経腸栄養の適応は腸が機能している場合はすべて適応となる。経腸栄養の禁忌は、腸が安全に使用できない場合である。
  • 早期経腸栄養は静脈栄養に比較して、感染性合併症の頻度が減少すると考えられている。

1.栄養管理の基本と栄養投与ルートの選択

栄養療法には経口栄養法、経腸栄養法、静脈栄養法がある。栄養補給のためのルートの選択に関しての大原則は、“When the gut works use it !”「腸が働いているなら、腸を使おう!」である(図1)。腸が機能しており、安全に使用可能であれば、経口栄養、経腸栄養を施行する1,2)。ここでいう腸とは、消化吸収の機能を持つ小腸のことである。

図1 栄養管理のルートの選択
図1 栄養管理のルートの選択

経口摂取が可能で、摂取量がすくなければ、まずは経口からの経腸栄養剤などによる栄養補助を考える。

嚥下傷害などで栄養が口から摂取できない時は、経腸栄養法が選択される。それが、一時的、短期間の場合は、鼻から胃、空腸にチューブを入れ、経鼻チューブからの栄養法を選択するが、期間が6週間以上の長期になる場合は、胃瘻、腸瘻を作成し、そこからの栄養法を選択するのが原則である。多発性脳硬塞で摂食嚥下障害を示す寝たきり老人の場合は、腸は機能しているが、経口摂取はできず、その栄養療法の期間は長期に渡る為、胃瘻からの栄養法が選択されることになる。

一方、腸閉塞や高度の下痢症など消化管の機能が侵されていて、消化管が安全に使用できない時は、静脈栄養法の適応となる。この場合、14日以内の短期であれば、末梢からの末梢静脈栄養法(Perioheral parenteral nutrition;PPN)が、14日以上の長期に栄養管理が及ぶ場合は、中心静脈栄養法(Total parenteral nutrition; TPN)が選択される。

2.経腸栄養療法の特徴と利点

経腸栄養療法の利点として、1)腸管粘膜の維持(腸管粘膜の萎縮の予防)、2)免疫能の維持、bacterial translocationの回避、3)代謝反応の亢進の抑制(侵襲からの早期回復)、4)胆汁うっ滞の回避、5)消化管の生理機能の維持(腸蠕動運動、消化管ホルモン分泌)、6)カテーテル関連血流感染症(カテーテル敗血症)、気胸などのTPN時の合併症がない、7)長期管理が容易である、8)廉価である、などがあげられる(表11,2)

表1 経腸栄養法の利点(静脈栄養と比較して)
  1. 腸管粘膜の維持(腸管粘膜の萎縮の予防)
  2. 免疫能の維持、bacterial translocationの回避
  3. 代謝反応の亢進の抑制(侵襲からの早期回復)
  4. 胆汁うっ滞の回避
  5. 消化管の生理機能の維持(腸蠕動運動、消化管ホルモン分泌)
  6. カテーテル関連血流感染症、気胸などのTPN時の合併症がない
  7. 長期管理が容易である
  8. 廉価である

2.1 腸管粘膜の維持

絶食で静脈栄養時には、腸管を使用しないため、腸管粘膜に一種の廃用萎縮がおこる。小腸の微絨毛のたけは低くなり、粘膜が萎縮する。経腸栄養による腸管内栄養で腸管粘膜の萎縮は防止される。栄養剤もより天然食品に近いものの方が腸管粘膜の維持に有利である。動物実験から成分栄養剤より半消化態栄養剤、さらに食物繊維を加えたもの、天然食品の順に粘膜萎縮が予防されると報告されている。

2.2 免疫能の維持、bacterial translocationの回避

腸管内には多数の細菌が存在するが、腸管はこれらが体内に侵入するのを防ぐ物理的、免疫学的なバリア機能を有している。Bacterial translocationとはこの腸管のバリア機能が何らかの原因で破綻し、腸管内の細菌やその毒素が粘膜や粘膜固有層を通過し、腸間膜リンパ節や血液など、体内に侵入する現象をいう。静脈栄養で、消化管を使用しないでいると、腸粘膜の萎縮に伴い、そのバリア機能が失われ、bacterial translocationがおこると考えられている。一方、経腸栄養で腸を使うことで、腸のバリア機能、免疫能が維持されbacterial translocationが回避できると考えられている。

消化管やその周囲にはリンパ球などの免疫担当細胞が全体の50~80%集まっており、消化管は人体の中で最も重要な免疫臓器でもある。経腸栄養により腸管とその免疫能を刺激することは、腸管免疫ばかりでなく全身の免疫能を腑活化すると考えられる。多くのデータから以前より、早期経腸栄養を行った症例はTPN症例に比較し、感染性合併症が約5割程度少なくなると考えられてきた。ただし、最近の重症患者を扱ったデータでは、TPNを厳しく管理すれば、合併症の頻度はTPNでも経腸栄養と変わらないとする報告も見られる3)

2.3 代謝亢進の抑制

生体は侵襲をうけると、それに対して代謝が亢進する。この代謝亢進はストレスに対する全身反応で、過度な反応は生体にとって逆に不利益となる。経腸栄養は静脈栄養に比較して、この侵襲時の代謝亢進を抑制することが、実験的、臨床的に確認されている。

2.4 胆汁うっ滞の回避

経腸栄養は、生体の吸収能に応じて栄養素を吸収し、肝臓代謝に過剰な負担がかからないため、静脈栄養で見られるような肝機能異常や胆汁うっ滞が少ないといわれている2)

2.5 経済性

経腸栄養は静脈栄養に比較して廉価であることも、医療経済的な面でメリットである。実際、経腸栄養をTPN比較してみると、同じカロリー、栄養素を投与しても、その栄養剤にかかる費用はTPNの場合の1/2から1/3程度ほどであると試算される。

3.経腸栄養療法の適応と効果

3.1 適応と禁忌

経腸栄養は腸が機能している場合はすべて適応となる。すなわち、経口摂取が不可能または困難であるが小腸に十分な消化吸収能が存在する場合や、食事では得られない腸管の安静が必要な場合などが適応となる4)

経腸栄養療法の十分な効果が期待できる場合は、①消化管の機能が正常である場合(嚥下困難、意識障害、熱傷など)、②消化管機能がやや落ちているが安静を要する場合(比較的軽症な消化管外瘻、短腸症候群、炎症性大腸疾患など)などである。比較的治療効果が期待できる場合としては、①消化吸収能が落ちていて、経口摂取のみでは栄養障害に陥る危険性のある場合(放射線性腸炎や慢性膵炎など)、②癌化学療法や放射線療法による経口摂取不良の場合、などである。

経腸栄養の禁忌は、腸が安全に使用できない場合である4)。また、治療効果が期待できない場合は、腸閉塞や難治性の下痢や循環動態が安定しない状態などである。

3.2 臨床的な有用性

経腸栄養が静脈栄養に比較して臨床的に明らかに有用と考えられるのは、①比較的重症な症例の急性期の管理、②在宅などの慢性的な栄養管理、の相対する場合に於いてである。

食道がんなどの比較的大きな侵襲の手術や重症症例に、経腸栄養はその真価を発揮する。五関らは、食道がん切除手術後において、術後を経腸栄養で管理したほうが、静脈栄養管理より早期の退院が可能であったと報告している5)

Kudskらは重症な腹部外傷を扱った論文で、静脈栄養に比較し、経腸栄養管理で、肺炎などの感染性合併症が有意に少ないことを報告している6)

術後の経腸栄養は空腸瘻を手術時に造設することで、早期にかつ有効に開始できる。手術時に空腸瘻を作成するのに要する時間は10分程度であり、重症な症例には手術時間を10分延長しても空腸瘻を造設することが推奨される。

もう一つの有用例は、重症患者の急性期と相対する在宅などでの慢性期の栄養管理である。静脈栄養に比較し、経腸栄養は長期間の栄養補助、管理に向いている。静脈栄養ほど厳しい衛生管理も必要はない。嚥下困難症例に対してのPEGによる胃瘻や経鼻胃管による栄養管理などが良い例である。経口摂取ができないか、摂取量が少ない症例で、腸管が機能している場合は、何らかの方法で腸管アクセスを計り、経腸栄養で栄養補助することが望ましい。

文献

  1. 井上善文:経腸栄養法の意義、井上善文ほか編、経腸栄養剤の種類と選択、p9-15,フジメディカル出版、大阪、2005
  2. 丸山道生:栄養パラメーターと栄養管理の進め方、臨床検査48:951-957、2004
  3. Compher C, et al: Guidelines for the provision of nutrition support therapy in the critically ill patients: ASPEN, JPEN46:12-41, 2022
  4. 城谷典保、阿部裕:経静脈、経腸栄養法とは、城谷典保編、n-Book8経静脈、経腸栄養のすべて、p11-15、メヂカルフレンド社、東京、2001
  5. 永井鑑, 五関謹秀:病態治療と栄養 食道癌の周術期栄養管理、医学のあゆみ198:1057-1061、2001
  6. Kudsk K.A., et al: Enteral versus parenteral feeding: effects on septic morbidity after blunt and penetrating abdominal trauma, Ann. Surg. 215: 503-511, 1992

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