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Chapter2 経腸栄養
4.経腸栄養に用いられる製剤および食品
2.微量元素製剤


高崎総合医療センター 外科 小川哲史

小川哲史
記事公開日 2011年9月20日

1.微量元素

微量元素とは、無機質のうち一日の必要摂取量が100mg以下で、生体内に1mg/kg体重以下、または鉄を基準としてそれより少ない金属、とされている。ヒトの必須微量元素には鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、クロム(Cr)、ヨウ素(I)、コバルト(Co)、セレン(Se)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)がある。これらの元素は遷移元素に属し、原子の表面で電子の授受が起こりやすく反応性に富んでいるため、生体内では酵素や生理活性物質の活性中心として働き、それらの機能の発現や維持に関与している。微量元素の主な関連酵素と生理作用を表11)に示す。

表1 微量元素の主な関連酵素と生理作用

微量元素

元素
記号

主な関連酵素、関連物質

主な生理作用

Fe

ヘモグロビン、フェリチン、ヘモジデリン、ミオグロビン、ヘム酵素、フラビン酵素

酸素受容体、組織内呼吸

亜鉛

Zn

カルボニックアンヒドラーゼ、アルカリフォスファターゼ、カルボキシペプチダーゼAおよびB、アルコールデヒドロゲナーゼ、RNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼ、SODなど

タンパク代謝、脂質代謝、糖代謝、骨代謝、創傷治癒促進、抗酸化作用

Cu

セルロプラスミン、モノアミンオキシダーゼ、シトクロムオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、SODなど

造血機能、骨代謝、結合組織代謝、神経機能、色素調節機能、抗酸化作用

セレン

Se

グルタチオンペルオキシダーゼ、各種セレノプロテイン

抗酸化作用、抗癌作用、抗ウイルス作用、糖代謝

クロム

Cr

耐糖因子、低分子クロム結合物質

糖代謝、コレステロール代謝、結合組織代謝、タンパク代謝、抗酸化作用

マンガン

Mn

ピルビン酸カルボキシラーゼ、アルギナーゼ、グルコシルトランスフェラーゼ、SODなど

骨代謝、糖代謝、脂質代謝、生殖能、免疫能、抗酸化作用

モリブデン

Mo

キサンチンオキシダーゼ、アルデヒドオキシダーゼ、キサンチンデヒドロゲナーゼ、亜硫酸オキシダーゼ

尿酸代謝、アミノ酸代謝、硫酸・亜硫酸代謝

表1のように微量元素は生体内で様々な重要な働きをしているため、その欠乏により多様な障害が出現する。表2に微量元素の血中の正常値と欠乏症状を示す1)

表2 微量元素の正常値と欠乏症状

微量元素

正常値

欠乏症状

【血清鉄】
男性:62~216 μg/dL
女性:43~172 μg/dL

貧血,運動機能・認知機能低下,学習能力低下,注意散漫,神経質

亜鉛

70~140 μg/dL

皮疹,口内炎・舌炎・脱毛・爪変形,味覚障害,下痢,発熱,食欲不振

73~149 μg/dL

白血球減少,貧血,骨粗鬆症

セレン

18~40 μg/dL

筋肉痛,心筋症,爪床部白色変化

クロム

1.0 μg/dL 以下

耐糖能異常,体重減少,抹消神経障害,代謝性意識障害,窒素平衡の異常

マンガン

0.8~2.5 μg/dL

発育障害,代謝性障害,血液凝固能低下,毛髪の赤色化

モリブデン

 

頻脈,多呼吸,中心性暗視野,夜盲症,易刺激性,意識障害,昏睡

微量元素の必要量は、年齢や性別、また病態によって大きく異なる。今日、多数の経腸栄養剤が市販されているが、製剤によって添加されている微量元素や含有量が全く異なる2)ため、各々の栄養剤に含まれる成分と量を把握し、さらに患者個々の病態を考慮した上で必要量を適宜補充する必要がある。微量元素の一日の必要摂取量の目安と、市販されている微量元素製剤およびココアと亜鉛補充にも使用される薬剤の成分を表3に示す。

表3 微量元素の食事摂取基準と微量元素補充品

微量元素
(単位)

食事摂取
基準
(男性
 50~
 69歳)
(/日)

食品

一般食品

医薬品

テゾン®
(125mL)

ブイ・
クレス®
(125mL)製品の詳細

アルジ
ネード®
(125mL)

ピュア
ココア
(10g中)

プロマック®
(ポラプレジンク:1g)

鉄(mg)

7.5 2.5 5.0 7.0 1.4

亜鉛(mg)

12 4.0 12.0 10.0 0.7 33.9

銅(mg)

0.9 0.3 0.01 1.0 0.38

セレン(μg)

30 20 50 50

セレン(μg)

40 13 (30)

マンガン(μg)

4.0 1.3

モリブデン(μg)

25
ブイ・クレスベリーズに含まれる

微量元素を投与する際には、吸収部位や他の栄養素との競合に注意する。例えば、消化管手術後の症例では残存している消化管や再建術式により、また経管チューブからの経腸栄養剤の投与例ではチューブの位置により吸収障害が生じることがある3,4)。さらに吸収が競合する亜鉛と銅では、十分量を投与しても吸収されずに欠乏症を発症することがある5,6)

以下に、臨床的に問題となることの多い、鉄、亜鉛、銅、セレン、さらに抗酸化作用との関連について簡単に示す。

2.鉄

生体にはヘモグロビンやミオグロビン、ヘム酵素など約2.8gの機能鉄があり、フェリチンやヘモジデリンなど約1gの貯蔵鉄が主に肝臓に存在し、生体内で重要な機能を担っている。そのうちヘモグロビンに約2/3と最も多く含まれている。鉄欠乏からの貧血により酸素運搬能が低下すると、PEG患者をはじめ長期臥床患者では褥瘡のリスクが増大するため欠乏症には十分に注意する。一方、慢性肝炎や肝硬変などの肝疾患症例では、肝での鉄の蓄積量の増加により活性酸素の産生が惹起され、その結果、肝障害が進行し、肝硬変や肝癌発症の危険も高まる。このため肝疾患症例では瀉血療法や鉄の摂取制限(鉄摂取量として6mg/日以下)も考慮しなければならない7,8)

3.亜鉛

亜鉛は生体内で様々な役割を担っており、また短期間で多彩な欠乏症状を呈するため、臨床的に最も注目されている元素である。亜鉛欠乏症状の主徴は、顔面や会陰部からはじまり漸次増悪する皮疹である。また、欠乏により味覚障害や嗅覚障害も発症するため、PEG患者など摂食障害患者では食欲の低下から経口摂取移行への障害となることもあり、また褥瘡を含めた創傷治癒の遅延や皮膚委縮の原因にもなる。日常的な経腸栄養の管理者に、亜鉛欠乏症に対する注意を喚起し、モニタリングを実施することで欠乏症の予防、早期発見と対処法を周知することが大切である。

亜鉛と銅の吸収は拮抗するため、同時投与時には亜鉛欠乏にも注意する。亜鉛を補充しても血清亜鉛値が上昇しない場合には、亜鉛と銅を別々に投与したり、銅と亜鉛の含量比を1対10以上に調整するなど銅の投与を制限することも必要である2,6)

4.銅

銅の欠乏症には、白血球減少症や貧血などがある。長期経腸栄養症例では免疫能が低下していることが多いため、欠乏による白血球減少症には注意を要する。銅の吸収は前述のように亜鉛と競合するため、多量の亜鉛が含まれる薬剤の投与で銅欠乏症を発症したとの報告5)もあり、亜鉛含有量の多い製品を連日投与する際には銅の欠乏に注意する。

銅欠乏症への対処は、一日10~20gのピュアココアの投与が簡便かつ安価でもあり、多くの報告がされている5,6)

5.セレン

セレン欠乏症には、心筋症、不整脈、下肢筋肉痛などがある。本邦における経腸栄養施行例でも、重症心身障害児の長期経腸栄養投与例で、セレン欠乏による赤血球大球性変化や爪床蒼白化、甲状腺機能低下例などが報告されている9)。また経腸栄養剤、特に医薬品はセレン含有量が少ないものが多いため、長期間投与例では、セレン欠乏症を念頭に入れた栄養管理が必要である。

セレンの補充法に、亜セレン酸ナトリウム水溶液試液(セレンとして100μg/日)を院内調剤して投与する方法がある10)が保険適応外でもあり、実際の管理、特に在宅症例などではブイ・クレス®などのセレンを多く含む補助製剤の投与が簡便で有用である。

6.抗酸化作用

微量元素には、抗酸化作用を示すものがある。スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の酵素活性には亜鉛、銅、マンガンが、グルタチオンペルオキシダーゼの酵素活性にはセレンが必要である。酸化ストレスにより引き起こされる血管内皮障害などを考慮すると、抗酸化作用を有する微量元素を摂取することは、高齢な経腸栄養患者においては2次的合併症を防ぐ上でも有用である。ビタミン同様に、抗酸化作用を期待しての微量元素の投与も考慮する必要がある。

7.まとめ

微量元素は、生体内で非常に重要な役割を担っている。現在市販されている経腸栄養剤は、製品により微量元素の含有量が全く異なるため、栄養剤を選択する際には必ず含まれる微量元素の種類と量を確認し、必要により表3のような微量元素製剤を追加することが大切である。さらに、日常の管理の際には微量元素の欠乏症の有無をモニタリングし、欠乏症の予防と早期発見に努めることが肝心である。

文献

  1. 高木洋治:疾患とミネラル 10. 静脈・経腸栄養. ミネラルの事典、糸川嘉則編、朝倉書店、東京、p651-680 2003
  2. 湧上聖:PEGにおける微量元素投与のピットフォール.栄養-評価と治療, 27(1):36-39,2010
  3. 伊藤明彦ほか:微量栄養素の吸収部位から見た経胃瘻空腸瘻による栄養管理のピットフォール.静脈経腸栄養,21(増刊号):75-76,2006
  4. 西脇伸二ほか:経皮内視鏡的空腸瘻造設術後の長期栄養管理における血清微量元素,ビタミン濃度の検討.日農医誌,56(4):632-637,2007
  5. 河合勇一ほか:濃厚流動食と銅欠乏.臨床栄養,114(6):676-680,2009
  6. 湧上聖:経腸栄養管理における褥瘡管理と微量元素.難病と在宅ケア,10(8):45-49,2004
  7. 藤田尚己ほか:NASHに対する除鉄と瀉血療法.臨床栄養,116(6):717-723,2010
  8. 岩田加寿子他:C型慢性肝炎の食事療法-鉄制限食のレシピ.総合臨床,58(9):1992-1994,2009
  9. 越智史博ほか:重症心身障害児におけるセレン欠乏とその治療.日本小児栄養消化器肝臓学会雑誌,23(2):141-146,2010
  10. 浅井哲:長期経腸栄養におけるセレン欠乏とその補充法について.治療,84(4):184-187,2002

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