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Chapter2 経腸栄養
4.経腸栄養に用いられる製剤および食品
5.ORS(経口補水液)


聖マリア病院小児外科 靏 知光

靏 知光
記事公開日 2011年9月20日

1.経口補水療法(Oral Rehydration Therapy:ORT)について

日本では、脱水状態時には点滴をすることが多いと思いますが、海外では経口補水療法(Oral Rehydration Therapy : ORT)が普及しています。ORTというのは、水分と電解質を経口的に補給するというシンプルな方法です。このORTに用いられるのが、「経口補水液」(Oral Rehydration Solution : ORS)という飲料です。

ORTは、開発途上国でコレラなど、感染性の下痢によって命を落としていた多くの患者を救うために、世界保健機関(WHO)が1970年代にORS(Oral Rehydration salts:)という粉末飲料を開発したのが始まりです1)。ORSを用いたこの治療法は多くの脱水患者を救い、その効果が認められました。その結果、コレラほど重篤な疾患でなくとも下痢や発熱で脱水症状を起こす疾患に対しては、点滴をする前にまずこの治療法をおこなうべきであるとの意見が高まり、WHOや欧米諸国ではORTに関するガイドラインが作られました2,3,4)。ORTのガイドラインでは、重度ではない脱水状態の場合、ORSを飲むことによって脱水の改善を行うことが推奨されています。重度の脱水状態に対してはもちろん点滴が必要ですが、状態安定後はORTに切り替えることも推奨されています。ORTは日本では十分普及していませんが、経口補水液をうまく利用することによって、点滴に比べて簡単な方法で水分と電解質の摂取バランスを取ることができます。

2.経口補水液について

ORSの組成は、海外のガイドラインにて推奨組成として定められていますが、その必要条件として3つにまとめることができます。

①体から不足している電解質(Na、K、Clなど)を一定量以上含んでいること。

脱水状態時には、体から水分と電解質が失われているため、それを補えるだけの電解質を含んでいることが必要です。赤ちゃんのイオン飲料やスポーツドリンクにも電解質が含まれていますが、ORTのガイドラインにおける推奨組成に比べて濃度が低くなっています。脱水状態時に電解質濃度の低い飲料を摂取すると、体液が薄まってしまい、尿量が増えるなど脱水がうまく改善されなくなります。日常の水分補給と脱水状態時の水分補給では必要な電解質濃度が異なりますので注意が必要です。

②素早く吸収できるようにブドウ糖が配合されていること。

水分吸収は小腸・大腸で行われますが、口から摂取した水分は主に小腸で吸収されます。小腸の絨毛表面にある栄養素吸収細胞にはNa-ブドウ糖共輸送機構(SGULT1)が存在しています。Naとブドウ糖が一定の割合で存在していれば(Naとブドウ糖のモル比が約1:1~2)、このSGLUT1を用いて両者が素早く吸収されます。Naとブドウ糖の吸収に伴い、栄養素吸収細胞を挟んで浸透圧の差が生じます。その浸透圧差により水分も素早く吸収されます。Naやブドウ糖のみ含まれる場合や、Naとブドウ糖のバランスが崩れている場合は吸収速度が低下します。特に下痢があるときは、炭水化物含量の高いソフトドリンクを飲用すると下痢の期間が長くなったり、便量が増加したりすることがわかっています。

③浸透圧が体液よりも低いこと。

水は、浸透圧の低い方から高い方へ移動する性質があります。浸透圧が体液(285±5mOsm/L)よりも高い飲料では、水の吸収速度が低下しますので、ORSとしては適しません。


以上をわかりやすくまとめますと、経口補水液(ORS)とは水と塩分(電解質)が体に素早く吸収されるように水、電解質、糖分をちょうどいい塩梅(あんばい)に調整した飲み物と言えます。

表1 ORSのガイドラインと医薬品、病者用食品、一般飲料の組成
表1 ORSのガイドラインと医薬品、病者用食品、一般飲料の組成

表1にORSのガイドラインの組成や現在我が国で入手可能な医薬品、病者用食品の組成をスポーツドリンクやその他の飲み物と比較しながら呈示します。読者の皆様に一番理解していただきたいことは、スポーツドリンクとORSは同じではないということです。これを混同して、また時にまちがって使用しますと逆効果もあり得るということを覚えておいて頂きたいと思います。

日本では、消費者庁より許可を受けた脱水状態時の水・電解質補給用のORSが病者用食品として調剤薬局や一般のドラッグ・ストアなどで販売されています(図1 OS-1®:大塚製薬工場)5,6,7))

図1 病者用食品としてのORS
図1 病者用食品としてのORS

この製品にはゼリー状のタイプもあり、嚥下に不安な高齢者や小児でも安全で飲みやすいので便利です。脱水は、思っている以上に身近に存在しています。感染性胃腸炎(ウィルス性、細菌性)、風邪、インフルエンザなどによる発熱・嘔吐・下痢などの病気からくる脱水の他に、温暖化+節電により酷暑のなかでたくさんの汗をかいた時、高齢者の食事摂取量が暑さのため低下し、水分摂取量も低下した時など、水分・電解質が失われる脱水状態時には、早めに医療機関を受診すると共にORSを積極的に摂取して脱水対策を早め早めに行いましょう。

これらORSは今回の東日本大震災の被災地でも点滴の代わりに配られ、大活躍したようです。脱水になったらすぐ点滴ではなく、様々な環境の中で何をどのように摂取すれば脱水が予防でき、重篤な状態を予防できるのかを我々はもう1度じっくり考え直すべきであると考えます。

また、ORS製品がすぐに手に入らない時は、自分でも比較的簡単にORSを作ることが可能です。特に大塚製薬工場のOS-1とそこそこ同じ内容になるような方法がありますので図2で紹介しておきます。

図2 自分で作れるORSレシピ
図2 自分で作れるORSレシピ
図3 3種類のジュースを使ったORSの作り方
図3 3種類のジュースを使ったORSの作り方

しかし、これはあくまで応急処置であり、継続的に中長期にORSを使うには市販品を買われることをお勧めします。

3.ORSの対象疾患

3.1 感染性胃腸炎

ノロ、ロタウィルスに代表される感染性胃腸炎は、下痢・おう吐を中心とした症候を示し、発熱を伴う場合もあります。下痢便やおう吐物の中にはナトリウム、カリウムが比較的多く含まれるため、水分と電解質の補給が必要です。この分野において、欧米では小児を対象としたガイドラインが策定されています。2003年のCDCガイドラインには、軽度から中等度の脱水においてはORTを実施し、食事についても特別な配慮は必要なく、重度の脱水でない限り、通常の食事や授乳を継続することなど、7つの原則が示されています。

3.2 感冒

流行性感冒には、軽い風邪(上気道炎)からインフルエンザまでが含まれます。しかし、比較的症状の強いインフルエンザは感冒とは区別して扱う場合が多くなっています。どちらにせよ、発熱に伴う発汗、体温の上昇による不感蒸泄の増加、食欲低下による水分・塩分摂取量の低下などがあいまって、脱水症を起こすリスクが高まります。特に小児や高齢者などはもともと脱水になりやすく水分バランスになっています。症状が軽くても、軽いうちから充分な脱水対策を行うのが安全です。

3.3 過度の発汗(熱中症)

主に夏に起こる熱中症は、体に熱が蓄積することによって発症しますが、当然、脱水が起こり熱が蓄積しやすくなると共に脱水そのものによっても発症します。熱中症対策というと対策グッズなど熱から身を守る方法ばかり喧伝されていますが、実は水分・電解質補給こそが肝腎要なのです。汗は血液から作られることから、電解質が含まれています。また、汗をかくスピードが速ければ速いほど、汗に含まれるナトリウムをはじめとする電解質量が増加することがわかっています。暑い環境下でたくさんの汗をかいた場合、体から失われる電解質の量も多くなるため、水分補給と共に電解質も補給する必要があります。しかし、熱中症が起こるような環境下では、電解質補給の主な方法である食事が十分食べられないことが多く、飲料からの摂取が重要になります。平成21年6月に厚生労働省が発表した通達「職場における熱中症の予防について」8)において、経口補水液の摂取が記載されています。現在の日本の猛暑の中で、屋内の高齢者やスポーツ中の若者が亡くなるケースが増加しているという現実を我々はもっと真摯に受け止め、熱中症では絶対人々を死なせないという強い意志を持った脱水症対策が重要であると考えます。

3.4 高齢者の経口摂取不足

高齢者は、もともと体の水分量が少なくなっているうえに、複数の疾患が罹患している場合が多く、さらに生活機能障害(歩く、食事を摂る、排泄するなどの体を動かす機能や認知機能の低下など)などが重なります。また、水分や電解質の摂取が不十分な場合が多く、水分や電解質を体にとどめておく機能も低下していきます。これらのことから高齢者は水・電解質が不足するリスクが高く、脱水になりやすくなります。高齢者は一度に多くの水分を口から摂ることは難しいので、脱水にできるだけならないよう、普段から水分と電解質の摂取に配慮しなければなりません。効率のよい水分と電解質補給が求められることからORSの重要性が高くなります。

4.ORSの経腸栄養への応用

ORSは、

  1. 脱水時に不足している電解質を補給出来る
  2. 吸収速度を速くする工夫がされている

という2つの特徴があります。この2つの特徴を生かして、経腸栄養に併用することが可能です。

4.1 経腸栄養剤・濃厚流動食使用時の水分・電解質管理

経腸栄養管理においては、使用している栄養剤や流動食に加えて別途水分を補給し、1日に必要な水分量を投与しなければいけません。1日に必要な水分量は体重あたり30mLを目安とし9)、さらに水分喪失量を考慮して決定する必要があります。投与熱量が十分であっても水分量は製品により違いがありますので、水分量をよく確認して計算しなければなりません。生体内では水とナトリウムは一緒に移動するため、血清ナトリウム値にも注意が必要です。血清ナトリウム値の低下は比較的多く観察されますが、その際はナトリウムの摂取量、脱水の有無、腎機能(尿量)、体液喪失の有無、栄養剤や流動食に含まれるナトリウム量などを確認してナトリウムの補正が必要かどうかを考えます。経口補水液は100mLあたり0.3g程度の食塩が含まれていますので、経腸栄養時の水分・電解質管理に使用することが可能です。

4.2 経腸栄養開始時の水分補給

手術などにより絶食期間があった場合、回復時にはできる限り早期に経腸栄養を開始することが重要です。経腸栄養開始時には、少量投与より開始し、栄養剤・流動食の投与量、投与速度を徐々に増加させます。経腸栄養開始時は5%ブドウ糖液を用いる場合がありますが、吸収速度の良好な経口補水液を最初に使用し、水分と電解質の補給を行い、徐々に栄養剤・流動食に切り替えていくことが可能です。TPNからの切り替えなど、絶食期間が長い場合は経口補水液の他、腸内環境を整えるグルタミン、ファイバー、オリゴ糖などをうまく使用することもポイントです。

4.3 消化器系合併症発生時の水分補給

代表的な消化器系合併症である下痢には、栄養剤調製後の細菌汚染、投与速度、投与時の温度、投与液の浸透圧など様々な原因があります。また、使用している製剤が患者の体質に合っていないことも下痢の原因となりますので、多方面からの検討と対処が必要です。下痢がなかなか改善しない場合には、投与を一旦中止し一定期間(12時間程度)おいてから少量、低速度で再開することもあります。経口補水液は比較的容易に吸収することが可能ですので、一時的に栄養剤・流動食と置き換えて使用することもできます。結果として下痢によって失われた電解質の補給を行えます。

逆流・おう吐も消化器系合併症として認められる場合があり、誤嚥性肺炎や逆流性食道炎のどのリスクを伴います。原因としては投与後の姿勢、1回投与量、栄養剤・流動食の濃度、風味や組成が患者に合っていないなどがあります。経口補水液は吸収速度が速いことに伴い、胃から腸への排出時間が短くなります。通常、経腸栄養時には追加水分を投与する場合が多いのですが、経口補水液を用いると水よりも速やかに腸へ移動するため、タイミングを考えて使用することにより、胃の中で栄養剤・流動食と混合されてしまう量が少なくなり、結果として胃の中の貯留量を少なくすることができます。胃の中の貯留量できるだけ少なくするということは、胃食道逆流・おう吐のリスクを低下させることにつながります。

5.おわりに

急性下痢症の治療法として、開発途上国を対象に開発・使用された経口補水液は、欧米諸国で応用が検討されガイドラインが策定されています。日本でもようやく、経口補水療法の概念に沿った飲料が利用できるようになりました。もちろん、ナトリウム、カリウムを一定量含んでいますので、患者の状態を確認し、その組成と特徴を理解した上で、適切に使用することが望まれます。そのため我が国では、あえてコンビニなどには置かず、調剤薬局やドラッグストア、病院の売店・自販機などで制限して販売されているようです。

脱水時に不足する電解質を必要量含み、吸収速度を高めるよう調製されている経口補水液は、脱水症の予防・治療のみならず、経管栄養・PEG使用時の水分補給はじめ、いろいろな医療場面での臨床応用が期待されています。

文献

  1. Farthing MJ. Oral rehydration therapy. Pharmacol Ther. 1994;64(3):477-92
  2. World Health Organization. Oral rehydration salts(ORS): a new reduced osmolarity formulation. Geneve、 Switzerland: World Health Organization、2002
  3. Walker-Smith JA、 Sandlhu BK、 Isolauri E、 et al. Guidelines prepared by the ESPEGAN Working Group on Acute Diarrhoea. Recommendations for feeding in childhood gastroenteritis. European Society of Pediatric Gastroenteroloy and Nutrition. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 1997;24(5): 619-20
  4. King CK、 glass R、 Bresee JS、 et al. Managing acute gasutroenteritis among children: oral rehydration、 maintenance、 and nutritional therapy. MMWR Recomm Rep. 2003; 52(RR-16): 1-16
  5. 溝手博義、靏知光ほか.下痢、嘔吐、発熱に伴った脱水に対するOS-1(食品)の水・電解質補給効果 小児を対象とした検討 JJPEN:The Japanese Journal of Parenteral and Enteral Nutriotion 24巻12号Page735-743(2002.12)
  6. 西 正晴、岡久稔也ほか.感染性腸炎等の下痢による脱水症状患者を対象としたOS-1(食品)の水・電解質補給効果の検討 市販ミネラルウォーターを対照とした多施設共同並行群間比較試験.薬理と治療31巻10号Page839-853(2003.10)
  7. 松隈京子、入江伸ほか.サウナ浴による健常成人脱水モデルを対象としたオーエスワン(食品)の水・電解質補給効果の検討 市販ミネラルウォーターを対照とした多施設共同並行群間比較試験.薬理と治療31巻10号Page869-884(2003.10)
  8. 平成21年6月19日付け基発第0619001号「職場における熱中症の予防について」
  9. 真壁 昇 病態別経腸栄養剤 脱水 編集/丸山道生 日本医事新報社 経腸栄養バイブル;2007. Page75-79

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