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Chapter2 経腸栄養
11.経腸栄養時の薬剤投与


都立墨東病院 薬剤科 科長 廣井順子

記事公開日 2011年9月20日
2015年10月27日改訂

1.はじめに

経腸栄養療法施行時の薬剤投与方法としては、まず、投与される薬剤の特性と投与時の安全性を考慮しなければならない。経腸栄養投与が治療のひとつとした病態別経腸栄養剤等については別章を参考にして頂き、ここでは経腸栄養剤をNGT(経鼻胃管)やPEG(内視鏡的胃瘻)、PEJ(経胃十二指腸瘻)、PTEG(経皮経食道胃管)などで投与している場合に、その経管を介して治療薬物を投与する方法を中心に触れていきたい。

2.栄養剤は医薬品か食品か

医療用医薬品(以後医薬品とする)には、6種類の経腸栄養剤と多種類の機能性栄養食品が販売され、それぞれの製品には特性がある。保険算定上の利点欠点、栄養成分の違い、微量元素添加の有無、浸透圧の違い等において、医薬品と食品を取り扱う際に配慮すべき点が多くある。いずれにおいても、個々の病態や経腸栄養管理療法を行う環境に合わせて最善の栄養剤を選択しなくてはならない。

3.薬剤投与時の問題点

経管による薬物療法で起きうる主な問題点としては、

  1. 医薬品と経腸栄養剤や数種の医薬品を一緒に投与することで起きる薬理学的・化学的安定性の変化などの相互作用及び配合変化
  2. 医薬品投与時のチューブ内の狭窄

があげられる。

4.経腸栄養療法施行時の注意

もともと経腸栄養剤のなかには、牛乳由来のカゼインが含まれており、アナフィラキシーショックを引き起こすことがあるため、牛乳たん白アレルギーを有する患者には禁忌であり注意する必要がある。

4.1 下痢

経腸栄養療法時には下痢や便秘を起こす症例がよくあり、これらを調節するために、下痢止めや下剤が使用される。

下痢の誘発原因として次の4点が考えられる。

  1. 浸透圧性の下痢
  2. 乳糖不耐症
  3. 添加剤による下痢
  4. 感染性の下痢
① 浸透圧性の下痢

経腸栄養剤には溶解して投与する時点での浸透圧にそれぞれ違いがあり、経管チューブ先端の置かれている臓器の浸透圧との差で下痢を誘発していることがある。

これらは、ゆっくり時間をかけ少量ずつ持続投与することで調節可能な場合があるが、投与量に限界があり、必要栄養量を投与できないことが多い。そのため、下痢止めを併用することがある。

よく使用される医薬品としては、ロペラミド、タンニン酸アルブミン、乳酸菌製剤等がある。
しかし、経腸栄養剤のそのものの浸透圧だけではなく、投与される薬剤にも浸透圧が高いものがあるので注意が必要である。さらに、経管投与の際に、錠剤やカプセル剤の代替えとしてシロップ剤が使用されることがよくある。例えば、ビソルボンシロップ®(塩酸ブロムヘキシン)は4,950mOsm/Kgと高く、また、ポンタールシロップ®は1,450mOsm/Kgである上、嬌味剤としてD-ソルビトールが添加されているため下痢を誘発しやすくなる。

② 乳糖不耐症

内服薬の錠剤に乳糖がコーティングされている場合や、散薬を賦形する際に使用されている乳糖に起因する乳糖不耐症がある。乳糖不耐症患者の場合、乳糖を含有する経腸栄養剤の使用を避けるだけでなく、乳糖を含む薬剤の投与も避けるべきである。

③ 添加剤による下痢

先程触れたD-ソルビトールやオリゴ糖、乳糖など薬品の嬌味剤や賦形剤によって誘発される場合がある。もともとD-ソルビトールは消化管X線造影時の便秘防止として10~20g使用される薬剤である。ポンタールシロップ®1500mg投与の際、D-ソルビトールが約10g投与されたこととなり下痢を誘発しやすくなる。また、シロップ剤の中には微量ではあるがエタノールを含む薬品も少なくない。アルコール過敏症の患者に投与する際には投与量、投与期間もふくめ十分注意が必要である。

④ 感染性の下痢

4.2 便秘

経腸栄養剤の中には食物残渣の少ないものを使用していることや、経腸栄養療法施行している患者の多くは運動量が少なくことなどから便秘を来している場合もよく見受けられる。

使用される薬剤として、ピコスルファートナトリウム(ラキソベロン®他)等の大腸刺激性下剤で調節することが多い。経口摂取でよく頻用される酸化マグネシウムも、口中崩壊錠などを利用し、微温等に懸濁しながら投与する方法もある。しかし、もともと酸化マグネシウムは水に難溶性であり、チューブのつまりを来す可能性もあるので注意が必要である。また、腹部膨満感のある患者は大建中湯が比較的容易に水に溶け、経管チューブからの投与が可能である。

しかし、これら症状改善のために用いる医薬品は漠然と使用せず、便の状態をきちんと観察確認し、必要でない場合は中止することも重要である。

4.3 薬剤投与時の注意

経腸栄養剤と医薬品の相互作用については機序不明なものも多く、情報もまだ少ないのが実情である。また、近年では後発医薬品(ジェネリック)の導入により、薬剤の添加物の違いによりどのような相互作用が発現するか未知なところもある。そのため投与する際には、薬剤の特性を薬剤師に確認してから投与することが重要である。

現在、報告のある主な薬剤としては、

 ① 食塩・塩化ナトリウム

 ② ワルファリンカリウム

 ③ フェニトイン

 ④ ニューキノロン

 ⑤ テオフィリン

 ⑥ スクラルファート

 ⑦ H2ブロッカー

 ⑧ マレイン酸フルボキサミン

 ⑨ セフジニル

 ⑩ ジゴキシン

などがある。

① 食塩・塩化ナトリウム

もともと経管栄養薬剤のナトリウム含量が低く、長期にわたり使用している患者には低ナトリウムを改善するために食塩・塩化ナトリウムを付加していることがよくある。しかし、経腸栄養剤へ食塩を混合すると、塩析を生じるため、2~3g/日程度の食塩の混合では臨床上チューブの閉塞や滴下不良をおこしたことはないが、これよりも多量の食塩を投与することは避けることが望ましい。

② ワルファリンカリウムと経腸栄養剤中のビタミンK (ワーファリン錠®

ワーファリンカリウムと納豆、青汁やクロレラなどとの併用はビタミンK含有食品であるため避けるよう周知されているが、経腸栄養剤中のビタミンKにも配慮されるべきである。経腸栄養剤と中心静脈栄養製品を併用している場合、ワーファリンカリウム併用開始の際には、含有ビタミンKに注意し、トロンボテスト値INR(international normalized ratio)を積極的にモニターする必要がある。

③ フェニトイン併用中血中濃度が低下(アレビアチン錠®、散、ヒダントール錠®等)

経腸栄養剤を投与中の患者で、フェニトインの血中濃度が低下したとの報告がある。

④ ニューキノロン抗菌剤と経腸栄養剤中のカルシウム、マグネシウム (シプロキサン錠®等)

投与の際にはニューキノロン服用後2時以上間隔をあけるなど注意する。

⑤ テオフィリン(テオドール®、スロービット®等)

蛋白質含有量が高い経腸栄養剤の場合、クリアランスが増加し、炭水化物含有物質が高いとクリアランスは減少するという報告がある。

⑥ スクラルファート(アルサルミン細粒®、液®、テイガスト液®等)

経管栄養処置を受けている成人患者、低出生体重児および新生児発育不全において、胃石・食道結石がみられたとの報告がある。スクラルファート投与前後、30分は経腸栄養剤の投与は中止し、微温湯でチューブ内をフラッシュした後に投与する。また、アルミニウムが含まれるため、長期間投与時には、アルミニウム脳症、アルミニウム骨症等が現れるおそれがあり十分注意が必要である。

⑦ H2ブロッカー、PPI(タガメット®、ガスター®、タケプロン®、オメプラール®等)

胃酸抑制剤使用中の患者は胃内pHが上昇しており、胃酸による殺菌効果が低下している場合があるため、細菌汚染に注意が必要である。また、経腸栄養剤の逆流防止目的で使用する粘度調整剤のペクチンのなかには、制酸剤使用中の患者の胃酸へ混合した際に十分な粘度が得られず、栄養剤の逆流を防止できない場合がある。粘度調整剤のペクチン使用の際には、H2ブロッカー、PPIを併用しているか、併用投与可能か十分確認する必要がある。

5.薬剤投与方法の工夫

薬剤には、酸性条件下でのみ溶解するもの、吸収に酸性的環境が必要な薬剤、または、アルカリ性条件下でのみ溶解する腸溶性薬剤などがある。薬剤を投与する際には経腸チューブの先端が腸のどの位置にあるか考慮し、さらに先に述べた経腸栄養剤との相互作用も確認しながら投与間隔をあけるなどの投与時間の工夫が必要である。

一方、内用剤のなかには、粉砕調剤を行い一包化して、投与直前に水や微温等に懸濁して投与する方法がとられていることがある。しかし、これは調剤上に問題が多く、薬剤本来の安定性や必要量が確実に保たれていないことがある。

そこで、可能な限り簡易懸濁法を活用することで、チューブの閉塞や薬剤が包装紙等に残り過小量投与を起こすなどの多くの問題点が軽減される。

6.経腸栄養剤投与時の薬剤投与方法(簡易懸濁法)

経管栄養剤投与時の薬剤投与方時で内用剤の多くは、錠剤を粉砕して一包化調剤を行い、投与直前にこの粉砕薬を水や微温等に懸濁して投与する方法が多い。しかし、この方法には調剤上等に問題(表1)が多く、薬剤本来の安定性や必要量が確実に保たれていないことがある。そこで、簡易懸濁法という薬剤投与方法を行なうこととで、チューブの閉塞や薬剤が包装紙等に残り過小量投与を起こすなどの多くの問題点が軽減される。

表1 経管投与時の問題点

経管投薬時間問題点

粉砕法

簡易懸濁法

薬品が疎水性で懸濁しない

可能性あり

可能性なし
(1薬品づつ実験して確認)

注入器から吸い取れない

可能性あり

注入器から出ない

可能性あり

チューブ閉塞

可能性あり

投与量ロス

可能性あり

可能性なし
(倉田式経管投薬法の考案実施)

崩壊中の汚染

可能性あり

健康被害

可能性あり

6.1 錠剤粉砕・カプセル開封時の問題点

経管栄養チューブを介して投薬する際、薬品が疎水性で全量が投与できない・チューブを閉塞するなど、薬品を水に入れたときの物性が明確でないことにより多くの問題が生じている。また、錠剤を粉砕したりカプセルを開封する調剤(粉砕法)により、安定性の低下、薬物動態の変化、薬品量のロス、配合変化、PL法の抵触、調剤過誤の危険性などが発生する。

6.2 何故つぶすのか?

栄養チューブや胃瘻、腸瘻から薬を投与する場合、薬を水に懸濁して投薬するために錠剤をつぶして粉末状にする。それならば錠(カプセル)剤を直接水に入れた時、錠(カプセル)剤が崩壊・懸濁するなら粉砕・カプセル開封の必要はなく、粉砕等によって発生する問題が解決できる。

6.3 簡易懸濁法

簡易懸濁法は「つぶし」の処方であっても錠剤をつぶしたりカプセルを開封したりしないで、投与時に錠剤・カプセル剤をそのまま水に入れて崩壊・懸濁させる方法である。これは、薬剤を溶解もしくは崩壊させるために約55℃の温湯に入れて自然放冷する。水温を55℃の温湯に設定するのは、カプセルを溶解するためである。また、水に入れて崩壊しない錠剤(コーティング剤等)の場合は、薬剤を一包化しておき、薬品を投与する直前にその分包フィルムの上から乳棒で叩きコーティングを破壊してから懸濁・崩壊させる。このように、投与すべき数種の薬剤を同時に水に懸濁してから投与する。薬剤投与10分前まで各薬剤は安定した状態で保存することができる。但し、55℃温湯で変質してしまう薬剤もあるため、予め簡易懸濁法で投与可能かどうか十分情報収集してから行うことが大切である。

6.4 簡易懸濁法のメリット(表2)

簡易懸濁法は、粉砕法で生じる安定性・吸収の変化、チューブ閉塞、投与量のロス等の問題を解決し、調剤時間・過誤を激減させ、さらに中止変更時の経済ロスの削減、投与直前の薬品確認を可能とし、投与可能薬品数も粉砕法より多くなり治療の幅を広げることができる。

表2 簡易懸濁法のメリット
  1. 調剤時問題点の解決
  2. 投与時の問題点、経管栄養チューブ閉塞の回避
  3. 配合変化の危険性の減少(下欄A)
  4. 投与可能薬品の増加(下欄B )
  5. 投与時に再確認できる⇒リスクの回避
  6. 中止・変更の対応が容易⇒経済的ロスの回避

A 粉砕法:粉砕して混合した後、投与日数期間配合変化の危険性がある。
  簡易懸濁法:投与前水に入れる10分間のみ

B 錠剤・カプセル剤全756薬品中
    →粉砕法:542薬品(71%)
    →簡易懸濁法:631薬品(83%)

6.5 簡易懸濁法の具体的手技

■ 水薬瓶を使用した例

① 水剤瓶へ1回に服用する全薬剤(錠剤も散剤も一緒に)と約55℃の温湯20mLを入れる。 よく振りませ、約10分間自然放置する。(図1

図1 1回に服用する全薬剤と温湯
図1 1回に服用する全薬剤と温湯

② 液を経口用注入器の内筒をはずし、チップ先端は保護栓等で止めてから、後部より移し入れる。(図2図3

図2 経口用注入器の内筒をはずす
図2 経口用注入器の内筒をはずす
図3 チップ先端は保護栓等で止める。後部より移し入れる
図3 チップ先端は保護栓等で止める。後部より移し入れる

③ 経管チューブに注入する(図4)。注入した後はチューブを適量の水で洗い流す。

図4 経管チューブに注入
図4 経管チューブに注入
■ 経口用注入器を使用した例

経口用注入器にシリンジキャップ(保護栓)をした後、内筒を外し、直接全薬剤を入れる。

シリンジキャップを緩め、内筒をゆっくり差しこむ。その後、キャップを外して約55℃(水道の一番熱い温度側で、触って熱いと感じる程度)の温湯20mLをシリンジ先端より吸い取る。

シリンジキャップをした後、よく振り混ぜて、約10分間自然放置する。このとき注入器は立てて置かず横置きにして注入口に崩壊した薬剤が詰まることがないよう注意する。
(薬剤は完全に溶けなくともよい。崩壊して砕けた状態でチューブを通過すればよい。)

良く振り混ぜた後、経管チューブに注入する。注入した後はチューブを適量の水で洗い流す。

近年、この簡易懸濁法関しては多くの医薬品情報が出ているので、それらも収集し、安全で確実な投与方法を実施されたい。


以上に述べてきたが、薬剤の投与方法時に起こる有害事象は、未だ情報量が十分ではない。経腸栄養剤使用時の薬剤投与は、投与する時間や併用する薬剤の影響等を考慮し、安全でより良い治療が行えるよう工夫していくことが大切である。

文献

  1. 倉田なおみ、藤島一郎 監修:内服薬経管投与ハンドブック―簡易懸濁法可能医薬品一覧、時報 2006
  2. 簡易懸濁法研究会:簡易懸濁法Q&A Part2 実践編―現場の疑問を解決! 薬剤ごとの留意点・投与工夫・服薬支援、時報
  3. 特集2 経管投与時の簡易懸濁法の導入と課題、医薬ジャーナル(3):p127-p164、2006
  4. 杉山正康編著:薬の相互作用としくみ第9版、2010.3
  5. 丸山道生編著:経腸栄養バイブル、日本医事新報社 2007

関連ページリンク

簡易懸濁法用容器、注入器製品一覧

簡易懸濁法による投薬の工夫

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