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Chapter2 経腸栄養
3.病態別経腸栄養剤
4.糖尿病用栄養剤


千葉県済生会習志野病院 外科 櫻井洋一

櫻井洋一
記事公開日 2011年9月20日
2018年8月20日改定

<要点>

II型糖尿病患者に対する経腸栄養投与は高カロリー輸液などの静脈栄養投与に比較しインスリン投与が少量で血糖値の制御が比較的容易である。しかし、半消化態経腸栄養剤は通常の食品に比較して低分子で消化吸収が早く、血糖値に上昇をきたすこともあるので注意を要する。II型糖尿病や耐糖能の異常がある患者に対する経腸栄養剤は

  1. 炭水化物含量の減量
  2. 一価不飽和脂肪酸(MUFA)の強化
  3. 食物繊維の添加

など、血糖値の上昇を抑制する工夫がなされている。

現在これらの特徴を備えた栄養素を含有した病態別経腸栄養剤である3種の糖尿病用特殊経腸栄養剤が市販されている。これらは血糖値上昇抑制効果を発揮する栄養素や作用機序に若干の相違はあるが基本的には類似している。これらを直接比較した臨床試験の結果は認めないものの血糖値の変動抑制効果は大きな差はないと考えられる。短期的投与により経腸栄養剤投与後の血糖値の制御が良好になることのみならず、長期的投与により、高脂血症などの脂質代謝改善効果なども認められているため、長期的な体質改善にも有用であると考えられ、糖尿病以外の患者に対しても機能性食品としても有用であると考えられる。

1.糖尿病用経腸剤の適応

近年、病態別経腸栄養剤が市販され、各種病態に適した栄養剤が利用できるようになった。高カロリー輸液などの静脈栄養は手軽なカロリー投与経路ではあるが糖尿病患者では直接静脈内に栄養素が投与されるために血糖値が大きく変動しやすい。これに対し経腸栄養投与は静脈栄養に比較し消化管を介して栄養が吸収されることより血糖値の変動が少なく、血糖管理面からより優れた栄養投与経路であるといえよう。しかし糖尿病患者では経腸栄養投与でも十分なカロリー投与を行うと高血糖をきたすことも多い。したがって血糖値の変動をできるだけ防き、かつ十分なカロリー投与を行うためには糖尿病患者に適した栄養素の組成あるいは特殊栄養素を含有した病態別経腸栄養を使用する必要がある。糖尿病にはI型糖尿病、II型糖尿病があるが、経腸栄養管理において血糖値の制御が比較的難しいのはII型糖尿病であり糖尿病用病態別経腸栄養剤の投与の対象となる。II型糖尿病患者は動脈硬化や高血圧などの複数の生活習慣病を合併していることが多いことから脳梗塞やその後遺症として嚥下障害をきたし経口摂取が不可能となり、経腸栄養による栄養管理を要する機会も多い。ストレスホルモンの作用により糖尿病と類似の病態を示す外科的糖尿病状態においても適切な血糖コントロールを目的に本経腸栄養剤が適応となる1)。通常の経腸栄養投与を行うと高血糖値をきたすとインスリンの使用量が増加し、血糖値も不安定となり低血糖などの重篤な代謝性合併症をきたす可能性も高くなるので本経腸栄養剤の投与が望ましい。

2.血糖値にかかわる栄養素とその効果

II型糖尿病をはじめとした耐糖能の異常がある患者に対して栄養投与を行う場合には

  1. 炭水化物含量の減量
  2. 一価不飽和脂肪酸(MUFA)の強化
  3. 食物繊維の添加

などが一般的に推奨されている。これらの栄養素は経腸栄養投与直後の血糖値上昇抑制効果、また長期的投与後の脂質代謝に対する効果を認めることから糖尿病用経腸栄養剤として配合または含有されている。

2.1 低炭水化物

炭水化物の投与量は投与中あるいは投与後の血糖値と密接に関連している。以前には糖尿病患者における高炭水化物、低脂肪の食物摂取はLDLコレステロール値を低下させると報告され2,3,4,5)、以前にはアメリカ糖尿病学会でも高炭水化物、低脂肪の食物摂取が糖尿病患者に対する適正な食餌として推奨されていた。しかし最近では炭水化物含量の多い栄養剤は高TG血症をきたし、HDLコレステロールを減少させ、高血糖や血清インスリン値の上昇をきたすことが報告された6,7)。最近の報告でも高炭水化物の経腸栄養剤の投与によりより投与後に高度な血糖値の上昇、インスリン分泌の増加が認められることが明らかとされている8)

2.2 MUFA

オリーブ油などの多く含まれるオレイン酸などの一価不飽和脂肪酸(mono-unsaturated fatty acid, MUFA)は長期投与により脂質代謝、とくに動脈硬化に関わるコレステロール代謝などを改善するとされ9~14)、病態別経腸栄養剤として開発、市販されている。Gargら11)は高MUFA経腸栄養剤を長期間とくに糖尿病患者投与し、血清TG値、LDLコレステロールの低下をきたすことを報告した10)。これらはMensinkら10)、Mataら12)、Spillerら13)の報告を除けばいずれも糖尿病患者を対象とした結果であるが糖尿病のない患者に対しても中性脂肪値を低下させることも報告されている14,15)。したがって、MUFAは長期的に投与された際に脂質代謝を改善することを目的としていると考えられる。

2.3 食物繊維

食物繊維は健康食品として重要であるとされ16)、最近発売された経腸栄養剤には含有されている。おもな構成成分はスターチ以外のセルロース、β-グルカン、ヘミセルロース、ペクチンといった多糖類とリグニンなどの非多糖類であり17,18)、消化管機能に対する効果、血清コレステロール低下作用、血糖、インスリン分泌に対する効果などが知られている15) 。1975年にはTrowellら19)により食物繊維不足が糖尿病の発症原因の一つであるとする食物繊維仮説が報告され、また食物繊維摂取不足の地域に糖尿病の発生頻度が高いことも報告された20)。その後耐糖能を改善する効果があることが報告されII型糖尿病患者に対する治療としても有用であることが確認されている21)。水溶性食物繊維は溶液になると粘度が増加し、胃排出時間の延長、腸管通過時間の増加などもきたすため22)、これらの作用も血糖上昇抑制効果にも関連すると考えられる。

3.本邦にて市販されている糖尿病用経腸栄養剤

これら上述の各種栄養素を含有した3種の糖尿病用経腸栄養剤が現在本邦で市販されている(表1)。

表1 本邦で市販されている糖尿病用経腸栄養剤の栄養素組成

 

グルセルナ
(アボット)

タピオン
(テルモ)

インスロー
(明治)

蛋白, %E

16 16 20

脂質, %E

49 40 30

炭水化物, %E

35 44 50

食物繊維, g

1.37 1.8 1.5

オリゴ糖, g

0 0.5 0

MCT, %

0 <5 <1

MUFA, %

68.2 68.8 72.3

n6/n3 ratio

11.5 3.6 2.4

Na, mg

91.3 100 70

P, mg

68.6 60 80

Zn, mg

* 1 1

Cu, μg

* 150 50

Se, μg

* 5 3.5

浸透圧

355 250 500

粘度

13 10 10
含有量は100 kcal当たり    * 不明

栄養素組成はいずれも互いに類似しており、特徴は、

  1. エネルギー比率で脂質含有量が多いこと
  2. 脂質の中でも一価不飽和脂肪酸(MUFA)であるオレイン酸の含有比率が高いこと
  3. 食物繊維が含有されていること

である。この中でインスローは炭水化物の含有量が50%と比較的高く、炭水化物の中でも通常含有されているデキストリンの代わりにパラチノースが70%と高率に含有されている。これは通常のsucrose摂取後の血糖値、インスリン分泌の上昇に比較し、パラチノース摂取後の反応が有意に低いことが根拠になり23)、パラチノースの血糖上昇効果を期待してパラチノースが含有されている。パラチノースはグルコースとフルクトースがα-1.6結合した還元性の二糖類であり、イソマルターゼにより加水分解され吸収される。シュクロースはインベルターゼにより加水分解されるが、パラチノースはシュクロースに比較し、吸収速度は1/5であり、摂取後の血糖上昇が低いとされる24,25)。インスローは通常の標準的経腸栄養剤に比較し、脂質の含有率が29.7%と低いものの、他2種の糖尿病用経腸栄養剤に比較して低い。脂質含有量の中のMUFAの占める割合(脂質中の%)は3種ともほぼ同一であるが、脂質の含有率が3種で異なるために絶対的なMUFAの投与量が異なる。

明治インスロー

4.経腸栄養剤の選択

糖尿病は慢性疾患であり、併存疾患として脳梗塞後遺症としての嚥下障害により経口摂取不可能となり長期的な栄養投与を要する症例も数多く認められる。ごく短期間に栄養投与を要する場合には血糖値のモニタリングを行いながら静脈栄養投与を行ってもよいが長期的に栄養投与を要する場合には経腸栄養投与が望ましい。

病態別特殊経腸栄養剤である作用機序の異なる糖尿病用経腸栄養剤をどのように選択するかに関してはこれらの臨床的効果を直接比較した臨床試験の結果は報告されていない。また短期的あるいは長期的投与の際の脂質代謝改善作用に関してはいずれが優れているかは比較試験の結果も報告されておらず明らかではない。したがって実際に本経腸栄養剤を投与する場合は投与開始時に投与量が必要栄養量を満たすまでは少なくとも血糖値を頻回にモニタリングして血糖値の変動を注意深く見守る必要がある。すなわち投与速度やエネルギー投与量が増加するにしたがい本経腸栄養剤を用いても高血糖をきたす可能性が高くなるのでその場合にはインスリン投与も考慮する必要がある。とくに経口摂取を併用している時に用いる場合には連日異なった経口摂取量に応じて血糖値も大きく変動するので本経腸栄養剤を用いているからといって油断せずに経腸栄養投与中は血糖値の変動に十分に注意する必要がある。

文献

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