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Chapter2 経腸栄養
8.周術期経腸栄養


田無病院院長 丸山道生

丸山道生

記事公開日 2011年9月20日
2015年10月26日改訂

周術期は術前、術中、術後に分けられる。周術期の栄養管理とは、術前から術後にかけての栄養管理である。ここでは、術前と術後の経腸栄養療法に関して述べる。
手術患者を早期に回復させるためには、周術期の栄養管理は重要である。以前、術後栄養管理は静脈栄養が中心であった。しかし、欧米で術後の早期経腸栄養の有用性が示され、本邦では上部消化管術後を中心に術後経腸栄養管理が広がりを見せている。しかし、最近の欧米の術後早期回復プログラムであるfast track surgery やERAS (Enhanced Recovery After Surgery)で、結腸癌術後の早期経口栄養が推奨され、術当日からの経口摂取も行われるようになった。現在、ヨーロッパを中心としたERAS® Societyから各手術における新たな術後ガイドラインが次々と発表され、胃切除後、膵頭十二指腸切除後にも早期経口栄養が推奨されるに至り、術後栄養管理は急速に経口栄養が中心となっていくと考えられる。経腸栄養や静脈栄養は徐々に術後合併症例や重症例に限って使用され、その適応範囲は狭まっていくだろう。現在は、周術期栄養管理は経腸栄養、静脈栄養管理から経口栄養管理への移行期であり、それぞれの適応症例を考え、臨床的に応用していくのが肝要である。

1.術前栄養管理と経腸栄養療法

1.1 術前の栄養スクリーニングとアセスメント

術前の患者の栄養状態は手術成績や術後経過に大きな影響を与える。そのため、術前の栄養状態のスクリーニングとアセスメントは臨床的に重要となる。本邦では主観的包括的評価法(subjective global assessment; SGA)が現在広く用いられている。また、客観的評価としては、身体測定から割り出される体重、BMIの変化など、血液生化学検査の血清アルブミン値、RTP(rapid turnover protein)、末梢総リンパ球数などが用いられる。
NI(nutritional index)とは、複数の栄養指標を組み合わせることによって、より総合的、客観的に栄養状態を表すことを目的とした指標のことである。周術期患者の予後を推定するNIとして、我が国では小野寺指数といわれる、小野寺らのPNI(prognostic nutritional index:予後推定栄養指標)が広く用いられており、欧米でも認識されるようになった。

PNI=10xAlb+0.005xTLC

Alb:血清アルブミン値(g/dl)、TCL;末梢総リンパ球数(/μL)

血清アルブミン値と末梢総リンパ球数のみから計算されるため、非常に簡便である。とくに、食道癌や胃癌などの上部消化管手術における予後推定に利用され、45以上であると手術の制限なし、40~45は要注意、40以下は切除・吻合禁忌などとされる。
 ヨーロッパを中心に術前の栄養スクリーニングはESPENが推奨するNRS (Nutritional Risk Screening score)が使用されている(表11)。これは体重減少、BMI、食事摂取量、病気の重症度、そして70歳以上かどうかの5項目で判定される。大規模な臨床研究でその有用性は確認されており、周術期の栄養サポートの必要性を判断する良い指標であるとされている。このスコアが3以上はリスクありと判定される。

表1 NRS(Nutritional Risk Screening score)

 

軽度
スコア1

中等度
スコア2

高度
スコア3

栄養状態

BMI

 

18.5-20.5

<18.5

食事摂取量

50-75%

25-50%

<25%

体重減少

3ヵ月

2ヵ月

1ヵ月

疾患手術重症度

軽度

中等度

高度

年齢

>70歳

(注)

  • 食事摂取量は、栄養必要量に対するこの1週間の摂取量
  • 体重減少は、5%以上の体重減少が起こった期間
  • 疾患手術重症度は、軽度は大腿骨骨折、肝硬変症やCOPDなどの慢性疾患に合併症が起こった場合など、中等度はメジャー手術、脳卒中、重症肺炎、血液悪性疾患など、重症は頭部外傷、骨髄移植患者、集中治療患者など
  • 栄養状態は最もスコアが高いひとつを選ぶ。
  • 70歳以上は1点となる
  • 総合得点は0-7点となる

1.2 術前栄養管理の対象と方法

低栄養患者が手術を受ける場合、術後の合併症の発生や死亡のリスク高く、入院日数も増加し、コストもかかる。そのため、高度な低栄養状態の患者は、手術を遅らせても、10-14日の術前の栄養管理を行うことが推奨されている。術前栄養療法に必要な時間は、生理的な機能を回復させるためには4-7日間、さらに体内タンパク質の回復を目標とした場合は7-14日の栄養療法が必要と考えられている。
ESPEN(欧州静脈経腸栄養学会)ガイドライン(ESPEN Guidelines on Enteral Nutrition including organ transplantation, 2006)では、術前の栄養管理をおこなう具体的な適応として、以下の場合となっている2)

  • 6ヵ月で10-15%以上の体重減少がある場合
  • BMI<18.5Kg/m2の場合
  • SGA(主観的包括的評価)がグレードC(高度低栄養)の場合
  • 血清アルブミン<3.0g/dlの場合(肝臓・腎臓機能異常は除く)

術前栄養管理の方法としては、原則的には経口を基本とする。しかし、通常の食事摂取が困難な場合には経口補助栄養(ONS:oral nutritional supplements)として経腸栄養剤を経口摂取する。それでも、上記の方法が十分にできない場合には、経管栄養、それも難しければ静脈栄養とする。食道がんにより狭窄がある例などには、経鼻カテーテルを留置し、術前経腸栄養による栄養状態の改善を行うことも経験される。

1.3 術前の経口経腸栄養剤によるimmunonutrition

生体の免疫能や防御能を高めるとされる特定の栄養素(n-3系不飽和脂肪酸、アルギニン、グルタミン、核酸など)が強化された経腸栄養剤(immune-enhancing diet: IED, もしくはimmune-modulating diet: IMD)を用いて、感染予防、入院期間の短縮、死亡率の低下などの臨床的アウトカムの改善を目的とする栄養療法をimmunonutritionと呼ぶ。
ASPEN(米国静脈経腸栄養学会)ガイドラインによると、対象患者は、待機的な消化器手術症例で、①中等度から高度の栄養障害(血清アルブミン値<3.5g/dl)を伴う上部消化管手術症例、②高度の栄養障害(血清アルブミン値<2.8g/dl)を伴う下部消化管手術症例、となっている。さらに、それに加えて、栄養障害のない消化器手術症例患者にも、栄養障害患者同様に効果が確認されている。
IEDの投与方法は、待機手術症例に術前5-7日、1日1000mlを経口投与する。これに加えて、術後にも、早期経腸栄養として5-7日用いることも行われる。栄養障害のない患者では、術前投与だけでも効果が期待できるとされている。現在、消化器外科のメジャーな待機手術にはルーチンでimmunonutritionを行うことを推奨する報告もある3)
Immunonutritionの期待される効果としては、①感染性合併症発生率の減少(約50%程度)、②在院日数、抗生物質使用量、人工呼吸管理期間、多臓器不全の減少、などがあげられる4)。医療費に関しても、医療費の節約効果があったと報告されている。
重症敗血症状態にIEDを投与すると死亡率を増加させる可能性があることが報告され、アルギニンによる過剰な炎症反応が原因ではないかと考えられている5)。敗血症状態でのアルギニン含有IED投与には注意を払う必要がある。

2.術後栄養管理と経腸栄養

手術による侵襲により、術後は体内の代謝が変化する。エネルギー消費量の増加、骨格筋蛋白の崩壊、肝臓の糖新生や急性相タンパクの合成亢進、インスリン抵抗性の増大と高血糖、脂肪分解の亢進などが挙げられる。このような病態に対応するために、術後早期から適切な栄養管理を行うことが重要で、術後合併症の減少、手術成績の向上、手術侵襲からの速やかな回復が望まれる。

2.1 積極的な術後栄養管理の適応

一般的に、以下のような症例に対し術後の積極的な栄養管理を行う。

  • 術後、経口摂取が1週間以上にわたり制限されるような侵襲の大きな手術を受けた場合
  • 術前より低栄養状態のある場合
  • 術後合併症が発生した症例

一方、ESPENのガイドラインでは、以下のような場合に周術期の栄養療法(経腸栄養や静脈栄養)が遅れることなく行われることが推奨されている2)

  • 周術期に1週間以上の絶食となる場合
  • 周術期に経口摂取量が必要エネルギー量の60%以下が10日間以上続く場合

2.2 術後の必要エネルギーとタンパク量

術後は、生体が必要とするエネルギーや免疫応答や創傷治癒に必要なエネルギーを得るために、生体内では異化が亢進し、貯蔵エネルギーの利用が促進される。筋タンパクの崩壊により得られたアミノ酸から糖新生が行われ、脂肪の加水分解も進行する。術直後の異化亢進は手術侵襲に対する生理的な反応で、サイトカインなどにより引き起こされ、この代謝反応を異化から同化へと逆向きに戻すこと困難である。術直後の高エネルギー強制栄養は、血糖上昇をまねき、感染のリスクも高める。
術直後(72-96時間まで)においては、20-25kcal/kg/dayを上限とするべきと考えられている。これ以上のエネルギー投与はoverfeedingとなり、生体に対して悪影響をおよぼす可能性がある。ESPENのガイドラインでも、25kcal/kg理想体重/dayが基準とされ、高度侵襲下においても30kcal/kg理想体重/dayを上限とされている。すなわち、手術侵襲後の必要エネルギー量は従来考えられていた投与量よりも少なめの設定が適切であると考えられている。
術後のタンパク必要量も、手術の侵襲の程度により異なるが、一般的には1.2-1.5kcal/kg/日程度と考えられている。

2.3 術後の栄養投与経路

原則的には経腸栄養・経口栄養を第一選択とする。腸を使用する栄養法は、生理的で、腸管機能の維持、感染症の抑制の面から有利である。経口摂取が可能なら経口的に行うのが原則であるが、経口が不可能もしくは目標エネルギー量の60%以下しか摂取できない場合には、経管栄養を追加する。消化管が安全に使用できない場合は静脈栄養を行う。周術期の経腸栄養の禁忌は以下で、静脈栄養の適応となる。

  • イレウスや腸の閉塞
  • 高度の循環不全(ショック)
  • 消化管の虚血

術後に経腸栄養で必要カロリーの60%以下しか投与できない場合は、静脈栄養との併用を考慮すべきである2)。 静脈栄養は、末梢静脈栄養(peripheral parenteral nutrition; PPN)と中心静脈栄養(total parenteral nutrition; TPN)に分けられる。PPNは投与できるエネルギー量が限られるため、絶食期間が10-14日以内の短期間の栄養管理が適応とされる。

2.4 消化器手術患者の経腸栄養カテーテル留置

消化器手術患者に術後経腸栄養管理を行うためには、経腸栄養を行うアクセスルートを確保する必要がある。経鼻栄養カテーテルを利用する場合、手術時に空腸瘻を造設する場合などがある。
A)経鼻栄養カテーテル 手術中に経鼻栄養カテーテルを挿入し、腸管内に誘導する。胃全摘では吻合部を通過させて先端を挙上空腸に誘導する(図1)。手術時に入れる経鼻栄養カテーテルは操作しやすいように、こしがあるもののほうが扱いやすい。経鼻栄養カテーテルは短期間の使用に使われ、長期に経腸栄養補助が必要な場合は空腸瘻を造設する。

図1 胃全摘術 Roux-en Y吻合時の術後栄養用経鼻経腸栄養カテーテルの留置
図1 胃全摘術 Roux-en Y吻合時の術後栄養用経鼻経腸栄養カテーテルの留置

B)手術的空腸瘻
1、カテーテルの選択:
空腸瘻に使用されるカテーテルは、小腸の口径を考慮し、小腸に負担にならない8Frから12Frが使用される。空腸瘻カテーテルは主として空腸上部に留置され、長期間に及ぶ場合が多いため、腸管壁に傷害を与えないよう硬すぎず、消化液や温度変化に対しても変性せず、耐久性のあるものが望まれる。素材としては、ポリウレタン製、シリコン製、塩化ビニル製がある。
2、手術的空腸瘻造設の方法:
消化器外科領域では手術時に手術後の栄養管理目的に空腸瘻が造設される(図2)。とくに上部消化管手術や膵臓の手術時に行われるケースが多い。空腸瘻造設法には、①腸管をカテーテルが貫く部位が直接腹壁に開口した直接瘻(Stamm式)、②腸管をカテーテルが貫く部位と腹壁を貫く部位との間に一定の長さの瘻管を有する間接瘻(Wizel式)、③キットを使う針付きカテーテル法(Needle Catheter Jejunostomy、NCJ)などの方法がある6)

図2 腹部手術における空腸瘻造設法
図2 腹部手術における空腸瘻造設法(拡大)

2、1 Stamm式空腸瘻造設術(図3a
 空腸の腸間膜対側にタバコ縫合をかけ、その中心部の腸管に切開を加え、カテーテルを肛門側に向かい挿入、タバコ縫合を縫縮結紮する。再度カテーテル挿入部周囲にタバコ縫合をかけ結紮する。腹壁を貫き、カテーテルを体外に誘導し、カテーテル挿入部位と腹壁を2〜4針結紮縫合し、固定を行う。

Stamm式空腸瘻造設術
Stamm式空腸瘻造設術(拡大)

2、2 Wizel式空腸瘻造設術(図3b
 空腸の腸間膜対側にタバコ縫合をかけ、その中心部の腸管に切開を加え、カテーテルを肛門側に向かい挿入、タバコ縫合を縫縮結紮する。挿入部より腸管外のカテーテルを長軸方向に覆うように漿膜筋層縫合を行い、トンネルを作成する。カテーテルを体外に誘導し、カテーテル挿入部位と腹壁を2~4針結紮縫合し、固定を行う。

witzel式空腸瘻造設術
witzel式空腸瘻造設術(拡大)

2、3 針付きカテーテル法(Needle Catheter Jejunostomy, NCJ)(図3c
NCJはキット製品として販売されており、挿入が簡便で挿入部位からの腸内容の漏出が最低限に抑えられるという利点がある(図4)。空腸の腸間膜対側を穿刺針で漿膜筋層をややはうようにして、肛門側に向けて穿刺をおこなう。穿刺針の内筒を抜去し、外筒にそってカテーテルを腸管内に挿入する。外筒を抜去して、カテーテルを腸管に縫合固定の後、カテーテルを体外に誘導し、カテーテル挿入部位と腹壁を2〜4針結紮縫合して、固定を行う7)

針付きカテーテル法
針付きカテーテル法(拡大)
図4-1 針付きカテーテル法のキット(NCJキット)
図4-1 針付きカテーテル法のキット(NCJキット)
2本の穿刺針と9Frのカテーテル、アダプターなど
図4-1 針付きカテーテル法のキット(NCJキット)
図4-2 胃全摘時のNCJキットを用いた空腸造設
1、Roux-en Y吻合野Y脚より穿刺針を挿入、2、外套に沿ってカテーテルを吻合部を超えて 留置、3、カテーテルを腸に固定して、体外に引き出す、4、空腸瘻の部分の空腸と腹壁を 縫合する、5、出来上がったところ

C)各種手術時の経腸栄養カテーテルの留置法
カテーテルの留置に関しては、できるだけ食物の通過しない空腸に留置する様にしている6)。カテーテル挿入部の胃や空腸と腹壁が近接できず、縫合できない時は、肝円索の有茎弁を用いて、その中にカテーテルを通し、肝円索と腸管、肝円索と壁側腹壁を縫合する方法がある。カテーテルが腹腔内に露出して存在する事は極力避けるべきである。
1)食道切除術:胸骨後胃管再建時には、胃管よりカテーテルを挿入し、幽門輪をこえて、十二指腸もしくはトライツ靱帯を越えて空腸にカテーテル先端を留置する(図2)。後縦郭再建においては近位空腸に留置する。後縦郭再建では近位空腸に直接カテーテルを挿入し、カテーテル挿入部の空腸と腹壁を固定している。
2)胃全摘術:Roux-en Y吻合では、空腸Y脚よりカテーテルを挿入し、Y吻合を越えてカテーテル先端を留置する(図2)。
3)膵頭十二指腸切除術:Child変法での再建時は、膵空腸吻合、胆管空腸吻合のため挙上した空腸ループから挿入し、先端を吻合より遠位の空腸に留置している(図2)。

D)手術時空腸瘻造設の合併症
空腸瘻のため腹壁に縫合した空腸の周りに腸管が内ヘルニア状となって、イレウスをきたすことがあり、これが手術的空腸瘻造設の代表的な合併症である。著者の約300例のNCJ施行中1例のみに空腸瘻が原因のイレウスを認めた。そのほかにもカテーテルの事故抜去、カテーテル閉塞、空腸瘻腹壁感染、腸管壊死などの合併症が報告されている8)。2022例のNCJ合併症を扱ったMyersの報告では腹腔内管感染0.15%、腸管閉塞0.15%、腸管壊死0.15%、pneumatosis intestinalis 0.15%、腹壁感染0.25%、事故抜去とカテーテル閉塞0.74%と報告されており、手術的空腸瘻造設は安全な手技であるといえる9)

2.5 術後早期経腸栄養とその方法と効果

早期経腸栄養の定義は「外科手術、外傷、熱傷などの侵襲後、24時間もしくは36時間以内に経腸栄養を開始すること」とされることが一般的である。術後早期経腸栄養は術後絶食と比較し、生存率が良好である。術後合併症、在院日数も減少傾向がある。早期経腸栄養は36時間以降に経腸栄養を開始した場合に比べて感染性合併症が約50%減少し、入院期間も短縮すると報告されている10)。静脈栄養に比較して、早期経腸栄養は感染性合併症が少ないという多くの報告がある11)。また、入院期間や非感染性合併症も減少するという報告もある。しかし、多くの報告で、死亡率には差を認めていない。
術後早期経腸栄養の適応は、術後早期に経口栄養ができない場合で、以下のような患者である。

  • 頭頸部および消化器がんの手術後
  • 重傷の外傷
  • 手術時に明らかな低栄養のある場合
  • 10日間以上の期間、必要エネルギーの60%以下しか摂取できない場合

術後早期経腸栄養を行うための経腸栄養ルートに関しては、前述したような術後管理に使用する経腸栄養カテーテルの留置が必要で、そのアクセスルートを用いて行い、術後24時間(もしくは36時間)以内に経腸栄養を開始する2)
術後に使用する経腸栄養剤は一般的には標準タイプの半消化態栄養剤(もっとも一般的な1kcal/mlのたんぱく質を窒素源とした栄養剤)が用いられ、ガイドラインでも推奨されている2)。消化態栄養剤(ペプチドを窒素源とした栄養剤)や、成分栄養剤(アミノ酸を窒素源とした栄養剤)、IED、高濃度タイプ(1kcal/mlよりエネルギーの高い栄養剤)を用いることもある。著者は従来から術後早期経腸栄養には消化態栄養剤を用いている。消化態栄養剤は吸収自体の効率が良いという以外に、タンパク質を窒素源とする半消化態栄養剤はカテーテル閉塞の危険性があるが、タンパク質を窒素源としない消化態栄養剤はカード化を起こさず、カテーテル閉塞の危険もない為である(図5)。また、術後3日までの早期にはタンパク質やペプチドが強化され、高濃度(1.5kcal/ml)の経腸栄養剤を用いることで、窒素バランスを早期に回復する工夫をしている12)

図5 経腸栄養剤のチューブ閉塞の機序
図5 経腸栄養剤のチューブ閉塞の機序

術後は経腸栄養注入ポンプを用いて少量から持続投与を開始する。10-20ml/時間の速度で開始し、目標エネルギー量に4-7日で達するように投与法を設定する2)。現時点では術後早期経腸栄養の標準的スケジュールは存在せず、各施設で独自の方法で行われているのが現状である。著者は、術翌日の朝(24時間以内)から、標準的な消化態栄養剤を用いて、注入ポンプで10ml/時間から開始し、20, 40, 60ml/時間と24時間ごとに漸増する方法をとっている(表2)。

表2 術後早期経腸栄養のスケジュールの例(著者ら)
術後 経腸栄養剤
速度(ml/時間)
末梢輸液
(ml/日)
術当日 0 1000
1日 10 2000
2日 20 2000
3日 40 1500
4日 60 1000
5日 60 500-1000
6日 60 500-1000

この術後早期経腸栄養療法を検証したところ、スケジュール通りに行えたのは、86%で、一時的に速度を調節し、経腸栄養を続行できたのは、94%であった。静脈栄養への移行が必要だったのは4%のみであった。Bragaらの消化器手術650例に対して術後早期経腸栄養を行った報告では、術後12時間以内に10ml/時間、1日目20ml/時間、2日目40ml/時間、3日目60ml/時間、維持量は25kcal/kgとしている13)。このうちまったく副作用もなく経過したのは70.2%で、29.3%は何らかの副作用があり、治療によって多くは経腸栄養が可能な状態に復したが、8.9%の症例では経腸栄養を断念し、静脈栄養となったと報告している。
術後早期経腸栄養の合併症には、①カテーテルによる機械的合併症として、腸閉塞(カテーテル周囲の癒着や内ヘルニアによる)、カテーテル閉塞、カテーテルの位置異常、事故(自己)抜去、腸管壊死、pneumatosisintestinalis、などがある。②経腸栄養による合併症として腹部膨満、腹痛、下痢などが挙げられる。
Bozzettiらは、消化器がん術後の早期経腸栄養と静脈栄養の比較を行い、術後合併症と入院期間は経腸栄養群で有意に少なく、経腸栄養の方がコストもかからないことを報告している14)。しかし、栄養療法による有害事象は下痢など、経腸栄養群で多く、約9%の症例で経腸栄養から静脈栄養への移行が余儀なくされたとしている。

2.6 術後経腸栄養への補完的静脈栄養

術後患者や重症患者の栄養管理は早期経腸栄養管理を第一選択とされてきた。術後などに経腸栄養による投与エネルギー量が上がらず、不十分の場合に、その不足分を静脈栄養で補うことを補完的静脈栄養(supplement PN)といわれている。補完的静脈栄養を始めるタイミングに関して、術後早期の2,3日目から行うか、術後1週間以上待ってから行うかについては議論のあるところで、決着はついていない。EPaNIC試験(2011年)では、補完的静脈栄養を48時間以内に始める早期群と8日目に始める晩期群が比較され、ICU退出日数、入院日数、感染症発症率、人工呼吸器管理日数、胆汁鬱滞などに関して、晩期群が早期群に勝っていた。EPaNICスタディーの結果から、早期の補完的静脈栄養のデメリットが示された。しかし一方、SPN試験(2013年)では、4日目から8日目まで補完的静脈栄養を行うことで、行わない群と比較したところ、感染率は補完的静脈栄養群で低かった。比較的早期の補完的静脈栄養のメリットが示されている。術後栄養管理において、今後の検討が待たれる分野となっている。

2.7 術後血糖管理

術後侵襲下では耐糖能異常が起き、高血糖になりやすい。高血糖は、感染症や臓器障害を引き起こし、予後不良の原因となる。高度侵襲手術を含む重症例に血糖を80~110mg/dLに制御する強化インスリン療法(intensive insulin therapy)試験(2001年)で、死亡率、感染症発症率に関して、その有用性が示された。しかし、強化インスリン療法には低血糖の危険性もあるので問題とされた。NICE-SUGAR試験(2009年)では、集中治療室で管理を受けた症例で、血糖を180mg/dL以下と比較的緩やかな血糖管理を行う群と、81~108mg/dLとタイトに血糖管理を行う群と比較が行われ、前者が生存率で勝っていた。現在は、このNICE-SUGAR試験の結果より中庸な血糖管理が推奨されている15)

2.8 消化器術後患者の術後在宅経腸栄養への移行

食道癌、胃癌や膵癌の手術時の空腸瘻造設により、術後の食事摂取量が少ない場合には在宅経腸経腸栄養(HEN)に移行が可能である16)。著者の経験ではHENに移行する患者は、高齢者やStageIV症例が多く、胃全摘の症例では1/4から1/5程度であり、食道癌手術後ではそれより多い。在宅経腸栄養は経口摂取の補助として施行され、日中は活動して、夜間にポンプを用いて40-80ml/時間で栄養剤を注入し、1日400-1200kcalを経腸栄養で補う。癌再発がない患者であれば、多くの場合退院後徐々に経口摂取が増加し、HENの必要がなくなる。
著者らの胃癌術後の統計では、その在宅栄養補助の期間は、退院後6ヵ月以内が40%、1年以内が75%である。しかし、3年以上の症例も10%弱認められる。Sinoharaらは胃全摘症例連続55例に術中に空腸瘻を造設し、在宅で1日800Kcalの経腸栄養を施行した。6ヵ月後の体重減少も少なく、理想体重の平均89%が維持され、約半数は理想体重を維持できたと報告している17)。Ryanらは食道癌食道切除連続205例のうち60%は経口摂取量が少なく、必要エネルギー量の70%しか摂取できず、80%の患者は空腸瘻を置いたまま退院し、14%の患者は夜間のHENを行ったと報告している18)。このように、術中の空腸瘻造設は術後早期経腸栄養ばかりでなく在宅管理を行うためにも有利である。

3.ERAS(enhanced recovery after surgery)プロトコールと周術期栄養管理

3.1 ERASプロトコールとは?

北ヨーロッパを中心に始まった、早期回復のための周術期管理の包括的プロトコールである。手術における安全性向上、術後合併症の軽減、早期回復、術後在院日数の短縮、コスト低減を目指しておこなわれ、特に大腸がん術後で臨床的効果が検証されてきた。本邦でも行われるようになり、他の疾患の周術期管理にも用いられるようになってきている。

ERASプロトコールの内容(表3)は以下のようなもので構成されている19)

  • 手術後の回復を促進し早期に通常の状態に戻すこと
  • 手術の侵襲を最小限にする術式の選択
  • 早期経口摂取の促進と静脈栄養の早期中止
  • 早期離床
  • 十分な疼痛管理   など
表3 ERASプロトコールの主な要素

ERASプロトコール

  • 入院前のカウンセリング
  • 周術期経口栄養
  • カテーテルの早期抜去
  • 腸管運動の刺激
  • 悪心・嘔吐の予防
  • 非麻薬性鎮痛薬・NSAIDs
  • 早期からの離床。リハビリプログラム
  • 体温低下を防ぐ手術室を温める
  • 術前腸管処置をしない
  • 絶食をしない。クリアリキッド、カルポローディング
  • プレメディケーションをしない
  • 経鼻胃管を入れない
  • 硬膜外麻酔と除痛
  • 即効性麻酔剤
  • 過剰輸液を避ける
  • 短い皮膚切開。ドレーンを入れない

3.2 周術期栄養管理に関するERAS

ERASプロトコールの中で、栄養管理に関する項目は以下のようである。

  • 術前の絶食期間を避ける
  • 術後経口栄養をできるだけ早く開始する
  • 術後血糖コントロールを徹底する
  • 手術ストレスに関連した異化亢進や消化管機能障害を起す要因を排除する

術前絶食の短縮に関しては、術前の深夜からの絶食は必要がないことが強調されている。誤嚥のリスクのない術前患者は、麻酔2時間前までclear fluidを飲むことは問題なく、固形食は麻酔の6時間前までの摂取が許可される。とくに、ESPENでは、メジャーな手術を受ける患者に手術前夜(800ml)と手術2時前まで(400ml)に12.5%の炭水化物飲料の摂取を推奨している。術前の飢餓状態に伴う代謝ストレスを軽減し、術後のインスリン抵抗性を減少させると考えられている。
早期経口栄養に関しては、一般的には、術後のONSまたは食事の経口摂取は手術の直後から可能であるとされている。特に下部消化管手術においては早期経口栄養が推奨される。ESPENでは大腸切除患者の大半は手術の数時間後からclear fluidを含めた経口摂取が可能であるとしている。多くのERASを実践している病院では、術後4時間でONSの経口摂取が開始され、術後1日目の朝から常食が出されている。
最近、胃切除術および膵頭十二指腸切除術のガイドラインがERAS Societyから出されたが、いずれも術後には制限のない普通食の早期経口栄養が推奨されている20,21)。ただし、食事摂取に耐えられない例もあること、そのような例には慎重に食事を進める事は明記されている。経口摂取は、手術の種類や患者の状態により個別に配慮される必要があることは忘れてはならない。

4.術後経口摂取と術後食

4.1 今までの本邦術後食

術後食、とくに消化器手術後の術後食は、「手術後、消化管の運動が回復したら、はじめは流動食から徐々に普通の食事に戻していく。普通の食事に戻すのにいくつかのステップアップがある。」という考え方は、本邦をはじめ世界の国々の共通であった。本邦では、流動食の重湯から始まり、徐々に米の粥の水分が減り、お米の割合が高くなっていくという、きめ細やかな術後食を従来から踏襲してきた。重湯、3分、5分、7分、全粥、常食の6ステップがもっとも一般的である(図6)。この起源に関しての定説はないが、腸チフスの回復期の治療食のシステムを、そのまま術後食に応用し、現在の術後食の体系が形成という説がある。胃切除を例にとると、排ガスがあるか、腸蠕動の回復する術後5~7日ぐらいから、流動食を開始し、1日ごともしくは2日ごとに、3分粥、5分粥と段階的に食事のアップを図るのが習わしであった。術後食は世界的に見ても、もっともエビデンスに乏しく、科学的でない病院食で、医師や管理栄養士も研究対象として取り上げてこなかった。

図6 本邦の術後段階食(都立大久保病院)
図6 本邦の術後段階食(都立大久保病院)

4.2 術後食改革

入院期間の短縮の必要性や、クリニカルパスの普及、世界の術後食研究などが契機となり、術後食の見直しの機運が高まっていたところに、欧米からのERASが後押しをするかたちとなって、術後食の改革が始まっている。早期経口栄養と、術後食のステップ数を減らすなどの試みである。ERASを実践するスウェーデンの病院では、結腸切除術後1日目から、量を少なくした常食を提供し、段階食はない(図7)。

図4 スウェーデン、エレブロ大学病院の結腸術後食
図7 スウェーデン、エレブロ大学病院の結腸術後食
ERASプロトコールに従い、術後1日目の朝から小盛りの常食が出される。
2日目には量が増えるだけである。

アジアの国々でも同様の試みが行われており、香港大学病院でも結腸術後1日目から、流動食、2日目に粥食、3日目には常食を与えている(図8)。

図8
図8 香港大学(クイーンマリー病院)の結腸術後食

食事自体を変化させ、術後に食べやすくする試みも始まっている。酵素を用いて、食物を形を保ったまま軟化させる技術を用いた軟化食(あいーと®)は、嚥下障害患者にも使用されているが、それを胃切除後、大腸切除後に早期から摂食するプロトコールも行われるようになっている(図9)。

図6 酵素処理をした軟化食
図9 酵素処理をした軟化食(あいーと®

このように、現在、術後食は以前のシステムから解放され、数々の試みが行われている。

文献

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