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Chapter2 経腸栄養
6.ミキサー食
 6.2 ミキサー食(小児)


長野県立こども病院 小児外科部長 高見澤 滋

高見澤滋
記事公開日 2017年2月24日

1.小児におけるミキサー食

ミキサー食とは食事(固形物)をミキサーやフードプロセッサーなどにかけて半固形状にしたものである。ブレンダ―食(Blenderized food)とも言う。小児において5~6ヵ月齢ごろから始まる離乳食(ペースト食)もミキサー食と同様の半固形状流動食として扱われる。

2.ミキサー食と食事アレルギー

小児では哺乳期から経鼻胃管やEDチューブで経管栄養を行っていた児に対して、胃瘻造設後に初めてミキサー食を用いる場合がある。この場合、初めて摂取する食材で食物アレルギーを起こす可能性があるので、食物アレルギーに注意してミキサー食を開始する必要がある。食物アレルギーを判定する方法として、血液検査(血中抗原特異的IgE抗体測定)があるが、血中抗原特異的IgE抗体が陽性となった食材のすべてにアレルギー症状を起こすわけではなく、またIgE抗体が陰性であった食材でもアレルギー症状を起こすことがあるため、ミキサー食を開始する前の食物アレルギー検査の必要性に関しては意見が分かれている。わが国における食物アレルギーの有症率は全年齢を通して約1~2%(乳児で約10%、3歳児で約5%、保育所児が5.1%、学童期以降が1.3~4.5%)とされている1)。即時型アレルギーを起こす原因食物は鶏卵(38.7%)、牛乳(20.9%)、小麦(12.1%)、ピーナッツ(4.8%)、魚卵(4.3%)、果物(4.0%)の順に多いが、成人では小麦が最多で次いで甲殻類が多い1)

胃瘻からミキサー食を投与する場合、離乳食を経口摂取で進めるときと比較して多種類の食材を多量に投与できるため、食物アレルギー症状が強く出る可能性がある。そのため当院では胃瘻からのミキサー食を開始する場合、使用する頻度が高い食材(卵黄、卵白、米、小麦、ミルク、鶏肉、ジャガイモ、大豆など)を中心に血中抗原特異的IgE抗体を測定し、IgE抗体が陽性になった食材を使用する場合は少量から開始し、アレルギー症状が出ないことを確認しながら増量するようにしている。小池らは胃瘻造設術前にImmunoCAP IgE-RAST で特異的IgE抗体値を測定した36例において1項目以上 IgE抗体が陽性であったのは15例であり、そのうち食物負荷試験を行って実際にアレルギー症状を起こしたのは4例で、残りの11例は特異的 IgE抗体が陽性であった食材の負荷試験を行ったがアレルギー症状は出現しなかったと報告している。また、36例中21例では特異的 IgE抗体は全項目において陰性であり、ミキサー食の摂取でアレルギー症状を起こさなかったとしている2)。小児の胃瘻患者にミキサー食を投与する場合、ミキサー食の開始前に食物アレルギー検査を行ってIgE抗体陽性の食材を把握し、IgE抗体陽性の食材を用いた負荷試験を行うことで不必要な食材の除去を解除することができる。これによって胃瘻からのミキサー食投与を安全かつ安心して行うことが可能になる。

3.ミキサー食を投与するのに適した胃瘻デバイス

胃瘻からミキサー食を投与する場合、胃瘻デバイスのつまりや逆流防止弁の破損を防ぐため、20Fr以上の太い胃瘻チューブを用いることが推奨されている3)。しかし、小児ではボタン型の胃瘻デバイスを使うことが多く、また、成人より細いものが使われることが多い。当院では16Frのバルーン型胃瘻ボタンを主に使用しているが、ミキサー食のつまりや逆流防止弁の破損のために定期交換以外に胃瘻ボタンを交換することはほとんど見られていない。16Frの胃瘻ボタンに同梱のストレート接続チューブを接続し、20,000 mPa・sの粘度を持つ半固形化栄養剤(テルモ社製PGソフトエース)を3,000~3,300 r.p.m.に調整したミキサーで10分間攪拌して30kPa(約225 mmHg)の圧をかけて30秒間注入した場合、注入量は約240g(富士システムズGB胃瘻バルーンボタン)~320g(アバノスMIC-KEYバルーンボタン)であった。また、同条件下で20Frの胃瘻ボタンを使用した場合の注入量は約295g(富士システムズ)~400g(アバノス)であった。小児で頻用される細径の16Fr胃瘻ボタンを用いた時の注入量は20Frの約80%であり、細径の胃瘻ボタンを用いても実際の使用には問題がないと思われた。

乳児でも6ヵ月齢以上であれば14~16Frの太さの胃瘻ボタンを挿入できるため、生後早期に細い胃瘻チューブを挿入されて胃瘻栄養を行っている患児では、14~16Frまで徐々にサイズアップできればミキサー食を投与することが可能になる。

4.ミキサー食の作り方、エネルギー量、水分量

ミキサー食を胃瘻ボタンから投与する場合、食材が胃瘻デバイス内でつまらないようにミキサーやフードプロセッサーを使ってしっかりとペースト状にする必要がある。ハンバーグなどに用いるひき肉は詰まりやすいので調理前にすり潰すか十分に練ってから焼いてミキサーにする。またトマトやピーマンの皮は取り除くか一口大に切ってから調理するようにする4,5)

胃瘻からミキサー食を投与する場合、ミキサー食の水分量、エネルギー量を把握しておく必要がある。一般的には米から作る全粥100gあたりの水分量は約83g、エネルギー量は71kcalとされている。米粥に副食(肉、魚、野菜、根菜など)をミキサーしたものを混和して作ると、米粥と副食を合わせたミキサー食全体の水分量は80~90%、エネルギー量はミキサー食100mLあたり80~90kcalになり、通常の液体栄養剤(100kcal/100mL)よりエネルギー量が低くなる。また、注入しやすくするためにミキサー食の水分量を増やし粘度を下げるとエネルギー量がさらに低下してしまうため、必要なエネルギー量を投与するためには液体栄養剤より多い量を入れなければならなくなる。大阪府立母子保健総合医療センター栄養管理室ではご飯に水と酵素(αアミラーゼ:介護食調整用酵素製剤おかゆヘルパー、キッセイ薬品工業株式会社)を入れたものをミキサーすることで粘度が低い(140mPa・s)が100mLあたり94kcalと高エネルギーになるお粥(ベースライス)を作成して使用している(図1)。これによりミキサー食のエネルギー量を減らさずかつ注入しやすい低粘度のミキサー食を作成することが可能になる(表1) 。

図1 ベースライス作成方法
図1 ベースライス作成方法

表1 ベースライス100mlあたりの栄養量
大阪府立母子保健総合医療センター栄養管理室よりデータ提供
表1 ベースライス100mlあたりの栄養量(拡大)

5.ミキサー食導入の方法4,5)

経腸栄養剤、またはミルクのみを注入していた患児に胃瘻からのミキサー食を始める場合、まず代表的な食材の特異的IgE抗体値を測定し、食物アレルギーの有無を把握する。米にアレルギーがないことが確認できたらミキサーした米粥を用いて胃瘻からのミキサー食投与を開始する。ミキサーした米粥(全粥)を先太のプラスチック製注射器に吸引し、1日1回、50~100mLの量で開始する(図2)。

図2-1.ミキサー食開始前 図2-2.ミキサー食を50ml×1回で開始 図2-3.ミキサー食開始1週間後 図2-4.ミキサー食の回数を増やす 図2-5.1日3回の食事へ
図2 胃ろうからのミキサー食の進め方(例)

全粥はヨーグルトからマヨネーズ程度の固さになるように調整する。米粥の注入を2~3日間問題なく行えたら、ミキサーした 副食(肉、魚、野菜、味噌汁、スープなど)を米粥に追加して主食:副食の割合(mL)が1:1になるようにし、ミキサー食開始前の液体栄養剤の1回投与量まで約1週間かけて徐々に増量する。ミキサー食は50 mLを約30秒間のスピードで注入し、2~3分の間隔を空けて予定量を注入する。ミキサー食の1回投与量が、ミキサー食開始前の栄養剤の1回投与量に到達するまでの間は、ミキサー食注入後に液体栄養剤を続けて注入し、ミキサー食と液体栄養剤の合計量がミキサー食開始前の液体栄養剤1回投与量と同量になるようにする。ミキサー食の投与量が開始前の液体栄養剤1回投与量まで増量できた患児は、1日の注入回数を増やし、可能であればすべての胃瘻栄養をミキサー食へ変更する。

6.ミキサー食の効果

6.1 便性改善効果

胃瘻から半固形状流動食であるミキサー食を投与することで、液体栄養剤による下痢症状を改善させられることがある。当院でミキサー食を導入した胃瘻患者66例の検討では、ミキサー食開始前に便が泥状~水様であった症例数は38例(58%)であったが、ミキサー食を1日1回以上胃瘻から投与した場合、泥状~水様便の症例数は10例(15%)へ減少した。また、普通便(ブリストル便スケール4)の症例数は開始前13例(20%)が開始後38例(58%)に増加した。胃瘻から液体栄養剤を投与している患者において便性状が水様から泥状である場合、ミキサー食を1日1回用いるだけでも便性の改善効果が得られた6)

6.2 ミキサー食使用による血清微量元素、必須栄養素、栄養状態の変化

液体栄養剤や半固形化栄養剤の中にはセレン、ヨウ素、カルニチンなどの微量元素、必須栄養素を含有していないものがあるため、これらの栄養剤を長期間単独で使用する場合は定期的にモニタリングを行い欠乏症に注意して使用する必要がある7)。通常の食事を摂取している健常人ではこれらを欠乏することは極めて稀であるため、胃瘻栄養患児においてもミキサー食を使用する意義は大きい。

液体栄養剤のみを使用していた37例とミキサー食を1日1回以上胃瘻から投与していた25例との比較では、血清セレン値の低下(<6.0μg/dL)は栄養剤群の29%、ミキサー食群の12%に、血清亜鉛値の低下(<65μg/dL)は栄養剤群の42%、ミキサー食群の20%に認められた4)。有意差はないもののミキサー食の使用により栄養剤の単独使用による微量元素不足の予防に効果があると思われた。また、栄養状態の評価に用いられるプレアルブミン(トランスサイレチン)の低値(<22.0mg/dL)は栄養剤群の89%で認められたがミキサー食群では48%に認められたのみであり、各症例で摂取エネルギー量が異なり、正確な比較はできないもののミキサー食の摂取により患児の栄養状態を改善させられる可能性が示唆された。

6.3 ミキサー食によるその他の効果

胃瘻からミキサー食を投与している患者家族からは、栄養剤ではなく本来の食事をあげられることに対する満足感や、投与時間の短縮、便性改善による介護労力の軽減で介護者のQOLが向上したとする意見を多く聞く。また、ミキサー食の使用により患者の肌つやの改善、毛髪の変化(髪の毛の色が濃くなった、髪の毛が太くなった)などの身体的な改善が見られたり、栄養剤の時には反応がなかったが、食事(ミキサー食)を胃瘻から入れるようになったら、食事を準備している家族を目で追うようになった、口を開け閉めして食事を催促するしぐさをするようになった、普段の表情が豊かになったなどの変化が見られたとする家族もあり、栄養状態の改善だけでなく精神的な発達にもミキサー食は効果があると思われた4)

7.おわりに

胃瘻からの半固形状流動食投与法は液体栄養剤による下痢、胃食道逆流症、ダンピング症候群などの症状を改善させられる可能性がある方法として近年多くの施設で行われるようになってきた。各種の半固形状流動食の中でもミキサー食は本来人間が口から食べる食事を半固形化したものであるため理想的な栄養剤である。胃瘻からのミキサー食投与法が小児だけでなく成人においても今後ますます普及していくことが望まれる。

文献

  1. 海老澤元宏: 厚生労働科学研究班による食物アレルギーの診療の手引き2014
  2. 小池由美ほか:アレルギー65:668, 2016
  3. 合田文則:胃瘻からの半固形短時間摂取法ガイドブック 胃瘻患者のQOL向上をめざして. 医歯薬出版株式会社,東京, p22-23, 2006
  4. 高見澤滋:小児内科 47:2089-2094, 2015
  5. 長野県立こども病院編:はじめてみよう!!胃瘻からの半固形食短時間摂取法. http://nagano-child.jp/overview/public_relations(2015年10月14日アクセス)
  6. 高見澤滋:静脈経腸栄養 30:1158-1163, 2015
  7. 児玉浩子:日重障誌39:21-28, 2014

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