Q1-4:舌を前方に出す以外に、舌を使った訓練はありますか
A:舌の挙上訓練
目的
舌の挙上方向への筋力増強は、食物の送り込み、嚥下時の口腔内圧、咽頭内圧の上昇を期待できます(※文献6)。最近では、舌挙上運動は舌骨上筋群の収縮も伴う報告もあり(※文献7)喉頭の挙上運動も促通される可能性があります。
使用物品
バイトブロックと舌圧子を使用した同訓練法(※文献8)がありますが、ここではバイトブロックの代用として割り箸や乳児用のシリコン製スプーンを使用します。舌圧子の代用は、カップアイスに使用する木製スプーンや扁平な棒アイスの棒、金属性マドラー、などがあります。
①バイトブロックの代用:歯や歯茎で挟むもの
写真上から割りばし、乳児用のシリコン製スプーン(ダイソー)、医療用バイトブロック(インテルナ出版)。歯が無く歯茎で噛む場合はシリコン性スプーンであれば痛みが軽減する。写真は100円ショップで購入したもの。
②舌圧子の代用:舌へ抵抗を加えるもの
形状は円いものが痛みなく、薄いものは口腔に取り込み易い。衛生管理が容易で破損しにくいものが理想的。一般のスプーンでは厚みがあるため口腔へ取り込みにくい。
内容
手技としては、割り箸で下顎を開口位固定し、アイスのスプーンで舌面へ徒手的抵抗を加えます(図①)。アイスのスプーンを歯で噛むと、舌に直接抵抗を加えにくい、舌挙上の筋力(舌圧)が評価困難となる場合もあります(図②)。そのため、割り箸を噛み、下顎の閉口運動を防ぐ一方、アイスのスプーンで舌に抵抗を加え、舌挙上を促します(図③)。
負荷や運動方向を理解してもらうために、一時的に割り箸を使用せず、「ベロで持ち上げてください」「押しつけてください」などと提示してもよいですが、課題の理解が得られたら開口固定用の割り箸は極力使用します。
割り箸の厚みの違いが舌圧負荷の目安の一つとなります。厚みを変えるには数を重ねて輪ゴムで止めたり、ラップやガーゼで巻きます。
舌で押しつける力、舌圧は下顎位が下制するほど低下し、逆に下顎安静位あるいは厚さ2mm程度の下顎位が強い張力を生みます(※文献9)。つまり、割り箸が厚くなるほど下顎位は下制し、舌に対する負荷が高まることになるので、訓練効果や負荷設定の可視化に参考となります。
開口の幅が狭まり、木製スプーンによる舌への抵抗を加えることが困難な場合では、利用者にガーゼやハンカチの一片を舌と口蓋で保持してもらいます。支援者はガーゼを引くことで舌と口蓋の圧を確認して抵抗を調整しますが、歯でガーゼを噛まないように注意しましょう。その他、舌の挙上訓練における効果や負荷設定については、保持時間や回数を目安として記録します。なお、舌圧は姿勢の影響も指摘されますが(※文献10)、ここでは割愛します。
特に構造上の問題がないにもかかわらず、舌の運動範囲が狭い、舌への抵抗にも反応がない場合は、感覚を意識することや、物品操作指示や咀嚼運動により舌の可動性をひきだします。たとえば冷水で絞ったガーゼや冷水に浸した金属製スプーンで冷感を意識してもらう、あるいは、口腔から口外へ送り出す課題を提示し、舌の挙上を誘導します。
注意点
開口位では嚥下を起こさないような配慮が必要です。また、他の口腔刺激の訓練同様、過度の唾液量の嚥下に注意し、唾液嚥下を促したり、ガーゼで唾液を吸収させます。もちろん、訓練前の口腔衛生は確認しましょう。
静的な運動は息こらえにつながることもあります。呼吸を止めることは血圧が高くなるなど循環への悪影響を及ぼす可能性があるので注意が必要です。頻呼吸や肩で呼吸するときは行わない。また、口腔内への刺激による嘔吐反射にも注意しましょう。自主トレーニングでは、鏡を使用して適切に行えているか視覚的にフィードバックします。生活習慣に組み込んでいくために、口腔のケアの後に舌挙上訓練を行う、カレンダーに実施有無の印をつけるなど、具体的な取り決めが有効な場合があります。
嚥下困難者支援食
・ソフト食(あいーと等) ・ムース食 ・ゼリー食品
リハビリテーション関連製品
口腔リハビリなど
- 医療法人社団悠心会 森田病院言語聴覚士 宮下 剛
- Q1 今は食べてはいけない、と言われていますが、また食べられるようになるために、訪問ナースでもできることはありませんか?(看護のテクニックが必要なこと)
- Q1-1:口を開いてくれない人には、どうしたらいいですか?
- Q1-2:実際に飲み込みしなくても、味や香りを楽しむ訓練はありませんか
- Q1-3:唾液が少なくなる理由は何ですか? 多くするにはどうしたらいいですか? 食べ物はまだ使わないように言われています。
- (→)Q1-4:舌を前方に出す以外に、舌を使った訓練はありますか
- Q2:家族やヘルパーさんでもできる、口腔ケアや訓練の仕方について教えて下さい (看護のテクニックがなくても取り組めること)