改訂 2024年4月21日
Q1-1.気管切開をしてカニューレが入っていても、食べる訓練はできますか?
A:可能です。
でも、食べられるかどうかは、嚥下機能によります。呼吸がメインの問題で、気管切開をしている場合と、嚥下障害がメインで、誤嚥性肺炎のコントロールのために気管切開をしている場合では異なります。前者の場合でも、しばらく経口摂取をしていないことや気管切開をしていることで、嚥下は下手になっていますので、練習(食べる訓練)は必要です。食べる訓練で気をつけなければいけないのは、食べ物や唾液が食道ではなく気道に入ってしまう誤嚥です。カフ付きのカニューレ(図1・写真1)であれば、膨らませたカフの上に食べ物や唾液が落ちてきても、そこより先には行きませんから、おおむね安心です。しかしながら、カフは万能ではありません。周囲を傷つけないように、低圧のカフになっていることが多いので、たくさん誤嚥すると、カフの横からも下に落ちる可能性はあります。「カフ上の吸引」チューブがあるはずですので、そこから吸引して、気道にはいりかかったものは除去しておきましょう。
Q1-2. 2筒式のスピーチカニューレは、嚥下機能の改善に向いていると聞いたのですが。
A:通常の気管カニューレを装着して一定期間がたった場合、そのまま嚥下訓練をするよりも、2筒式のスピーチカニューレに変更してから嚥下訓練をしたほうが有効なことが多いです。
というのは、2筒式のスピーチカニューレにすることにより、しゃべる練習が可能となり、そのことは、気管カニューレの上部の気道に空気を行き来させることになるので、感覚などにも良い影響を与えるからです。なお、2筒式ではないスピーチカニューレもありますが、安全性が高いのは2筒式のスピーチカニューレです。やや専門的な話になりますが解説します。 2筒式のスピーチカニューレは内筒と外筒2筒構造になっています(写真2)。
内筒を抜くと外筒にあいている小さな穴を通して上気道を通り、声帯を通って口や鼻から呼吸ができます(図2)。
声帯を空気(呼気)が通ることで声が出せる状態になるので「スピーチカニューレ」と呼ばれています。これを使えばすぐにしゃべれるようになるというわけではありません。残念ながら、気管切開部から太く短いカニューレを使って楽に呼吸をしてきたので、声帯を震わす呼吸の力は弱くなっていますし、カフの上に唾液などが溜まっていても、それが当たり前で咳反射が起きない麻痺のような状態になっています(これも廃用症候群のひとつといえます)から、内筒を抜いて細く曲がった上気道を使った呼吸は苦しい、という訴えがむしろ多いようです(図3)。そこをもとのように呼吸の力がつくように練習していくわけです。
気管切開をしている方への嚥下リハを行う場合、可能な方はカニューレを2筒式のスピーチカニューレに変え、声を出す練習をしてもらいます。
カフの上に溜まった唾液は、こまめに吸引し、きれいな空気の流れや、声帯を動かす刺激を与えると、咽頭がきれいになり、本来の気道内膜の感覚が目覚めていきます。
また、ものを飲み込むときには口を閉じ口腔内圧を上げるため口呼吸ができませんから、鼻呼吸になります。スピーチカニューレで喉の環境を整え、鼻を使った呼吸の流れをトレーニングすることは、嚥下機能の改善にも活かされてゆきます。(Chapter4-1 Q1-6参照)
また、カニューレそのものが、嚥下機能を悪化させる要因にもなりえますので(表1)、呼吸機能のリハビリテーションを通して嚥下機能を改善し、カニューレからの離脱を目指しましょう。 2筒式のスピーチカニューレにすることは離脱の第一歩になります。
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- (独立行政法人国立国際医療研究センター 藤谷 順子)
- (→) 7-Q1-1.気管切開をしてカニューレが入っていても、食べる訓練はできますか?
- (→) 7-Q1-2.2筒式のスピーチカニューレは、嚥下機能の改善に向いていると聞いたのですが。
- 7-Q1-3.カニューレを外せる状況について教えて下さい。