Q1.家の中で寝てばかりいます。食べるための体力をつけたいのですが、何から始めたら良いのでしょう?

Q1-6:安静呼吸のためにはどんな鍛錬が必要でしょうか?

A:横隔膜を含めて体幹筋の活動向上と胸郭の拡張性を高める必要があります。

安静呼吸とは、日常座っている時のような安静時に行われる呼吸になります。安静の呼吸は主に横隔膜の働きで行われます。横隔膜が収縮することで肺が膨らみ吸気が行われます。その後、横隔膜が緩み拡がった胸郭の弾性力で呼気が行われます。一般的に横隔膜が働く呼吸を腹式呼吸と呼んでいます。

それに対して、例えば階段とかを登る時のような負荷のかかる活動では、運動に必要な酸素を取り込むために呼吸数が増えます。この場合、横隔膜の活動だけでは足りなくて、呼吸を補助する筋肉を使います。これが努力的な呼吸になります。呼吸機能が低下している場合には、安静時にも努力的な呼吸が行われるため、易疲労的になりやすいです。

安静時の呼吸機能を整えるには、十分に換気できる胸郭の拡張性を高めること、横隔膜が働く腹式呼吸を高めることが必要になります。

胸郭の拡張性とは

呼吸には、肺に空気が入るために胸郭の拡がりが必要になります。胸郭の表面は皮膚や筋等の軟部組織、その下部は肋骨で構成されています。そのため、胸郭の拡張性には、軟部組織の柔軟性や肋骨と繋がる関節の可動性が必要になります。定期的に深呼吸を行い、胸郭を大きく動かす必要があります(図7)。

図7 座位での深呼吸例
図7 座位での深呼吸例
座位で上肢を背もたれにまわし、深呼吸を行います。必要に応じて、呼吸運動をアシストします。

日常場面では、様々な姿勢をとるために姿勢変換を行うことで胸郭が動きます。特に寝返りや起き上がり等の体幹を回旋する運動が胸郭の拡がりには必要になります(図8)。

図8 臥位での体幹回旋運動
図8 臥位での体幹回旋運動
側臥位から上半身を真上方向に動かして体幹を回旋させます。

腹式呼吸の整え方(図9

横隔膜の活動を高めるには、腹部に手を当てて腹部が膨らむように息を吸うことを行います。場合によっては、腹部に軽い錘をのせて行います。息を吸う時は鼻から、はくときは口からを意識します。これに加えて、口からはく時に口をすぼめながらゆっくりとはく(口すぼめ呼吸)ようにすると、呼気を長く行うことでより腹部の力を高めることができます。

図9 腹式呼吸例
図9 腹式呼吸例
背臥位姿勢が緊張している場合や胸郭の動きが低下している場合、胸郭が動きやすいような安楽な姿勢になるように上半身をやや起こし体幹を前傾にします(図では三角マットを利用)。

体幹活動の高め方、壁拭きはリハビリ

横隔膜を含めた体幹筋の活動は、座位や立位保持といった空間で姿勢を保つ事や、咳を行う際の呼気の力に繋がります。特に、摂食嚥下障害者は、咽頭残留や誤嚥した場合に残留物や誤嚥物を喀出するために呼気の力が重要になります。呼気の力には、特に体幹前面の筋活動が必要になります。
直接的に呼気の機能を高めるには、呼気に抵抗をかけて行う方法があります。例えば、ストローで水を吹く方法(ブローイング)、笛等を吹くことが挙げられます。また、ハッフィングと呼ばれる、呼気の際に短く「ハッ」と声を連続的に行うことも有効になります。
体幹の前面を鍛える方法には、いわゆる腹筋運動が挙げられます。例えば、膝を立てて仰向けになった状態で自分のへそを見るくらいに、少し頭を上げるだけで腹筋の運動になります(図10)。立位保持ができる方は、壁とかガラス窓を拭くような上肢を空間で動かす動作が体幹筋を鍛えるのに有効になります(図11)。

図1011 
図10 腹筋運動例                 図11 壁拭き運動 

話すことも大切

言葉を話すことは呼気を持続して行う活動になり、呼吸機能向上に繋がります。例えば、歌のように持続的に声を出す活動や大きな声を出すことは有効になります。また、言語機能と嚥下機能は、解剖学的に同じ器官を共有していることが多く、言葉を話すこと自体が嚥下機能を高めることにも繋がります。

▲ページの最初へ戻る

あなたは医療関係者ですか?
この先のサイトで提供している情報は、医療関係者を対象としています。
一般の方や患者さんへの情報提供を目的としたものではありませんので、ご了承下さい。
いいえ
はい