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Chapter1 PEG
6.合併症・トラブル 1.造設時
④肺炎


宮の森記念病院 副院長  真崎茂法

真崎茂法
記事公開日 2011年9月20日
2025年2月13日改訂

<Point>

(1)PEGに関連する肺炎は経腸栄養剤の胃食道逆流や唾液の誤嚥から生じる。肺炎はPEG後の早期死亡の原因となるため、肺炎の発症抑制は重要な課題である。
 (2)肺炎を予防するための対策として口腔ケア、術中の口腔内吸引や胃液の吸引、経腸栄養時の体位の配慮、誤嚥予防を目的とした薬物療法、半固形栄養剤などがある。
 (3)いかなる対策を行ってもときに致命的な肺炎を生じることがあるため、術前の十分なインフォームドコンセントと、患者の状態変化の観察が重要である。

1.はじめに

肺炎・誤嚥性肺炎は2023年の本邦の死因のそれぞれ第5位・第6位を占め、併せて13万5943人が亡くなっている1)。PEGの適応となる患者は嚥下障害を有することが多く、誤嚥性肺炎のリスクが高い。造設中に起こりうる誤嚥に加え、造設後の経腸栄養剤の胃食道逆流や唾液の誤嚥も誤嚥性肺炎のリスク要因となる。本邦におけるPEG後30日以内の早期死亡率は2.2%~10.6%と報告されており2)3)、早期死亡の原因の多くが肺炎であることが示されている。したがって肺炎の発症抑制は重要な臨床的課題である。肺炎を完全に防ぐことは難しいが、いくつかのポイントに留意することにより肺炎を減らすことができる可能性はある。本稿ではPEGに関連した肺炎の発症抑制に向けた留意点を概説する。

2.原因

PEG中には内視鏡が咽頭・食道を通過するため、唾液や胃液を誤嚥するリスクがある。造設時のスコープの選択にあたっては細径内視鏡・通常径内視鏡いずれでも使用可能だが、誤嚥のリスク減少を期待して細径内視鏡が選択されることも多い4)。造設方法による誤嚥性肺炎のリスクについては、Pull/Push法では内視鏡挿入が2回となり、一方Introducer変法では1回で済むことから理論的にはIntroducer変法の方が誤嚥性肺炎のリスクが少ないと推察されるが、現時点で比較検討を行った質の高いエビデンスはない。
 PEG後に生じる肺炎の主な発症機序は2つあり、1つは唾液など口腔・咽頭内容物の誤嚥と、もう1つは胃食道逆流に伴う胃液あるいは経腸栄養剤の誤嚥である。前者では咳反射の低下しやすい夜間の喀痰量増加が、後者では経腸栄養剤投与後の喀痰量の増加や口腔・咽頭から栄養剤のにおいがするなどの徴候が認められる。実際には両者が混在することも多く、臨床上、厳密に区別することは難しいことが多い。
 不顕性誤嚥の発症機序には大脳基底核の障害が関連する。脳血管障害や神経変性疾患などで大脳基底核が障害されるとドーパミンの合成能が低下し、サブスタンスPの合成・放出が低下する。サブスタンスPは嚥下反射・咳反射に関与する重要な神経伝達物質でありサブスタンスPが低下する結果、不顕性誤嚥が生じやすくなる5)。PEGの適応となる患者は脳血管障害や神経変性疾患などを有することが多いため、ドーパミン—サブスタンスP系ニューロンの障害により不顕性誤嚥を生じやすく、誤嚥性肺炎の発症へとつながる。

3.発症率と診断

PEG後の肺炎は造設後早期に生じるものから慢性期に生じるものまであり、その発症率は観察期間によって異なる。倉科らはPEG後14日以内の誤嚥性肺炎の発症率を0.6%と報告し6)、蟹江らはPEG後1週間以内に7.0%に肺炎を発症したと報告している7)。清水らは平均観察期間51日で8.8%に肺炎を発症したと報告している8)。 Masakiらは観察期間中央値601日で重症肺炎の発症率は50.9%であり、PEG後の患者における最多の死因は重症肺炎であったと報告している9)。諸家の報告ごとに患者の年齢や基礎疾患、肺炎の重症度や観察期間が異なるため、結果を単純に比較・統合することはできないが、いずれにしても肺炎はPEG後の予後に影響を及ぼす重大な合併症であることには相違ない。誤嚥性肺炎の診断フローチャートを図1に示す。

図1.誤嚥性肺炎の診断フローチャート

図2 腹壁と外部ストッパーの間に1~2cmのあそびをもたせる

(日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎診療ガイドラインより引用)

発熱、咳嗽、喀痰増量、頻呼吸などが主な症状であるが、高齢者ではいつもより元気がない、活動性が低いなどの非特異的な症状を呈することもしばしば見られる。明らかな誤嚥の場面が観察されれば診断は確実であるが、不顕性誤嚥から肺炎を生じることもしばしばあり、基礎疾患や嚥下障害の程度、画像所見などをふまえて診断する。
 PEG後早期の重症肺炎例を提示する。症例1は84歳男性。PEG後5日目、不顕性誤嚥による肺炎で呼吸状態が悪化し死亡した(図2)。
症例2は71歳男性。PEG後4日目、嘔吐により胃液を誤嚥し重症肺炎を発症、13日目に死亡した(図3)。

 図2.不顕性誤嚥によるPEG後早期の重症肺炎    図3.メンデルソン症候群
図2図3   

胃内容物を誤嚥することにより各種ケミカルメディエーターが関与し化学性の肺障害が起こることをメンデルソン症候群と呼び、急性呼吸促迫症候群を呈し致死率が高い。
 PEG後の肺炎は基礎疾患や嚥下障害をベースとして生じるものでありいかなる対策を行っても完全に防ぐことは難しい。提示した症例のようにPEG後の肺炎は致命的になる場合があるため、術前の十分なインフォームドコンセントが重要である。

4.治療

誤嚥性肺炎の原因微生物は市中肺炎と異なり肺炎球菌の頻度が低く、口腔内レンサ球菌、クレブシエラ属、MRSA、緑膿菌、嫌気性菌の割合が増加するという特徴がある10)。誤嚥性肺炎が疑われる症例で検出された微生物は口腔内レンサ球菌が31.0%と最も多く、嫌気性菌は6.0%であったと報告されている11)。誤嚥性肺炎に対する抗菌薬はスルバクタム・アンピシリンが第一選択として使用されることが多い。βラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性の場合は、セフトリアキソンなどの第三世代以上のセフェム系が有効である。当初からカルバペネム系、ニューキノロン系、タゾバクタム・ピペラシリンといった広域抗菌薬の安易な使用は避けるべきである。嫌気性菌をカバーする抗菌薬選択についてはその有用性は現時点では明らかでなく、どのような症例に嫌気性菌のカバーが有益となるのか今後のさらなる研究が必要である10)
PEGの対象となる患者は症状を訴えられないことも多いため、バイタルサインの変化などから肺炎の可能性を疑い検査・治療へとつなげることが重要である。一方で、誤嚥性肺炎を反復し全身状態不良なケースや、老衰と考えられるケースでは十分なインフォームドコンセントのもとに積極的な診断・治療介入を見合わせ、緩和的なケアで見守っていく判断もときに必要となる10)

5.予防

PEGに関連する肺炎を予防するための基本的な対策を表1に示す。

 表1 PEGに関連する肺炎の予防対策

1.口腔ケア

2.造設中の口腔内吸引、胃内の吸引

3.経腸栄養時の体位の配慮

4.肺炎防止のための薬物療法

5.半固形栄養剤

6.経胃瘻的空腸瘻(PEG-J)

口腔ケアは、歯垢や舌苔の除去などによる口腔内細菌数の減少、唾液分泌の促進と口腔内の清浄化、サブスタンスPを介した嚥下機能の改善などから誤嚥性肺炎の減少に寄与する。
 PEGの術中には口腔内の吸引を適宜行う。また、胃液の逆流・誤嚥を防ぐため内視鏡で胃液を十分に吸引しておくことが重要である。経腸栄養時は仰臥位では胃食道逆流による誤嚥のリスクが高くなるため、30度程度までベッドを挙上する。座位保持可能であれば90度の座位で経腸栄養を行う。
 肺炎を予防するために薬物療法が有効な場合もある。ACE阻害薬はサブスタンスPの分解を阻害し、咳反射を改善させることにより肺炎を抑制することが報告されている12)。アマンタジンはドーパミン遊離を促進することによりサブスタンスPの合成を高め肺炎を抑制する5)。モサプリドクエン酸塩は消化管運動賦活剤であり、胃食道逆流を抑制することにより誤嚥性肺炎の予防に寄与する13)。その他、シロスタゾール、カプサイシン、半夏厚朴湯などの有効性が報告されている。しかしこれらの薬剤は保険適用外であり、個々の患者においてその必要性を判断の上、慎重に投与の適応を検討すべきである。また、誤嚥のリスクとなる抗精神病薬や抗コリン作用を有する薬剤の使用を可能な限り控えることも重要である。
 半固形栄養剤は液体栄養剤に比べ誤嚥性肺炎の発症を有意に抑制することが村松らのランダム化比較試験で証明された14)。半固形栄養剤により胃の正常な貯留能と排出能が維持され15)、胃食道逆流が抑制されることにより肺炎のリスク低減につながる。ただし高粘度(20000mPa・s程度)のものは胃食道逆流を抑制するが低粘度のものではその効果は明らかではなく、注意を要する。半固形栄養剤を用いても胃食道逆流を抑制できない場合には経胃瘻的空腸瘻(PEG-J)を用いた経腸栄養が有効なケースがある。
 PEGに関連する肺炎のリスクについて、術前に十分なインフォームドコンセントを行うことが不可欠である。肺炎予防のために可能な限りの対策を講じるとともに、患者の状態変化を継続的に評価し、肺炎が発生した際には、病態に応じた適切な対応を速やかに行うことが求められる。

<Pitfall>

PEGの術中には適切な穿刺部位の選定のために胃内に送気を行う必要があるが、ここで胃液が残留していると嘔吐から誤嚥を生じることがある。術中の嘔吐・誤嚥は避けなければならず、十分な胃液の吸引が重要である。造設が安全に終わり経腸栄養が順調に行えていたとしても、不顕性誤嚥や突然の嘔吐から誤嚥性肺炎を生じる場合があるので常に患者の状態観察を怠らないことが重要である。

文献

  1. 厚生労働省:令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況.2024
  2. 横浜吏郎ほか:旭川医療センター医学雑誌 2:3-6,2016
  3. 笠井久豊ほか:静脈経腸栄養 24:577-582,2009
  4. 山内康平ほか:Gastroenterological Endoscopy 64:1588-1595,2022
  5. Yamaya M, et al:J Am Geriatr Soc 49:85-90,2001
  6. 倉科憲太郎ほか:自治医科大学紀要 38:79-84,2015
  7. 蟹江治郎ほか:日本老年医学会誌 37:143-148,2000
  8. 清水敦哉ほか:在宅医療と内視鏡治療 10:2-7,2006
  9. Masaki S, et al :PLoS One 14:e0217120,2019
  10. 日本呼吸器学会:成人肺炎診療ガイドライン2024,2024
  11. Akata K, et al:BMC Pulm Med 16:79,2016
  12. Arai T, et al:Neurology 64:573-574,2005
  13. Takatori K, et al:J Gastroenterol 48:1105-1110,2013
  14. 村松博士ほか:静脈経腸栄養33:611-616,2018
  15. 合田文則ほか:静脈経腸栄養23:235-241,2008

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