- PDNレクチャーとは?
- Chapter1 PEG
- 1.胃瘻とは
- 2.適応と禁忌
- 2.1 適応と禁忌
- 2.2 疾患別PEG適応
- ①パーキンソン病
- ②アルツハイマー病
- ③頭頸部癌
- ④ALS
- ⑤認知症
- ⑥脳血管障害
- ⑦食道がん
- 3.造設
- ①分類
- ②Pull・Push法
- ③Introducer原法
- ④Introducer変法
- ⑤胃壁固定
- 3.2 術前術後管理
- 3.3 クリティカルパス
- 4.交換
- 4.1 カテーテルの種類と交換
- 4.2 交換手技
- 4.3 確認方法
- ①交換後の確認方法
- ②スカイブルー法
- 4.4 地域連携・パス
- 5.日常管理
- 5.1 カテーテル管理
- 5.2 スキンケア
- 6.合併症・トラブル
- 6.1 造設時
- ①出血
- ②他臓器穿刺
- ③腹膜炎
- ④肺炎
- ⑤瘻孔感染
- ⑥早期事故抜去
- 6.2 交換時
- ①腹腔内誤挿入と誤注入
- ②その他
- 6.3 カテーテル管理
- ①バンパー埋没症候群
- ②ボールバルブ症候群
- ③事故抜去
- ④胃潰瘍
- 6.4 皮膚
- ①瘻孔感染
- ②肉芽
- 7.その他経腸栄養アクセス
- 7.1 PTEG
- 7.2 その他
- ●「PEG(胃瘻)」関連製品一覧
- Chapter2 経腸栄養
- Chapter3 静脈栄養
- Chapter4 摂食・嚥下リハビリ
- PDNレクチャーご利用にあたって
Chapter1 PEG
6.合併症・トラブル 3.カテーテル管理
④胃潰瘍
東邦大学医療センター大森病院栄養治療センター
鷲澤尚宏
2024年4月1日版
胃瘻造設の周術期や胃瘻を用いた経管栄養中に胃潰瘍を発症することがある。経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy : PEG)の合併症のうち、これらも造設者が防止、または治療に関する責任を負うものである。この項では、胃潰瘍について述べる。
1.病態
タイミングとして造設の直後に発症したとすれば、抗潰瘍薬の一時中止や造設そのもののストレスが考えられるが、穿刺部の出血や瘻管造設による損傷出血と潰瘍による出血は検査を行うまでは鑑別できないことが多い。脳血管障害にはCushing潰瘍などの頻度が高いため、脳血管障害患者をみたら常に上部消化管病変の可能性を考えることが重要である1)。胃瘻カテーテルの先端が持続的に胃粘膜を圧迫し、潰瘍が発生することもあるが、胃瘻部の対壁の場合には空腹時に胃が空虚になりバンパーやバルーンが持続的に圧迫している状態が原因となっていることが考えられる。
2.症状
合併症としての胃潰瘍は、胃瘻造設後の吐下血やカテーテル内の血液やカテーテル傍からの出血として発見されることが多く、Nishiwaki らはPEG426例中、17例の上部消化管(UGI)出血の原因を調査した研究では、2例の原因は胃潰瘍が原因の出血例が2例存在したと報告している2)。
腹痛を訴えることが少ないのは、意識障害などで症状の訴えがない患者に胃瘻造設をしていることが多いのも影響している。冷汗、頻脈、血圧低下、急激な便意も胃潰瘍の症状となることがあるので、注意が必要である。
3.検査
体外への出血が明らかでなくても上記症状が現れたら、胃瘻カテの吸引、または白湯による洗浄吸引を行い、胃内の出血を確認し、緊急内視鏡検査を行う。出血の有無を確認し、出血していれば、その源を調べる。
4.潰瘍の部位
最も多いのはバルーン型カテーテルの先端が当たる胃後壁の粘膜であり、圧痕が潰瘍となるケースが考えられる(図2、図1のA)。胃内バンパーよりもカテーテルの側面が持続的に圧迫したと考えられる潰瘍発生もある(図1のB)。その他、カテーテル自身との位置関係が不明な潰瘍も存在する(図1のC)。
5.治療、対策
既往歴のチェックを行い、基礎疾患として胃潰瘍を持っている患者、何らかの理由で抗潰瘍剤を中止していた患者が現在の疾患を発症しPEGを必要としている場合には、留置されたカテーテルが原因であるか否かが明らかでなくても予防的に抗潰瘍剤を投与することが勧められる。PEGに際しては十分な鎮痛処置を施し、処置の度に患者に声をかけ、ストレスを軽減する必要がある。内視鏡を挿入したときからルーチン検査を行い、基礎疾患としての胃潰瘍を除外し、万が一、胃潰瘍を含む病変を発見した際には、胃瘻造設の是非と術後の治療計画をたてられるような所見を得ることが必要となる。しかし、病変のない胃粘膜所見から胃潰瘍を起こしやすい状況を探し出すことは困難である3)。
胃壁対側の胃潰瘍はバンパーやバルーンが持続的に圧迫していることが原因と考えられ、空腹時の対壁の圧迫を減らすためにはよりサイズの小さいバンパー型が有利である。胃潰瘍発症riskのある患者には、発症が少ない形状の胃瘻チューブを選択し、予防的に抗潰瘍剤を投与するなどの配慮も必要である4,5)。しかし、胃内アンカーとしてのバルーンとバンパーのどちらが潰瘍の原因になりやすいかは分かっていないため、臨床的なRCTが必要である。
傍カテーテルの胃潰瘍は中長期の管理におけるカテーテルの横向きの持続圧迫が原因であるため、チューブ型カテーテルからボタン型への変更や、カテーテルの外方向を体の軸に対して様々な角度になるように管理していくなど一定方向へ圧がかからないようにする工夫が必要となる6)。
胃潰瘍の発生や治療のもとには、様々な基礎疾患が存在するため、意識レベルや見当識障害の有無を含めた幅の広いケアが求められる。
文献
- 川口実:【全身性疾患と消化管病変】 神経系疾患 Cushing潰瘍. 胃と腸38(4):501-505,2003
- Nishiwaki S, Araki H, Takada J, Watanabe N, Asano T, Iwashita M, Tagami A, Hatakeyama H, Hayashi T, Maeda T, Saito K: Clinical investigation of upper gastrointestinal haemorrhage after percutaneous endoscopic gastrostomy. Digestive Endoscopy 22(3):180-185,2010
- 鷲澤尚宏: 【PEGの適応と栄養管理】PEGの合併症とその予防・治療. 臨床栄養106(3):320-326,2005
- 日下部俊朗、久居弘幸:【経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)の適応と長期管理】 PEG後胃潰瘍にどう対応するか.消化器の臨床 9(6):678-683,2006
- 陳文筆, 浅賀知也, 土島秀次, 堂下隆, 横地英博, 松島昭廣, 川原弘, 高瀬修二郎: 内視鏡的胃瘻造設術後に発症した胃潰瘍の3例. ENDOSCOPIC FORUM for digestive disease 21(1):13-16,2005
- 蟹江治郎, 鈴木裕介: 【経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)の実際】 PEG造設後の合併症とその予防 PEG造設後長期経過中に発生する問題点と対処.臨床消化器内科 21(11):1519-1525,2006