- PDNレクチャーとは?
- Chapter1 PEG
- 1.胃瘻とは
- 2.適応と禁忌
- 2.1 適応と禁忌
- 2.2 疾患別PEG適応
- ①パーキンソン病
- ②アルツハイマー病
- ③頭頸部癌
- ④ALS
- ⑤認知症
- ⑥脳血管障害
- ⑦食道がん
- 3.造設
- ①分類
- ②Pull・Push法
- ③Introducer原法
- ④Introducer変法
- ⑤胃壁固定
- 3.2 術前術後管理
- 3.3 クリティカルパス
- 4.交換
- 4.1 カテーテルの種類と交換
- 4.2 交換手技
- 4.3 確認方法
- ①交換後の確認方法
- ②スカイブルー法
- 4.4 地域連携・パス
- 5.日常管理
- 5.1 カテーテル管理
- 5.2 スキンケア
- 6.合併症・トラブル
- 6.1 造設時
- ①出血
- ②他臓器穿刺
- ③腹膜炎
- ④肺炎
- ⑤瘻孔感染
- ⑥早期事故抜去
- 6.2 交換時
- ①腹腔内誤挿入と誤注入
- ②その他
- 6.3 カテーテル管理
- ①バンパー埋没症候群
- ②ボールバルブ症候群
- ③事故抜去
- ④胃潰瘍
- 6.4 皮膚
- ①瘻孔感染
- ②肉芽
- 7.その他経腸栄養アクセス
- 7.1 PTEG
- 7.2 その他
- ●「PEG(胃瘻)」関連製品一覧
- Chapter2 経腸栄養
- Chapter3 静脈栄養
- Chapter4 摂食・嚥下リハビリ
- PDNレクチャーご利用にあたって
開腹による空腸瘻造設術には、空腸瘻を単独で造設する場合と、消化器がんなどの手術時に術後の栄養管理に使用する目的で術中に空腸瘻を造設する場合がある。頻度でいうと、食道がんなどの消化器手術の術中に造設される場合が多い。
1.空腸瘻の単独での造設
空腸瘻を単独で作製する場合は、胃瘻などが適応にならず、栄養カテーテルを空腸から入れる必要がある場合で、例えば、胃全摘後の患者で、食事摂取が少なく、PTEGができないような場合である。適応と考えられる患者は栄養状態が悪く、腹壁も薄くなっており、局所麻酔でも腸瘻作製が可能である1)。 カテーテルの留置部位は、経管栄養剤の栄養素の吸収を考え、できるだけ空腸の上部へ置くのが望ましい。トライツ靭帯から20㎝程度肛門側の空腸より、細めのカテーテルを留置する(図1)。胃全摘後などではトライツ靭帯の同定も困難であるため、なるべく口側の空腸より挿入する。空腸には20㎝ほど挿入して固定する。カテーテルは空腸に負担にならない細いもの、9-12Frの使用が勧められる。
皮膚切開は左の上腹部に3-5㎝程度の小切開を加え、腹腔内より空腸を引き出す。そこに①腸管をカテーテルが貫く部位が直接腹壁に開口した直接瘻(Stamm式)(図2-a)、②腸管をカテーテルが貫く部位と腹壁を貫く部位との間に一定の長さの瘻管を有する間接瘻(Wizel式)(図2-b)、③キットを使う針付きカテーテル法(Needle Catheter Jejunostomy、NCJ)(図2-c)で、空腸カテーテルを留置する。
カテーテルは手術創近傍から体外へ誘導するか、手術創から直接体外へ留置する。カテーテルが腹腔内に露出しないように、空腸の漿膜筋層と壁側腹膜を全周性に縫合する。最後に手術創を閉鎖する。
術後、カテーテル挿入部の臓側腹膜へと挙上された空腸と腹壁の間に小腸が入り込み、内ヘルニアとなって腸閉塞をきたす、また、挙上空腸が捻転を起こし、腸閉塞が発生する場合があり、合併症に注意を要する。
2.消化器手術時の空腸瘻造設
2-1.カテーテルの選択:
単独で行われる空腸瘻造設時と同様に、手術時に使用されるカテーテルは、小腸の口径を考慮し、小腸に負担にならない9Frから12Frの使用が勧められる。空腸瘻カテーテルは主として空腸上部に留置され、長期間に及ぶ場合が多いため、腸管壁に傷害を与えないよう硬すぎず、消化液や温度変化に対しても変性せず、耐久性のあるものが望まれる。素材としては、ポリウレタン製、シリコン製、塩化ビニル製がある。
2-2.手術的空腸瘻造設の方法:
消化器外科領域では手術時に手術後の栄養管理目的に空腸瘻が造設される(図2)。とくに上部消化管手術や膵臓の手術時に行われるケースが多い。空腸瘻造設法には、①腸管をカテーテルが貫く部位が直接腹壁に開口した直接瘻(Stamm式)、②腸管をカテーテルが貫く部位と腹壁を貫く部位との間に一定の長さの瘻管を有する間接瘻(Wizel式)、③キットを使う針付きカテーテル法(Needle Catheter Jejunostomy、NCJ)などの方法がある2)。
2−2-1.Stamm式空腸瘻造設術(図2-a)
空腸の腸間膜対側にタバコ縫合をかけ、その中心部の腸管に切開を加え、カテーテルを肛門側に向かい挿入、タバコ縫合を縫縮結紮する。再度カテーテル挿入部周囲にタバコ縫合をかけ結紮する。腹壁を貫き、カテーテルを体外に誘導し、カテーテル挿入部位と腹壁を2〜4針結紮縫合し、固定を行う。
2−2-2.Wizel式空腸瘻造設術(図2-b)
空腸の腸間膜対側にタバコ縫合をかけ、その中心部の腸管に切開を加え、カテーテルを肛門側に向かい挿入、タバコ縫合を縫縮結紮する。挿入部より腸管外のカテーテルを長軸方向に覆うように漿膜筋層縫合を行い、トンネルを作成する。カテーテルを体外に誘導し、カテーテル挿入部位と腹壁を2〜4針結紮縫合し、固定を行う。
2−2-3.針付きカテーテル法(Needle Catheter Jejunostomy, NCJ)(図2-c)
NCJはキット製品として販売されており、挿入が簡便で挿入部位からの腸内容の漏出が最低限に抑えられるという利点がある(図3)。空腸の腸間膜対側を穿刺針で漿膜筋層をややはうようにして、肛門側に向けて穿刺をおこなう。穿刺針の内筒を抜去し、外筒にそってカテーテルを腸管内に挿入する。外筒を抜去して、カテーテルを腸管に縫合固定の後、カテーテルを体外に誘導し、カテーテル挿入部位と腹壁を2〜4針結紮縫合して固定を行う3)。
2本の穿刺針と9Frのカテーテル、アダプター
2-3.各種手術時の経腸栄養カテーテルの留置法
カテーテルの留置に関しては、できるだけ食物の通過しない空腸に留置する様にしている2)。カテーテル挿入部の胃や空腸と腹壁が近接できず、縫合できない時は、肝円索の有茎弁を用いて、その中にカテーテルを通し、肝円索と腸管、肝円索と壁側腹壁を縫合する方法がある。カテーテルが腹腔内に露出して存在する事は極力避けるべきである。
1)食道切除術:胸骨後胃管再建時には、胃管よりカテーテルを挿入し、幽門輪をこえて、十二指腸もしくはトライツ靱帯を越えて空腸にカテーテル先端を留置する(図4)。後縦郭再建においては近位空腸に留置する。後縦郭再建では近位空腸に直接カテーテルを胃挿入し、カテーテル挿入部の空腸と腹壁を固定している。
2)胃全摘術:Roux-en Y吻合では、空腸Y脚よりカテーテルを挿入し、Y吻合を越えてカテーテル先端を留置する(図4,5)。
3)膵頭十二指腸切除術:Child変法での再建時は、膵空腸吻合、胆管空腸吻合のため挙上した空腸ループから挿入し、先端を吻合より遠位の空腸に留置している(図4)。
2-4.手術時空腸瘻造設の合併症
空腸瘻のため腹壁に縫合した空腸の周りに腸管が内ヘルニア状となって、イレウスをきたすことがあり、これが手術的空腸瘻造設の代表的な合併症である。著者の約300例のNCJ施行中1例のみに空腸瘻が原因のイレウスを認めた。そのほかにもカテーテルの事故抜去、カテーテル閉塞、空腸瘻腹壁感染、腸管壊死などの合併症が報告されている4)。2022例のNCJ合併症を扱ったMyersの報告では腹腔内管感染0.15%、腸管閉塞0.15%、腸管壊死0.15%、pneumatosis intestinalis 0.15%、腹壁感染0.25%、事故抜去とカテーテル閉塞0.74%と報告されており、手術的空腸瘻造設は安全な手技であるといえる5)。
文献
- 永井祐吾:外科的胃瘻・腸瘻、曽和融生ら監修、PDNセミナー胃瘻と栄養、p90-91,NPO法人PEGドクターズネットワーク、東京、2004
- 丸山道生:空腸瘻、丸山道生編、経腸栄養バイブル、p134-137、日本医事新報社、東京、2007
- 丸山道生:手術的空腸瘻造設用カテーテルキットの開発と臨床応用、手術59: 1331-1334, 2005
- Sarr MG: Appropriate use, complications and advantages demonstrated in 500 consecutive needle catheter jejunostomies. British Journal of Surgery 86: 557-561, 1999
- Myers JG, Page CP, Stewart RM, et al: Complications of needle catheter jejunostomy in 2022 consecutive applications. American Journal of Surgery 170: 547-551, 1995