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実践講座
PEGのトラブル A to Z
③チューブ管理とトラブル・その予防と対処


鶴岡協立病院消化器内科 髙橋美香子

髙橋美香子
記事公開日 2021年6月10日

安全に造り管理したいと思っていても、避けて通れないのがトラブルです。
胃ろうの「造設」「交換」「管理」のそれぞれのステージで、特に注意したいトラブルについて、予防法や発生時の対応のノウハウをご紹介します。
③は、胃瘻に関わるスタッフには必ず知っておいてもらいたい、「チューブ管理とトラブル・その予防と対処」です。
※本掲載の原著「PEGのトラブルA to Z」はPDNショップで購入できます。

1.日常観察のポイント

 カテーテルの可動性(動き)の確認が何よりも大切です。正常な状態の胃瘻カテーテルは360度抵抗なく回転し、皮膚と外部ストッパーの間には1㎝程度の遊びがあり、押せば抵抗なく上下します(図1)。注入に関わる人は看護師も介護者もクルクル、ピッピ!と唱えながら注入ごとに回転と遊びを確実に確認するようにしてください(図2)。この「可動性」が消失している場合は異常が生じていると思われます。栄養剤や薬は注入せずに直ちに医療者に連絡してください。

図1 外部ストッパーと皮膚間には遊びが必要
図1 外部ストッパーと皮膚間には遊びが必要
図2 注入毎の確認「クルクル、ピッピ!」
図2 注入毎の確認「クルクル、ピッピ!」 上下動と回転

2.カテーテルの汚染と破損

 カテーテルの汚染と破損は最もよく見られるトラブルです(図3)。チューブ内に出現する黒い斑点はカビです。このような汚染が見られた際には元に戻すことは困難です。新しいカテーテルに交換しましょう。

図3 カテーテル汚染と破損
図3 カテーテル汚染と破損
 

チューブの汚染を防止するためにも栄養剤注入後のフラッシュ(10ml程度の水を勢いよくシリンジで注入すること)が欠かせません。また、ボタン型の接続チューブは外してしっかりお湯洗いしてください。食器用洗剤を使用しても構いません。すすいだ後はミルトンへ液に浸すことをお勧めします。チューブ型の場合は外して洗うことも洗剤を用いることもできません。フラッシュ後は10倍に薄めた酢水をチューブ内に充填することでチューブ内の細菌などの繁殖が抑えられ汚染されにくくなるといわれ、広く行われています(図4)。栄養剤注入後にチューブ内腔に栄養剤がこびりつかないようにするための胃瘻カテーテルー専用のブラシもあります。PDNで購入可能です。チューブ型のカテーテルでは利用するとよいでしょう(図5)。

図4 チューブ型では酢水の充填

注入中以外は10倍に薄めた酢水(食用酢)をカテーテル内に充填させる

図4 チューブ型では酢水の充填
図5 PDNブラシ
図5 PDNブラシ

バルーン型カテーテルではバルーンを膨らませている蒸留水を定期的(週1回程度)に確認して入れかえてください。これを怠るとバルーンの水が減ってしまいカテーテルが抜けたり、バルーンの水が汚染されて結晶が生じ水が抜けなくなってしまうことがあります。
 また、交換せずに長期留置したカテーテルは汚染や破損の温床になります。カテーテルは定期的に交換しましょう。交換時期の目安はバルーン型で1か月程度、バンパー型は4~6か月が一般的です。

3.事故抜去

事故抜去もよく遭遇するトラブルです。本人が自分で抜いてしまう自己抜去と、バルーン水の虚脱や介護の最中などに誤って引っ張られたために抜けてしまう事故抜去がありますが、いずれも対応の基本は同じです。カテーテルが抜けると瘻孔は時間とともに縮小してしまい、最終的には閉じてしまいます。こうなると新しいカテーテルを入れることができなくなります。まずは発見した時点で手持ちのもので瘻孔を確保します。この作業は指導されているご家族でも施設のスタッフでも訪問看護師でも構いません。
 瘻孔確保は新しいバルーン型カテーテルが望ましいですが、なければバルーン型胃瘻カテーテルであれば抜かれたものを再度入れてもいいです(バルーンが破裂している場合)。介護施設や療養病棟などでは膀胱留置用のカテーテルが良く使用されます。サイズはなるべく抜かれたものに近いことが望ましく、入れる長さは抜かれたカテーテルの外部ストッパーの位置(ボタン型ではシャフト長)を参考にそれより数㎝長く入れます。多くの場合6㎝程度挿入で十分です。1-2㎝の挿入では短すぎて胃内に到達していないことがあるので気をつけましょう。吸引用のサクションチューブなどでも構いません。ご自宅ではストローなどでも代用できます。瘻孔確保ができたら再度抜けないようにテープで固定してください。
 瘻孔が狭くなり挿入できない時には無理に挿入しないようにしてください。(瘻孔確保ができない時は速やかに医療機関に連絡し指示を仰いでください。)
瘻孔確保ができてもそれで終わりではありません。訪問看護師や連携医療機関に状況を連絡しましょう。
 報告する項目を列挙します①発生日時②抜かれたカテーテルの種類とサイズ、挿入時期③瘻孔確保ができたのかどうか④瘻孔確保したチューブの種類とサイズ(可能ならそこから胃液が逆流しているかどうか)
 造設直後の急性期(1-2週以内)を除いては事故抜去が即生命の危険に直結することはありません。落ち着いて対応することが何より大切です。
 また、瘻孔確保したチューブからは医師が確認し専用のチューブを正しく再挿入するまでは決して何も注入してはいけません。正しく瘻孔確保されていないと誤挿入⇒誤注入につながります。(交換時のトラブル参照)
 自分で引っ張る自己抜去の防止にはボタン型カテーテルの利用や腹巻などが利用されます。ペグポケットという胃瘻専用の製品もあります。介護動作で気を付けるのは車いすへの移乗時、おむつ交換時、体位交換時、更衣時などです。特にチューブ型のカテーテルの位置に配慮するようにして下さい。

4.バンパー埋没症候群

胃瘻カテーテルの皮膚と外部ストッパーの間には1㎝程度の遊びがあることが理想です。しかし、ボタン型カテーテルのシャフト長は一定の為、栄養状態の改善とともに腹壁厚が厚くなると内部ストッパーが胃壁に食い込み埋没してゆきます。この状態がバンパー埋没症候群です(図6・図7)。

図6 バンパー埋没症候群の発生機序

①適切な管理のカテーテル(適度な弛み)   ②栄養状態改善などによるストッパーと
                       皮膚・胃粘膜の圧迫から血流障害発生
 ③バンパーの埋没の発生          ④バンパー埋没症候群の完成

                                   町立長沼病院 倉敏郎先生提供

 
図6 バンパー埋没症候群の発生機序
図7 バンパー埋没症候群
図7 バンパー埋没症候群

最終的には胃粘膜内にカテーテルが完全に埋まってしまい栄養剤は注入できなくなります。シャフト長が短いボタン型カテーテルでの発生が多いですが、体外へ向けた牽引力があればシャフト長が十分な場合やチューブ型カテーテルでも発生します。予防は皮膚と外部ストッパーとの間の遊びをしっかりと確保することにつきます。バンパー埋没状態ではカテーテルの可動性はなくなります。「クルクル、ピッピ」を注入毎に確認することによって予防と早期発見が可能です。

5.ボールバルブ症候群

 バルーン・チューブ型のカテーテルのバルーンが胃の蠕動によって幽門輪を超えて十二指腸球部に嵌頓してしまい、十二指腸閉塞状態になることをボールバルブ症候群といいます(図8)。

図8 ボールバルブ症候群

   蠕動で進行する          十二指腸にバルーンが嵌頓

図8 ボールバルブ症候群  (バルーンカテーテルの十二指腸嵌頓)

外部ストッパーのない製品(膀胱留置カテーテルなど)を使用しているときや外部ストッパーが緩んでしまうと発生します。症状は栄養剤の混じらない胃液の嘔吐や胃瘻からの胃液の漏れ(栄養剤ではない)などです。カテーテルが体内に引き込まれているため体表から見るとカテーテルの長さが短くなっていることが特徴です(図9)。この病態を知っていれば簡単に診断できますが、知らないと胃腸炎や腸閉塞、逆流性食道炎などと診断されやすいので注意が必要です。診断さえつけば容易に治療可能です。嵌頓しているバルーンの水を抜き胃内の適正な位置まで引き戻して再拡張させれば治療終了です(図10)。繰り返す場合はバンパー型やボタン型のカテーテルへの変更を行います。

図9 ボールバルブ症候群(体表)

カテーテルが引き込まれ体外の長さが短くなる!

図9 ボールバルブ症候群(体表)
図10 ボールバルブ症候群の診断と治療

バルーンの固定水を抜きカテーテルを胃内へ戻す

図10 ボールバルブ症候群の診断と治療
 

予防のためにはチューブ型の製品の場合は外部ストッパーの固定位置を記録して緩まないように日々確認する癖をつけることが大切です(図11)。小腸チューブでもしばしば発生しますので注意してください。

図11 ボールバルブ症候群の予防

・外部ストッパーのない製品は使わない(胃瘻専用品)
 ・外部ストッパーが移動しないようにする
 ・外部ストッパーの位置を記録し申し送り毎日確認
 ・ボタン型やバンパー型を使う

図11 ボールバルブ症候群の予防

6.内部ストッパーによる潰瘍形成

 内部ストッパーが胃の対側にあたり機械的に胃潰瘍が形成されることがあります(図12)。痛みを訴えたり、吐血や胃瘻カテーテルからの出血といった症状で内視鏡をして診断されます。全くの無症状で内視鏡時に偶然発見されることもあります。予見も予防も困難です。このようなことが起こることがあるということを医療スタッフは知っておいてください。対応方法は潰瘍の内服薬の処方とカテーテルの種類(内部ストッパーの形状)を変えることなどです。

図12 内部ストッパーによる潰瘍形成
図12 内部ストッパーによる潰瘍形成

チューブトラブルは即座に生命に直結することはありません。しかし、胃瘻栄養の継続が困難になるために受診やカテーテル交換といった負担を患者さんやご家族に強いることになります。チューブトラブルは適切な管理と交換のコーディネイトで防げるものも多いのが特徴です。ある程度予防可能なトラブル(汚染、事故抜去、バンパー埋没症候群、ボールバルブ症候群など)は防ぎ、防げないトラブル(自己抜去、潰瘍形成など)は発生時の対応法を決めておくことがチューブ管理のコツだといえます。
毎日の観察がトラブルの予防になり早期発見に結びつきます。基本に忠実に、投与ごとに観察するポイントを明確に胃瘻部とカテーテルを観察することがとても大切です。
連載最後に、胃瘻管理時の観察ポイントを列挙いたします。①熱や腹痛・嘔吐などないか?(全身状態)②皮膚の状況はよいか?(瘻孔感染や肉芽、浸出液)③チューブの遊びと可動性は大丈夫か?(クルクル、ピッピ)④外部ストッパーの長さは移動していないか?
多くの方々が長く快適な胃瘻ライフをおくれることを願っております。

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