HOME > PDNレクチャー > topics > PEGのトラブル A to Z ②スキントラブル

実践講座
PEGのトラブル A to Z
②スキントラブル


鶴岡協立病院消化器内科 髙橋美香子

PDNレクチャーテキストをダウンロードする

出典:PDN通信61号 2017年10月号

髙橋美香子
記事公開日 2021年6月10日

安全に造り管理したいと思っていても、避けて通れないのがトラブルです。
胃ろうの「造設」「交換」「管理」のそれぞれのステージで、特に注意したいトラブルについて、予防法や発生時の対応のノウハウをご紹介します。
②は、スキン(皮膚)トラブルです。
※本掲載の原著「PEGのトラブルA to Z」はPDNショップで購入できます。

1.日常観察のポイントと保清

 スキントラブルは、ご本人やご家族の関心と苦痛が強い割には生命に直結しないためか医師の関心が薄いことが多く、看護師等のスタッフがその板挟みで苦労することも多いです。
胃瘻部のスキントラブルの予防の第一は、日々のケアと毎食ごとの観察から始まります。
食事の注入毎に胃瘻部を観察してください(もちろん全身状態も)。出血がないか、発赤がないか、浸出液はどうか、そういったことを毎回みる習慣をつけてください。
お手入れの方法は、洗浄が基本です。胃瘻は「第二のお口」ですので歯磨きや洗顔と同じように胃瘻部をきれいにしてあげてください。消毒や洗剤は必要ありません。お湯か石鹸でやさしく洗ってあげてください。そのまま入浴して体を洗うときに丁寧に石鹸で洗い、お湯で洗い流すのが最も良いケアです。乾燥しているときは保湿クリームなどを使用してもよいです。日常的なケアに有用なのはティッシュペーパーやウェットティッシュなどです。滅菌ガーゼはコストが高く交換をためらいがちになりますし、漏れた栄養剤などが付着すると真菌感染などの温床になりやすくお勧めしません。ティッシュペーパーをこよりのようにして巻き付けて汚れる都度交換するのがおすすめのケアです(図1)。その他に食器用のスポンジに切り込みを入れたものや、化粧用のパフ、生理用ナプキンなども利用できます。いずれも、安価で入手が容易、乾燥しやすく衛生的であることが日々のケアに利用するための条件となります。

図1 ティッシュペーパーによる瘻孔保護
図1 ティッシュペーパーによる瘻孔保護

2.肉芽

胃瘻にカテーテルという異物が挿入されているためその刺激による反応で肉芽が形成されることがあります。小さな肉芽は特に処置は必要ありません。ご本人やご家族には「胃瘻は第二のお口なので唇だと思ってください」とお話ししています。巨大な肉芽や痛みが強い場合や浸出液が多い場合、出血がある場合などが治療対象になります。かつては硝酸銀棒による焼灼などが行われていましたが、現在ではステロイド軟膏の塗布が有用で簡便であるためよく行われています。多くの場合2週間程度で改善します(図2)。
 副作用を防ぐための塗り方のポイントは①肉芽にだけ塗る(健常皮膚に塗らない)、②長期間使用しない(2週間程度)ということです。口内炎治療用のデキサルチン軟膏®などを用いて治療するとよいでしょう。

図2AB 肉芽 ステロイド軟膏塗布前後
     A 治療前              B 2週間後
図2AB 肉芽 ステロイド軟膏塗布前後

3.瘻孔感染

瘻孔感染の診断はJainの基準を参考に行います(表1)。特別な道具を必要とせず、だれでもどこで判断できるのでぜひ日常的に観察するようにしてください。
 瘻孔感染の瘻孔感染に対応する際にはその原因を考えなければなりません。2大原因は「圧迫」と「漏れ」です。

表1 Jainの基準
定 義

排膿がある場合は確定。
また、発赤・腫脹・硬結・疼痛等があり、抗菌剤投与や局所の処置、栄養剤使用の中止や延期を行った場合。


Jainの基準

スコアの合計が8点以上、もしくは明らかな膿汁の流出がみられた時に「感染あり」

●発赤             ●浸出液         ●硬結
 0〜発赤なし          0〜浸出液なし       0〜硬結なし
 1〜直径 <5㎜         1〜漿液         1〜直径 <10㎜
 2〜直径 6〜10㎜       2〜漿液血液状      2〜直径 11〜20㎜
 3〜直径 11〜15㎜       3〜血性         3〜直径 >20㎜
 4〜直径 >15㎜         4〜膿性            

1)圧迫 
 胃瘻カテーテルの外部ストッパーと皮膚の間に1㎝程度のゆとりがあるのが正常の状態です。これがきつすぎると外部ストッパーが皮膚に食い込み潰瘍を形成してしまいます(図3A)。この場合の対処方法はストッパーを緩めることです。ボタン型カテーテルであれば長めのものに入れ換えてください。時に円背の方などではストッパーのゆとりがあっても大きなストッパーが皮膚に食い込んでしまい潰瘍を形成することがあります(図3B)。 この場合はストッパーのゆとりを大きくとり(3㎝以上)、ストッパーと皮膚の間に切り込みを入れたスポンジを入れるなどしてストッパーが直接皮膚にあたらないように工夫します(図4)。

図3AB 圧迫による潰瘍形成
          A                      B
図3AB 圧迫による潰瘍形成
図4 スポンジ固定
図4 スポンジ固定

2)漏れ
 胃瘻スキントラブルで最も難渋するのが漏れへの対策です。放置すれば瘻孔拡大からますます漏れが悪化する悪循環となります(図5AB)。

図5AB 漏れによる瘻孔感染Aと拡大B
          A                      B
図5AB 漏れによる瘻孔感染Aと拡大B

胃液や栄養剤が直接皮膚に触れるのを防ぐために創傷被覆材の保護や撥水性クリームの塗布が行われます。少量の漏れであれば床ずれの予防や治療に用いる「創傷被覆材」の貼付で吸収可能です。ペグケア®という胃瘻専用製品もあり胃瘻用の大きさに作成されており便利です(図6)。

図6 ペグケア®
図6 ペグケア®

撥水性のクリームも各社より発売されておりセキューラPo®やりモイスバリア®などがあります。広く薄く、漏れた液が皮膚につかないようまんべんなく塗布してください。コントロールしきれないような場合には特殊な方法として医師の指示のもと「陰圧パック療法」という方法が用いられます。胃瘻周囲を密封し、漏れた液を陰圧で持続吸引する方法で有用ですが持続吸引のシステムが必要になります。

図7 撥水性クリーム
図7 撥水性クリーム

しかし、漏れによる皮膚炎への対策は対症療法に過ぎず、漏れそのものをコントロールすることが必要です。漏れの対策として、栄養剤の半固形化投与や胃瘻カテーテルの小腸挿管(図8)などが行われます。特に小腸挿管(PEGJ)は有効な方法ですが、医療機関にてレントゲン確認下での導入が必要です。

図8 経胃瘻的小腸挿管(PEGJ)
図8 経胃瘻的小腸挿管(PEGJ)

3)真菌感染
 栄養剤のしみ込んだガーゼなどが皮膚に長時間接触していると、「温度」「湿度」「栄養」のそろった細菌や真菌の感染温床になります。ガーゼの形に皮膚炎が起きるのが特徴的です(図9)。ガーゼ放置を避け、先述のティッシュペーパーなどをまめに交換することで予防できます。発生した真菌感染には抗真菌剤の軟膏などで対応します。

図9 真菌感染
図9 真菌感染
 

スキントラブルは軽症のうちに対応しないとすぐに悪化してしまいます。ひどい場合には胃瘻からの栄養投与が継続できなくなってしまいます。患者さんやご家族の苦痛も大きくQOLを大きく障害してしまいます。対応の基本は毎日の正しいケアと地道な観察です。これによって多くのスキントラブルが予防発見可能です。簡単なことではありますが意外と実践されていないことも多いです。
 どうか正しいケアを行い、異常を早期発見して早期対応を心がけてください。それでも対応しきれない難治性のトラブルについては、専門家へご相談ください。

▲ページの最初へ戻る

あなたは医療関係者ですか?
この先のサイトで提供している情報は、医療関係者を対象としています。
一般の方や患者さんへの情報提供を目的としたものではありませんので、ご了承下さい。
いいえ
はい