Ch.4-7.気管切開患者のリハビリテーション


独立行政法人国立国際医療研究センター 藤谷 順子

藤谷順子
記事公開日 2014年2月
Q1.気管切開をしていると、食べられないですか?

Q1-1.気管切開をしてカニューレが入っていても、食べる訓練はできますか?

A:できます。

ただ、食べる訓練で気をつけなければいけないのは、食べ物や唾液が食道ではなく気道に入ってしまう誤嚥です。カフ付きのカニューレ(図1・写真1)であれば、膨らませたカフの上に食べ物や唾液が落ちてきても、そこより先には行きませんから、安心です。

図1 カフ付きのカニューレ 写真1
図1  カフ付きのカニューレ  写真1

Q1-2. 2筒式のスピーチカニューレは、嚥下機能の改善に向いていると聞いたのですが。

A:通常の気管カニューレとスピーチカニューレの何が違うかというと、スピーチカニューレは内筒と外筒2筒構造になっています(写真2)。

内筒を抜くと外筒にあいている小さな穴を通して上気道を通り、声帯を通って口や鼻から呼吸ができます(図2)。

声帯を空気(呼気)が通ることで声が出せる状態になるので「スピーチカニューレ」と呼ばれています。これを使えばすぐにしゃべれるようになるというわけではありません。むしろ、気管切開部から太く短いカニューレを使って楽に呼吸をしてきたので、声帯を震わす呼吸の力は弱くなっていますし、カフの上に唾液などが溜まっていても、それが当たり前で咳反射が起きない麻痺のような状態になっています(これも廃用症候群のひとつといえます)から、内筒を抜いて細く曲がった上気道を使った呼吸は苦しい、という訴えがむしろ多いようです(図3)。

写真2
写真2 カフ付きスピーチカニューレ
内筒を抜けば、孔の開いた外筒だけとなる。
図2内筒を抜いた状態
図2 内筒を抜いた状態。
(左図)内筒を外して、一方向弁の状態。吸気は従来通り気切孔から入る。
   呼気は一方向弁の為、口の方へ回る。
(右図)カニューレの入口に蓋をした状態。必ずしも楽ではない。
図3呼吸の流れ
図3 呼吸の流れ。
(左図)普通の肺からの呼吸の流れ  (右図)気管切開患者の呼吸の流れ

気管切開をしている方への嚥下リハを行う場合、可能な方はカニューレをスピーチカニューレに変え、声を出す練習をしてもらいます。

カフの上に溜まった唾液は、こまめに吸引し、きれいな空気の流れや、声帯を動かす刺激を与えると、咽頭がきれいになり、本来の気道内膜の感覚が目覚めていきます。

また、ものを飲み込むときには口を閉じ口腔内圧を上げるため口呼吸ができませんから、鼻呼吸になります。スピーチカニューレで喉の環境を整え、鼻を使った呼吸の流れをトレーニングすることは、嚥下機能の改善にも活かされてゆきます。(Chapter4-1 Q1-6参照)

ただし、カニューレそのものが、嚥下機能を悪化させる要因にもなりえますので(表1)、呼吸機能のリハビリテーションを通して嚥下機能を改善し、カニューレからの離脱を目指しましょう。

表1 気管カニューレそのものが嚥下機能を悪化させる要因
  1. カニューレ自体の重みが咽頭を引き下げているので、咽頭の挙上が難しい
  2. 異物が入り続けているので、咳ソウ反射などの気道の反射が低下する
  3. 正常な呼吸による上気道の浄化作用が阻害されている

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  • 7-Q1-3.カニューレを外せる状況について教えて下さい。
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