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Chapter2 経腸栄養
3.病態別経腸栄養剤
2.肝不全用栄養剤


秀和総合病院消化器病センター 消化器病センター長 鈴木壱知

鈴木壱知

記事公開日 2011年9月20日

2015年10月21日改訂

<Point>

  1. 肝不全用栄養剤はその窒素源により半消化態栄養剤と成分栄養剤に分類される。
  2. 肝不全用栄養剤の適応症は『肝性脳症を伴う慢性肝不全患者の栄養状態の改善』であるが、肝性脳症を伴わない蛋白栄養障害の治療にも用いることがある。
  3. 蛋白栄養障害(低アルブミン血症)に対して肝不全用栄養剤を選択する場合には、食事療法を行った上で体内のアミノ酸インバランスが改善するように(BTR4以上)肝不全用栄養剤の選択や投与量を決定する。
  4. 肝性脳症に対して肝不全用栄養剤を選択する場合、肝性脳症の程度が顕著な場合にはたんぱく質の摂取制限を行った上で肝不全用栄養剤に含まれる分岐鎖アミノ酸量が多い製剤を選択し、摂取たんぱく質量が過剰とならないように注意する。

1.はじめに

肝疾患の病態の進展により肝機能障害が悪化し、肝臓の機能が維持できなくなると低アルブミン血症や肝性脳症などの代謝異常が出現する。とくに肝硬変においては低アルブミン血症(蛋白栄養障害)と高アンモニア血症(肝性脳症)の相反する病態が存在し栄養治療が非常に困難となる。したがって肝機能の低下した肝硬変において栄養治療はきわめて重要であるが、肝硬変に対する栄養治療を行うためには肝不全用栄養剤を含めた分岐鎖アミノ酸製剤を的確に選択し、適切な量を投与することが重要である。本章では肝不全用栄養剤の投与の意義ならびに肝不全用栄養剤の適応、選択について述べる。

2.分岐鎖アミノ酸投与の意義

肝疾患における分岐鎖アミノ酸の投与の意義としては大きく蛋白栄養障害に対する作用と肝性脳症に対する作用に分けることができる(表1)。

表1 分岐鎖アミノ酸の投与の意義
  1. エネルギー源
  2. 筋蛋白の合成促進と崩壊抑制
  3. 肝における蛋白合成促進
  4. 蛋白分解抑制による血漿芳香族アミノ酸の増加の抑制
  5. 血液・脳関門における芳香族アミノ酸との脳内輸送競合
  6. 末梢骨格筋におけるアンモニアの処理の促進

2.1 蛋白栄養障害に対する意義

分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン、以下BCAA)は、1950年代にその代謝経路が明らかにされ、その後1976年にFischerら1)により肝性脳症に対する臨床応用がなされた。その後、武藤ら2)らは血漿BCAA濃度とFischerモル比が血清アルブミン濃度と正の相関があることを指摘した。また、食品のアミノ酸組成は肝硬変入院患者の食事のFischerモル比は平均2.9であり、分岐鎖アミノ酸投与により血漿BCAA濃度とFischerモル比が改善し、血清アルブミン値やトランスサイレチン値、トランスフェリン値が上昇し、蛋白栄養障害が改善されることが明らかにされた3)。すなわち蛋白栄養障害に対する分岐鎖アミノ酸投与の意義は分岐鎖アミノ酸の投与により体内のアミノ酸インバランスを改善することで低アルブミン血症を改善することである。

2.2 肝性脳症に対する意義

肝硬変に合併する肝性脳症の発生機序としてはアンモニアを中心とした中毒物質による多因子説、アミノ酸代謝異常説、偽性神経伝達物質説、γアミノ酪酸(GABA)/ベンゾジアゼピン受容体複合体異常説などがある。臨床的には高アンモニア血症とアミノ酸インバランスが肝性脳症の発生機序として重要であり、治療としてたんぱく質摂取量の制限と分岐鎖アミノ酸投与によるアミノ酸インバランスの改善が肝性脳症の治療の基本である。すなわち肝硬変においては肝機能障害によるアンモニア処理能の低下、尿素合成能の低下および門脈大循環シャントにより高アンモニア血症がみられ、肝硬変にみられる高アンモニア血症に対する治療としては腸管レベルにおけるアンモニアの産生の抑制のために、まずたんぱく質の摂取量を制限し、たんぱく質摂取量の制限の結果、不足したたんぱく質量を補う目的で肝不全用栄養剤を併用する4)表2)。

表2 肝疾患における栄養補給基準
 

 

非窒素エネルギー(kcal/kg/日) 

蛋白質・アミノ酸(g/kg/日) 

代償性肝硬変

25~35 

1.0~1.2 

合併症

栄養障害あり

35~40

1.5

経口摂取
不十分

肝性脳症
(Ⅰ~II)

25~35

一時的に0.5、その後1.0~1.5

蛋白不耐症があれば、植物性蛋白や分岐鎖、アミノ酸補給

肝性脳症
(Ⅲ~Ⅳ) 

25~35

0.5~1.2
分岐鎖アミノ酸輸液

標準体重で算出する 1997 欧州経腸栄養学会(ESPEN)

高アンモニア血症による肝性脳症に対して分岐鎖アミノ酸投与を投与する意義としてはCondonら5)のEck瘻犬による検討で用いたミルク食のFischerモル比は4.8であり、肝硬変入院患者の食事タンパクのFischerモル比(平均2.9)に比較して高値であった。Fischerモル比の高いミルク食では肝性脳症の発生率は低率であり、生存期間が延長していたことから肝性脳症の治療に分岐鎖アミノ酸が用いられるようになった。アンモニアは肝臓だけではなく末梢骨格筋においても処理されており、分岐鎖アミノ酸は末梢骨格筋におけるアンモニア処理能を亢進する(図1)。したがって、高アンモニア血症の結果、たんぱく質の摂取制限が余儀なくされるが、そのままでは蛋白栄養障害が進行するため、たんぱく質の摂取制限により不足したたんぱく質を分岐鎖アミノ酸を多く含有した肝不全用栄養剤で補うことでアンモニア代謝異常を悪化させることなく不足したたんぱく質を補充できる。

図1 骨格筋におけるアンモニア代謝と分岐鎖アミノ酸
図1 骨格筋におけるアンモニア代謝と分岐鎖アミノ酸

また、BCAAは筋肉や脂肪組織などの末梢組織で代謝されるが、AAAは肝臓で代謝されるアミノ酸であり、肝細胞機能の低下した肝硬変では分岐鎖アミノ酸(BCAA)の減少と芳香族アミノ酸(AAA)の増加がみられ、血漿遊離アミノ酸のインバランスが出現する。したがってBCAAの含有量が多い肝不全用栄養剤を投与することによりアミノ酸インバランスを改善することにより肝性脳症を改善する。

3.肝不全用栄養剤の適応と選択

肝不全用栄養剤としては本邦では医薬品として半消化態栄養剤のアミノレバン®EN(大塚製薬株式会社)と成分栄養剤のヘパンED®(EAファーマ株式会社)の2種類が使用可能である(表3)。

表3 肝不全用栄養剤
  ヘパスII® 成分栄養剤
ヘパンED®
半消化態栄養剤
アミノレバン®EN

1日投与量
(g)

1~2本を
目安
2包
(160g)
3包
(150g)

糖質 (g)

28.2 123.4 93.2

脂質 (g)

6.7 5.6 10.5

総エネルギー
(kcal)

200 620 630

アミノ酸 (g)

6.5 22.4 40.5

BCAA (g)

3.5 10.9 18.3

医薬品としての肝不全用栄養剤の適応症としてはともに『肝性脳症を伴う慢性肝不全患者の栄養状態の改善』であり、非代償性肝硬変が適応である。食品として用いられるBCAA高含有製材としてヘパスII(森永乳業クリニコ株式会社)があったがエネルギー量が150kcalと少なかったがエネルギー量を200kcalへ増加させ、BCAAも3.5gへ増量させたヘパス®(森永乳業クリニコ株式会社)が用いられるようになった。

したがって非代償性肝硬変ではないが、蛋白制限を余儀なくされるような場合やBCAAとエネルギーを補充したい場合にはヘパス®を用いることができる。

一方、医薬品としての肝不全用栄養剤は、その組成の違いから使い分けることが可能である。そこで著者の両製剤の適応と使い分け方法について解説する。

3.1 蛋白栄養障害

蛋白栄養障害に対する治療としては可能な限り食事療法で行い、食事摂取量が十分であってもアミノ酸インバランスが存在する場合には血清アルブミン値は低下する6)ために食事摂取量を適切にした上で分岐鎖アミノ酸顆粒製剤(リーバクト®顆粒)の投与をまず行う。リーバクト®顆粒を投与しても低アルブミン血症が改善しない場合には食事の一部に代えてFischerモル比の高い肝不全用栄養剤を投与する。Fischerモル比の高い肝不全用栄養剤を投与することにより経口摂取される栄養(食事+肝不全用栄養剤)のFischerモル比を高くすることで体内のアミノ酸インバランスが改善され、蛋白栄養障害を改善することができる。したがって肝不全用栄養剤の投与に際して常に体内のアミノ酸のバランスをFischerモル比やBTRで評価し、アミノ酸インバランスが改善しない場合には肝不全用栄養剤の投与量の変更や肝不全用栄養剤の変更を行いアミノ酸インバランスを改善し、低アルブミン血症を改善を目指す。したがって肝不全用栄養剤の投与は必ずしも常用量にこだわる必要はなく、エネルギー過剰やたんぱく質の摂取過剰とならないようにESPENのガイドライン4)に示されているように肝不全用栄養剤を含めたエネルギー量を標準体重1kgあたり30~35kcal/日、たんぱく質の摂取量を1.0~1.2g/日となるように肝不全用栄養剤の選択と投与量の決定を行う。

3.2 肝性脳症

適応症から肝性脳症を伴った肝硬変患者に対して用いるが、肝性脳症を伴う慢性肝不全であることからたんぱく質の摂取量の制限を必ず行う必要がある。すなわちESPENのガイドライン4)にあるように肝性脳症の治療としてたんぱく質の摂取量の制限を行い、たんぱく質の摂取量の制限を行うことで摂取たんぱく質量の不足と摂取エネルギー量の不足がみられる。その不足したエネルギー量とたんぱく質の摂取量を補うために肝不全用栄養剤を投与する。Fischerモル比の高い肝不全用栄養剤を肝性脳症に対して用いる理由としては肝不全用栄養剤に含まれるBCAAにより末梢骨格筋においてアンモニア処理が亢進することから肝不全用栄養剤に含まれるアミノ酸は『高アンモニア血症を惹起しにくいアミノ酸』ともいえる。したがって肝性脳症が顕著な場合には当然、厳しいたんぱく質の制限を行うことが必要であり、たんぱく質の制限を厳しくすれば肝不全用栄養剤に含まれるアミノ酸量が多いものを選択する必要がある。次に肝不全用栄養剤の組成、とくに分岐鎖アミノ酸量について考慮することが必要である。すなわち前項に述べたように分岐鎖アミノ酸は末梢骨格筋におけるアンモニア処理を亢進することにより肝性脳症を軽快することが知られている。したがって肝性脳症時における肝不全用栄養剤の選択方法は肝性脳症の程度に応じたたんぱく質の摂取量の制限を行い、脳症を合併していない場合のたんぱく質の必要量に不足したたんぱく質量を補える肝不全用栄養剤と投与量を選択する。次に肝不全用栄養剤に含まれる分岐鎖アミノ酸の量を脳症が顕著な場合には分岐鎖アミノ酸を多い肝不全用栄養剤を選択する。

蛋白栄養障害と肝性脳症を伴った場合の肝不全用栄養剤の使い方を図2に示す。

図2 肝不全用栄養剤の使い方
図2 肝不全用栄養剤の使い方

3.3 経口摂取が不十分な場合

栄養指導を行っても十分なエネルギー量やたんぱく質量が摂取できない場合にはその不足分を補える肝不全用栄養剤を選択し、投与する7)

4.肝不全用栄養剤のコンプライアンスを高めるために

肝不全用栄養剤には種々のフレーバーやゼリー、ムースなどがあるので患者の嗜好や患者の状態に合わせて液状での投与やゼリー化して投与することによりコンプライアンスの向上や胃食道逆流を防止することが可能である。

文献

  1. Fischer JE et al: The effect of normalization of plasma amino acids on hepatic encephalopathy in man. Surgery 80:77-91,1976
  2. 武藤泰敏、ほか:慢性肝不全の栄養治療-分岐鎖アミノ酸補充療法をめぐって-.日本医事新報 3101:3-8,1980
  3. 川出靖彦、ほか:非代償性肝硬変症とアミノ酸栄養-分岐鎖アミノ酸投与の血漿蛋白質濃度並びに尿中3-methylhistidine排泄に及ぼす影響.肝臓26:625 ,1979
  4. Plaugh M,et al: ESPEN guidelines for nutrition in liver disease and transplantation.Clin Nutr 16:43-55,1997
  5. Condon RE et al: Effect of dietary protein on symptoms and survival in dogs with an Eck fistula. Am J Surg 121:107-114, 1971
  6. Suzuki K, et al: Measurement of serum branched-chain amino acids to tyrosine ratio level is useful in a prediction of a change of serum albumin level in chronic liver disease. Hepatol Res 38:267-272,2008
  7. Plaugh M, et al: ESPEN guidelines on enteral nutrition:Liver disease.Clin Nutr 25:285-294,2006

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