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Chapter2 経腸栄養
9.3 終末期医療にかかる費用


医療法人社団志嵩会 理事長 髙山 哲朗
          事務長 向井 誠

 
向井 誠 髙山 哲朗
記事公開日 2020年9月1日

<はじめに>

9.2 在宅診療の医療費の実際では在宅医療(訪問診療)にかかる費用について大まかにお伝えいたしました。当院で訪問診療を行っている方の中にも金銭的な理由から利用するサービスを控えるなどの選択をされる方もいらっしゃいます。必要だと感じるケースもありますが、費用面はやはり重要な要件と感じています。

訪問診療の費用をお伝えした一方で、入院の場合、施設の場合、緩和ケア病棟の場合にどの程度の費用がかかるかということについても不明な点が多いのではないかと思い至りました。そこで、今回は当院の主に訪問診療部門を統括している向井事務長にあらためて調べてもらい、各施設における費用についてお伝えすることといたしました。

訪問診療を行う状況が主に終末期であるため、本項は終末期医療に係る費用、各施設における比較を中心に概説させて頂きたいと思います。

本項は、がん末期、70歳男性、経口摂取不能で酸素吸入を必要とする状態とします。自己負担額は1割負担と設定し、1か月にかかる費用について、一般病棟、緩和ケア病棟、在宅、施設の順に概説いたします。

<病院>

一般病棟

通常多くの病院において長期の入院はできませんが、ここではシミュレーションとして記載いたします。

病院はその規模や診療内容に応じて算定できる費用が異なっています。一般病棟に入院した際の入院基本料を表1に示しました。本紙面では詳細については省きますが、入院期間に応じて金額の加算がこれに加わります。特定機能病院、療養病棟、結核病棟、精神病棟などにおいても金額は異なり、特定機能病院においてはいわゆる入院患者さんと職員の人数によってさらに金額が異なってきます。

表1
表1 一般病棟入院基本料(1日につき)

今回のシミュレーションのケースでは緩和治療を受けることになります。病院により異なりますが、厚生労働省から認可を受けた院内の緩和ケアチームが、これまで治療をおこなっていた主治医と共に治療にあたる場合、緩和ケアチームの診療・援助には「緩和ケア診療加算」が加算され、この加算を含めた医療費には医療保険が適用されます。

「緩和ケア診療加算」は、緩和ケアチームによる診療・援助が開始された時点から中止もしくは退院まで、1日390点(3,900円)※が加算されます。

この金額をもとに、入院についてかかる費用を計算すると以下のようになります。
◎一般病棟の室料差額なしの部屋に1か月入院して、医療費1割負担で約10万5千円
【入院基本料 約1500点+緩和ケア診療加算390点+加算項目)1日の平均3500点~4500点として×30日間=1,050,000円~1,350,000円。医療費1割負担で105,000~135,000円】

これに必要とする薬剤費が加わり、その他に食事療養費(460円/1食×3食/1日×30日間=41,400円)や室料差額などの医療保険適用外の費用がかかります。なお、食事療養費は、住民税非課税世帯の場合、減額されます。

実際には差額ベッド代が必要となる例が多くなります。差額ベッド代は病院の規模だけではなく、都心などの立地条件などによっても大きく異なってきます。一人部屋の平均は7,837円となっていますが、都心の病院で1人部屋の個室となると1万円以上かかることが多いでしょう。特定機能病院である慶應義塾大学病院の個室病棟では現在4.4万円となっていましたのでその金額で計算すると
105,000円+薬剤費+食費41,400円 +個室代 105万円
合計119万6千400円 となります。保険診療である約10万5千円と薬剤費には高額療養費を適用できますが、自費負担部分が非常に高額となることが分かります。

緩和ケア病棟

緩和ケア病棟は厚生労働省の認定した施設で、金額が別途定められています(表2)。緩和ケア病棟に入る為には主治医と相談の上、許可を得てというケースが多いようです。緩和ケア病棟では緩和により特化した診療を受けることができます。緩和ケア病棟については薬剤費は全て含められた金額で保険点数が決まっています。

表2
表2 緩和ケア病棟入院料(1日につき)

◎緩和ケア病棟の室料差額なしの部屋に1か月入院して、医療費1割負担で約156,000円(52,070円×30日間=1,562,100円の1割負担=156,210円)

一般病棟同様、その他に食事療養費(460円/1食×3食/1日×30日間=41,400円)や室料差額などの医療保険適用外の費用がかかります。

差額ベッド代は一般病棟のケースと同様に1日あたり5000円から10万円以上と非常に高額になることがあります。調べることが可能であった聖路加病院の緩和ケア個室は10m2の大きさで1日当たり22,000円とあります。

終末期医療となると個室での対応が望まれることも多く、長期の入院には大きな金額がかかることとなります。こちらも個室代や食費はやはり全額自費負担になるので高額療養費を使用してもその部分については支払いが必要となります。
これらを踏まえると

156,000円(医療費) +薬剤費+ 41,400円  + 66万円 = 85万7千4百円

です。

<在宅における訪問診療>

終末期の訪問診療には二通りの診療パターンが存在します。

週に1日医師が訪問し、週に3日看護師が訪問する場合

パターン①:すべての金額が含まれた(まるめ)訪問診療料のパターン
■在宅がん医療総合診療料 1日約1500点(施設により異なる)×30日=45,000点
・訪問看護指示料 300点(3000円)
・居宅療養管理指導料 590単位(5900円)
450,000円+3,000円+5,900円=458,900円
1割負担で45,890円

パターン②:基本の訪問回数は同様だが、追加で費用がかかるパターン
・施設入居時医学総合管理料強化型以外 1人 別に定める状態の患者 月3300点
・在宅患者訪問診療料 888点×4回=3,552点
・在宅酸素療法指導管理料 その他 2400点
・在宅酸素療法材料加算 その他の場合100点
・酸素ボンベ 携帯用酸素ボンベ以外 3950点
・酸素濃縮装置加算 4000点
・呼吸同調式デマンドバルブ加算 300点
・訪問看護指示書 300点
・居宅療養管理指導料 590単位
・訪問看護5,550円×週3回×4=66,600円
■3300点+3552点+2400点+100点+3950点+4000点+300点+300点+590単位=18492点=184,920円
184,920円+66,600円=251,520円 + 緊急訪問にかかる費用
1割負担の場合25,152円 + 緊急訪問にかかる費用

一見するとパターン②の方が金額が安く抑えられそうですが、終末期になると発熱や疼痛など予期しない症状などにより緊急での訪問、点滴の回数などが増えることがあります。

パターン①においてはそれらがすべて含まれた金額(いわゆる“まるめ”)で、訪問看護なども含めてこれ以上の金額はかかりません。

一方、パターン②においては基本となる金額が上記の物であり、これに緊急訪問や物資等を使用した際にはその分の費用が加算されることとなります。パターン①は便宜上、毎日診療を行っているという費用となっています。

既にご自宅が持ち家の場合には追加での費用はかかりませんが、ローンや賃貸の場合には家賃などが実際にはかかってきます。

<施設>

施設は民間型、公共型と別れており、金額もサービスも様々です。終末期医療、特に看取りまで対応できるかどうかについても大きく異なります(表3(シニアのあんしん相談室))。

表3
表3 老人ホーム・介護施設の比較

施設においても訪問診療を必要とするため、訪問診療の金額が医療費としてかかる上に、施設に対して支払う費用や入居時の費用がかかる計算になります。訪問診療の費用は入居する施設および訪問診療を行う医療施設の施設基準(施設の規模や実績により算定可能な点数が異なります)により変動するためこの金額も多少変動します。

訪問診療を行う必要があるということで在宅同様2通りのパターンになります。在宅との差は入居時の費用、食費、施設の月額利用料が加わるということになります。

パターン①の場合
■在宅がん医療総合診療料 1日約1500点(施設により異なる)×30日=45,000点
・訪問看護指示料 300点(3,000円)
・居宅療養管理指導料 590単位(5,900円)
450,000円+3000円+5900円=458,900円
1割負担で45,890円
合計費用:医療費45,890円+食事45,000円+入居時費用100万円(仮定)+施設月額20万円(仮定)=1,290,890円

パターン②の場合
・施設入居時医学総合管理料強化型以外 1人 別に定める状態の患者 月3300点
・在宅患者訪問診療料 888点×4回=3,552点
・在宅酸素療法指導管理料 その他 2400点
・在宅酸素療法材料加算 その他の場合100点
・酸素ボンベ 携帯用酸素ボンベ以外 3950点
・酸素濃縮装置加算 4000点
・呼吸同調式デマンドバルブ加算 300点
・訪問看護指示書 300点
・居宅療養管理指導料 590単位
・訪問看護5550円×週3回×4=66,600円
■3300点+3552点+2400点+100点+3950点+4000点+300点+300点+590単位=18492点
184,920円+66,600円=251,520円 
1割負担の場合25,152円
合計費用:医療費25,152円+食事45,000円+入居時費用100万円(仮定)+施設月額20万円(仮定)=1,270,152円

施設の場合にかかる費用のうち、医療費自体は自宅における訪問診療とほぼ同様となりますが、入居する施設によって費用が大きく異なります。初期費用が必要となるケースもみられます。高額であれば終末期医療に対応できるかというとそうとも決まっておらず、立地、部屋の大きさなどによって金額は異なっていると考えてよいでしょう。

まとめ

今回は各施設における金額の比較を行いました(まとめたものを表4に示しました)。

表4
表4 各施設間の費用まとめ

病態によっても大きく異なりますが、終末期にはどうしても多くの医療資源を必要とし、費用がかかります。病院や施設入所は実は医療費以外に大きな金額を必要とし、単純な費用の面からすると自宅での療養が最も負担が軽いと言えます。

一方で費用とサービスの充実度は必ずしも比例関係にあるわけでは無く、一律に決められることではありません。特に終末期には個人個人の生き方に対する考え方が影響し、重要と考えることはそれぞれで大きく異なってきます。

全てをかなえることはできないとしても、無理の無い範囲でより良い選択を行っていくことが重要です。金額面は分かりにくいところがあります。こちらの記事をご参考に、より、その人らしい生き方を全うできる場所を探していただければ幸いです。

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